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「――しばらくして母の出産が終わると、生まれた子どもを渡すようにと迫られたそうです。そしてそれを拒否すると次は金を要求してきました。金を払わないのなら、養子縁組の解消と母が孤児であることをバラすぞと脅してきたのです。養子縁組を解消されて困るのはこちら。両親にはお金を払うしか選択肢がありませんでした。それからは私たちが飢えないギリギリのところまでお金を要求してくるようになったのです」
「そんなことが……」
「それにあとから分かったのですが、司祭とヴィード侯爵は裏で繋がっていたんです」
母は十七歳になったら、どこかの金持ちの家に売られる予定だったらしい。しかしたまたま母は、貴族である父と恋仲になっていた。
そこでヴィード侯爵と司祭は、伯爵家から金を搾り取ることを思いついたのだ。当時の伯爵家は、どちらかといえば裕福な家だったそうだ。しかし両親を事故で亡くし、若くして爵位を継いだ父はまだまだ未熟だった。だから侯爵たちの思惑に気づかずに、愛する人と結ばれる嬉しさから、怪しむこともなく侯爵の手を取ってしまったのだ。
「結局領民に迷惑をかける結果になってしまったと両親はとても後悔していました。離婚も考えたそうですが、そうすれば今度は無理やり子どもを奪われるかもしれない。そう思うと怖くて離婚もできなかったそうです」
実際に私が五歳の時に一度連れ去られそうになったことがある。それは私の五歳の誕生日のこと。朝、いつも通り眠りから目を覚ますと、私の髪は亜麻色から銀色へと変わっていたのだ。
「その日は初めて町に連れて行ってくれると約束した日でした。それまではもしかしたら連れ去られるのではという恐怖からほとんど家から出してもらえなかったんです。だからすごく楽しみにしていたんですが、ちょうどその日に髪の色が変わってしまって……」
私の姿を見た母が、ひどく驚いていたことを今でも覚えている。そのあと母はすぐに戻るから家から絶対出ないこと、外套をかぶって待っているようにと言って、家を出て行った。
母が家から出て行ったのは、髪色を変える薬を作るため。母は気が気じゃなかっただろう。
だけど私は早く町に行きたくて、五歳になったしと、勝手に家から出てしまったのだ。
当然一人で出歩いてる子どもなど格好の標的なわけで。たまたまなのかヴィード侯爵の脅しなのかは分からないが、知らない男に連れ去られそうになったのだ。
逃げようと抵抗しても大の男に腕を捕まれては逃げることもできず、もうダメだと思っていた。
そんな時に碧の瞳の男の子、幼い頃のクレイ様が助けてくれたのだ。




