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「クレイ様……!」
やはりクレイ様はすごい。昔も今も、困った時はいつも助けてくれる。
一人感動している間に、国王陛下は私からクレイ様に視線を向けた。
「ペンゼルトン公爵よ」
「な、何でしょうか……」
「……くくく。そなたがそのような殊勝なことを言うようになるとはな」
「う……それは」
「よい。その気持ちを大切にしなさい」
「……はい」
(?)
国王陛下が突然笑いだしたので、どうなるかとハラハラしたし、二人の会話の意味はよく分からなかった。
でも何事もなく終わってよかったと一人ホッとしていたら、陛下がそっと私の耳元で囁いた。
「どうか皆に手を振ってくれないか」
「っ!」
「もちろん悪いようにはしないと約束しよう。そうしなければ、わしはそなたの夫に叱られてしまうからな」
(わ、私の夫……!)
自分で妻だと名乗っていたのに、自分以外の人からクレイ様が夫だと言われると、なんだか変な感じがしてドキドキする。どうしてドキドキするのかは分からない。
「……しょ、承知しました」
私はその場で国王陛下に言われた通りに手を振る。すると会場からは割れんばかりの歓声があがった。
「皆の者!今日この場で、二百年ぶりとなる聖女が誕生した!ともにこの素晴らしい日を祝おうではないか!」
「「「「「わぁーーー!」」」」」
(ひっ!)
あまりの大歓声に、もしかして早まってしまったのでは?とそんな考えが頭を過った。
ヴィード侯爵と偽聖女の企てを阻止するために、今回自身の素性を明かすことを決めたが、まったく不安がないとは言えない。
ただ後悔はしていない。私は自分のため、家族のため、そしてクレイ様のためにこの選択をしたのだから。
(え、笑顔で手を振らないと……)
社交界に参加するのは初めてで、分からないことがまだまだあるが、ここは笑顔でいるべきだということはさすがに分かる。だから何とか笑顔を作ろうとしていると……
「大丈夫だ」
「えっ?」
クレイ様がそっと私のもう片方の手を握ってくれる。そしてこう言ってくれたのだ。
「私がそばにいる」
これからのことはまだ誰にも分からない。今から不安になるだけ無駄だ。もしも不安なことが起こったら、その時立ち止まって考えればいい。
檀上からは家族の姿も見える。それに私の横には一番心強い味方がいる。私はもう一人ではないのだ。
「……はい!」
握ってくれた手を握り返す。もう片方の手は振り続けたままで。
そしてこの日この出来事は、長く後世に伝え続けられることになる。