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「えっ!?お、王家?」
公爵邸で生活するようになってからは多少勉強しているが、これまで二十何年も貴族社会と無縁の生活を送ってきたので、まだまだ知らないことの方が多い。クレイ様の口ぶりや会場の反応からして、紅い瞳が隣国王家の証であることは有名な話らしい。
「……それに髪の色は違うが、あの顔は間違いなくアイラ王女だ」
「アイラ王女……」
その名前はどこかで聞いたことがある。
(えっとたしか……)
「……あなたに縁談を申し込んだ理由の相手だ」
「ああ!そうでしたね……って、あら?でもその方はたしかご結婚されたはずでは?」
「間違いなくそのはずなんだが……」
「クレイ様ぁ~!」
「「!」」
どうやらいつの間にかアイラ王女は、私たちのいる場所のすぐ近くまで来ていたようだ。ニコニコと笑顔でクレイ様に手を振っている。
近くで見ると本当に綺麗な人だ。体型も出るところは出ている羨ましい体型をしている。ヴェールを被っているので気づかれないだろうが、そっと自分の体を見下ろしたのは秘密だ。
そうこうしているうちに、アイラ王女が壇上に上がった。これから始まる、そう思ったのになぜかアイラ王女は王太子殿下の前を通り過ぎ、私たちのところ、いやクレイ様の前にやって来た。
「クレイ様!この日をずっと待っておりました!」
そして人目も憚らず、突然抱きついたのだ。
「なっ!や、やめろ!」
「ああ!ようやく愛し合う二人が結ばれるのですね!」
「は!?あなたは何を言って」
「もうクレイ様ったら!恥ずかしがっちゃって……」
「は、はなしてくれ!」
(うわぁ……)
これと似たようなやり取りは、小説で何度も読んだことがある。その時はすごい積極的な女性だなぁくらいの感想で、特に否定的な感情は持っていなかった。だけどこうして実際に目の前で見ると、不快感がすごい。クレイ様があれだけ嫌がっているのに気づかないなんて。
(そ、それに、クレイ様は私の旦那様なのに……!)
「ふ、フローリア!?」
どうしてだろう。気づけば私は手を伸ばし、クレイ様の腕を取っていた。
「クレイ様は私の旦那様です!」




