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「さぁ、共に歴史的瞬間をこの目に残に焼き付けようではないか」
王太子殿下が手を上げて宣言すると同時に、会場の入り口の扉が開かれた。皆の視線が一斉にそちらを向く。私も皆と同じく、視線を入り口へと向ける。
するとそこには、一人の女性が立っていた。
遠くてよくは見えないが、その女性は純白の衣装を身に纏っている。それによほど自信があるのか、とても堂々とした立ち姿だ。
(どんな人なんだろう……)
自分が聖女である以上、あの女性は間違いなく偽者だ。聖女を騙るなどこの国では重罪に等しい行為であるが、そのことについてはどう考えているのだろうか。
「っ!」
(……今、目が合った?)
まだだいぶ距離もあるし、私はヴェールを被っている。気のせいかもしれない。だけど一瞬だけど、私を見たような気がしたのだ。
「……どうかしたか?」
「あ……い、いえ、あの人すごく堂々としているなって」
「ああ。国中の人間を欺いているというのにな。まぁそれだけバレないという自信があるんだろう」
クレイ様とそんな会話をしていると、偽聖女との距離が徐々に近づいてきた。先程は遠くてよく分からなかったが、たしかに銀髪だ。それに紅色の瞳がすごく印象的で……
「なっ!?あの目の色……おい!アレク!あれはどういうことだ!」
「……私だって知りたいさ。ヴィード侯爵が当日の楽しみだとは言っていたが……まさかこういうことだとはな」
突然驚きの声を上げたかと思うと、クレイ様は近くにいた王太子殿下に詰め寄っていく。それに対し王太子殿下も、予想外だと言わんばかりの反応だ。目の色が、と言っていたが、二人とも一体どうしたのだろうか。
「えっと……クレイ様。紅の瞳だと何か問題でもあるのですか?すごく綺麗だとは思いますが……」
私は純粋な疑問を抱いた。会場もざわついているが、瞳の色はそんなに気にすることなのかと。しかし次のクレイ様の発言を聞いて驚くことになる。
「……そうか。あなたはまだ知らなかったな。紅の瞳というのは隣国の王家の血筋にだけ現れる特徴なんだ」




