41 ヴィード侯爵
『王太子殿下、王太子妃殿下のご入場です』
王太子夫妻がパーティー会場に入り、その次に王弟夫妻が入場してきた。そしてその次は……
「……おや?」
次に入場してきたのはペンゼルトン公爵だったが、公爵はベールを被った女性をエスコートしている。ベールを被っているので顔も髪も分からないが、公の場でエスコートするくらいなのだからあれがあの孤児の娘なのだろう。だがこれまで嫁いでから一度も社交界に参加していなかったのに、どういう風の吹きまわしなのか。この後この場で聖女との婚姻が発表されるというのに、離婚する妻をわざわざこの場に連れてくるなど公爵は一体何を考えているのだろうか。
会場にいる他の参加者たちも妻を同伴して現れた公爵に驚いているようだ。
ペンゼルトン公爵夫妻の入場が終わると、これで成年の王位継承権を持つものがすべて揃った。第一王子と第二王子はまだ未成年なので今日この場にはいない。
『国王陛下、王妃陛下のご入場です』
入り口がすべて開かれると、そこから国王夫妻が入場してきた。国王は例の秘薬が効いているようで見るからに顔色が悪い。
おそらくあの様子なら、本来は参加を見合わせただろう。だが無理をしてでも参加したのは、聖女の力を受けるため。私が聖女の力を受ける場はここでと指定したからだ。
私の思いどおりに国王が動いている姿を見るのはすごくいい気分である。それにあんな弱った姿などなんと滑稽なことか。王家の人間もその周囲にいる人間も、誰一人として国王の不調が毒のせいであることに気づかず、病気だと信じている今のこの状況がとてつもなく愉快だ。
「くくく……」
(どうせ聖女の力といっても、ただ解毒剤を吸引するだけなんだがな)
聖女は治癒能力を使う時に光りを纏うと文献には記されている。だからあの娘には強い光を発する魔道具の腕輪を着けさせている。力を使うふりをして腕輪を光らせ、その光で周囲の目が眩んだ隙に解毒剤を国王に吸わせる手筈だ。
解毒剤には速効性があるので、すぐに国王の体調はよくなるだろう。その様子を直接目の前で見てしまえば、誰もが聖女の力を認めるしかなくなるだろう。そうすれば私の勝ちだ。
もちろんこの手が使えるのはこの一回だということは分かっている。だけど聖女にさえなってしまえば後はどうとでもなるのだ。それこそが権力というものなのだから。
体調の悪い国王に代わり、王太子が口を開いた。
「今日はよく集まってくれた。感謝する。パーティーを始める前に皆も噂で聞いただろうが、この度我が国に二百年ぶりに聖女が現れた。これは非常にめでたいことだ!」
王太子の発言に、会場は自然と拍手が起こった。当然だ。聖女が現れたというのは国にとってこれ以上ない慶事。喜ばない人間などいないのだ。
「そして今日この場で、聖女がその神秘の力を披露してくださる」
王太子のこの発言に会場がざわついた。会場にいるものはみな、聖女の姿を披露するだけだと思っていたのだろう。それがこの場で聖女の力を生で見ることが出きるなど、誰も考えていなかったに違いない。
そして扉が開かれた。
「……ついにこの時が来た」
いよいよだ。
もうすぐ長年の野望が叶う。
まもなく私の時代が始まるのだ。




