48 アレクシス
「な、なんだ……っ、アイラ王女……?」
そこにいたのは銀色の髪ではなく、金色の髪をしたアイラ王女だった。
「髪の色が……」
「な、何よこれ!?なんで色が元に戻ってるのよ!今日一日は戻らないって言ってたじゃない!ねぇちょっとどうなっているのよ!ヴィード侯爵!」
アイラ王女はおそらく混乱しているのだろう。私だってまだ混乱している。だけど今の王女の発言だけは聞き捨てならない。私はとっさに叫んだ。
「衛兵!この二人を捕えろ!」
「なっ!は、離しなさい!私が誰だか分かっているの!?」
「わ、私は無関係だ!私は騙されたんだ!」
アイラ王女とヴィード侯爵は、衛兵によってあっという間に拘束されていった。
私は暴れる二人から視線を外し、ペンゼルトン公爵夫人に視線を向ける。
彼女のそばにはクレイが寄り添っていた。
(クレイはこうなることを……いや、彼女が本物の聖女であることを知っていたのか)
開国祭の直前に、警備について進言してきたのはそのためかとようやく理解できた。クレイは壇上のすぐ近くに、衛兵を配置してほしいと言ってきたのだ。
本来衛兵は、扉や窓といった場所にしか配置しない。けれどあまりにクレイが表情が真剣なものだったから進言を受け入れたが、まさかこんな結末になるとは思ってもいなかった。
会場はいまだに騒然としている。
当然だ。本物だと名乗りをあげた者は偽物で、これまで存在すら知られていなかった者が本物の聖女であったのだから。
早くこの場を納めなければ。ようやくこの状況を理解した私は、急いで口を開こうとすると……
「静粛に」
威厳に満ちた声が、会場中に響いたのだ。
(まさか、この声は……)
私は振り返った。
「ち、父上……」
振り向いた先には、先ほどまでの弱った姿などではなく、堂々と力強く立つ父の姿があったのだった。