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「……お前、何か隠しているな?」
「!」
「そもそも本当に使用人か?たしかにおかしいとは思ったんだ。あいつから使用人を雇ったなんて話聞いてないからな。それに本当に使用人なら、私を前にして布を被っているなどあり得ない」
「そ、それは」
「……やっぱり怪しい。今すぐその布を外すんだ!」
男性は私が頭から被っている布を掴んだ。
「きゃっ!」
私は必死に抵抗するが、男性の力には敵わない。
(でもバレるわけにはいかないのよ……!)
私はありったけの力を振り絞る。
「は、放してくださいっ!」
「はっ!抵抗するってことは何か疚しいことがあるんだろう?お前こそその手を放すんだ!」
「し、紳士にあるまじき行為ですっ!」
「素性の知れないやつに紳士的に振る舞う必要などない!」
「~~っ!えいっ!」
「うわっ!」
渾身の力を発揮し、何とか布を死守することに成功した。
(よ、よかった……って、ひとまずここから逃げないと!)
このままここに留まるのは危険すぎる。今のはたまたま運が良かっただけだ。
私は急いでこの場を離れようと、後ろを向いて走り出そうとしたその時……
――ヒュウッ
突然、一陣の風が吹いた。
「「えっ」」
何かが空へと飛んでいくのが見える。
誰かの驚く声と自分の声が重なったような気がしたが、そんなこと気にしている場合ではない。
(う、嘘……)
おそらく空を飛んでいった何かは、先ほどまで私が頭から被っていたもの。なんとか死守したというのに……
必死に隠そうとしていた髪の毛が露になってしまった。今さら手で隠そうにも手遅れだし、そもそも隠しきれるわけがない。
(何がいい一日になりそうよ……。私のバカ!)
私はひどく後悔した。どうしてあの時薬を飲んでおかなかったのかと。あの時めんどくさらずにちゃんと飲んでいれば、こんなことにはならなかったのに。
二十二年もの間、家族以外には知られないように隠し続けてきた私の秘密。その秘密をまったく面識のない人、しかも貴族に見られてしまった。