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開国祭とは、年に一度開かれる王家主催のパーティーのことだ。開国祭には国内すべての貴族が参加する決まりとなっていて、私の両親も開国祭だけには毎年参加していた。
そんな場で聖女を名乗る者が陛下の病気を治したとすれば、陛下でさえもその者に頭が上がらなくなることは容易に想像できる。
それに聖女は信仰の対象だ。もしもその事実が国中に知られれば、確実に国王陛下よりも権力を得ることになるだろう。
「……それは危険ですね」
「ああ、そうなんだ。もちろん王家もその危険性は分かっている。だけどやはり陛下の命には変えられないと受け入れることにしたそうだ」
「っ……」
つくづくあの男のやり方には反吐が出る。人の命をなんだと思っているのか。
「それと、もう一つ。今の時点で分かっていることがある。……聖女は王位継承権を持つ者と婚姻することになるということ」
「……王位継承権?」
(王家の人間ではなく、王位継承権を持つ者?)
その言葉が意味することとは一体……
「今現在、王位継承権を持つ者は五人いる。まずは王太子殿下。王位継承権一位である王太子殿下が聖女の婚姻相手として一番相応しいが、殿下にはすでに子が三人いる。今さら妃殿下と離婚するのは現実的ではない。二位の王弟殿下もそうだ」
たしかに子どもがいるのに、聖女が現れたからといって離婚するのは違う。
「そして三位と四位には王太子殿下の息子である第一王子と第二王子がいるが、彼らはまだどちらも十歳にも満たない。今回現れた聖女は年齢が二十五歳だそうだ。さすがに年齢的に釣り合わない」
何だか嫌な予感がする。聞きたくない。だけど聞かないわけにもいかない。
「じゃ、じゃあ一体誰が……」
「……私だ」
「あ……」
そうだ。どうして忘れていたのか。クレイ様のお母様は国王陛下の妹君。クレイ様は公爵でありながらも、正統な王家の血を受け継ぐ御方なのだ。
「もしも王家が聖女だと認めれば、王位継承権五位である私がその者と婚姻することになるだろう」
「で、でもクレイ様は結婚して」
「……私たちにはまだ子どもがいない」
「そ、れは……」
私たちは結婚して十年が経つが、子どもはいない。だけどそれは当然のこと。私たちは夫婦であって夫婦ではなかったのだから。