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「……」
自然と手に力が入る。もしかしたら私が偽物なのではという考えは、あの男の名前を聞いた途端、霧散して消えた。
「……君の前であまり言いたくはないが、あの男は信用ならない。きっと何かを企んでいる、そんな気がするんだ」
クレイ様の言う通りだと思う。あの男がなんの利益もなしに、後見人になるわけがない。母の養父になった時のように……
「……リア?フローリア!」
「っ、あ……」
「急に黙り込んでどうかしたか?どこか具合でも」
昔のことを思い出していただけなのに、どうやら心配をかけてしまったようだ。
「い、いえ、私は元気です!ちょっと考え事をしていただけで……」
「そうか?それならいいんだが……」
「はい。……あの」
「ん?どうかしたか?」
「知らないので教えてもらいたいのですが……えっと、もしもですよ?その聖女が正式に王家に認められたらどうなるんですか?」
私はこれまで聖女という存在から目を背けていた。人々が聖女の話をしていても、私には無関係だと言わんばかりに。
私もヴィード侯爵は怪しいと思う。だけど私は聖女について何も知らないのだ。
「最後に聖女がいたとされているのは二百年も前こと。だから私もどんな影響が出てくるのかは正確には分からないんだ」
「そうなんですね」
王太子殿下の従兄弟であるクレイ様がそう言うのであれば、本当にそうなのだろう。
「でも分かっていることもある。もしも聖女と認められれば、聖女には王族並みの権力が与えられるだろう。下手すれば国王陛下以上の権力を持つ可能性がある」
「そ、そんなにですか?」
「ああ。ちょうど今はタイミングがよくないんだ。国王陛下の体調が悪いことは知っているだろう?」
「はい」
「少しずつよくなっていたんだが、ここ最近また体調が悪くなったらしいんだ」
「そんな……」
国王陛下は国民から慕われている、素晴らしい御方だ。以前から体調が悪いことは公表されてはいたけど、クレイ様の話からすると、今はだいぶ体調が悪いらしい。
「最近の話は本当に限られた人たちしか知らないはず。それなのになぜかヴィード侯爵は知っていてな。アレクから聞いた話によれば、陛下に聖女の力を受けてみないかと提案してきたそうだ」
「聖女の力……」
「まぁ要するに聖女の治癒能力で陛下を治してあげますよ、ということだ。国王陛下に対してそのような発言など無礼にもほどがあるが、陛下の病状がよくなるのであればそれに越したことはないし、国民も陛下の回復を願っている。だから王家はヴィード侯爵の提案を受け入れることにしたらしいが、その聖女の力を披露するのは開国祭の場でと決まったらしい」




