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お飾りの公爵夫人は夫の初恋でした  作者: Na20


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30/52

30 クレイ

 

「でも奥さんとは離婚するんじゃなかったのか?それなのにどうしてここに連れてきたんだ?」



 当然の疑問だ。アレクは私が結婚した理由を知っている。だから不思議に思っただろう。離婚するつもりであれば、わざわざここに彼女を連れてくる必要などないから。

 だけど私は彼女と離婚するつもりはない。なぜなら彼女こそが、私が長年探し続けていた女性だからだ。



「いや、彼女と離婚するつもりはない。これからも私の妻は彼女だけだ」



 ここは下手に嘘をついて誤魔化すよりも、事実を伝えた方がいい。もちろんすべてを伝えるつもりはないが。



「へぇ。一体どんな心境の変化があったのかは気になるところだな」


「……」



 ここは下手に口を開かずに待つ。そして相手の出方を見てから……



「……まぁいいさ」


「え?」


「私は最初からいるかも分からない聖女を追い求めるよりも、今の奥さんを大切にした方が何倍もいいと思っていたからね」


「そう、なのか……?」



 アレクがそう思っているなんて初めて知った。



「当たり前だろう?それにクレイだってもう若くないんだ。そろそろ跡継ぎのことだって真剣に考えた方がいい」


「うっ……」



 跡継ぎ……。貴族として重要な義務のひとつであるが、これまでの私はいつか必要な時が来たら、親戚から養子をとろうと考えていた。

 だけど彼女との新しい関係を築いていこうとしている今、できることなら彼女との子どもがほしい。もちろん自分の都合いい望みだということは分かっている。彼女が望まないのであれば、これまで通り親戚から養子をとるつもりだ。



「まぁ今日は顔を見に来ただけだしそろそろ帰るよ。次に来る時はちゃんと紹介してくれよな?」


「……次に来るときは先に連絡をくれ」


「クレイもな」


「うっ……わかった」


「わかればよろしい。じゃあまたな」



 本当に顔を見に来ただけのようで、アレクはさっさと帰っていった。



「ふぅ……」



 あのタイミングでアレクが現れた時はどうなることかと焦ったが、なんとか無事に収まることができたのはよかった。

 ただ考えなくてはならないことはまだたくさんある。ここで気を抜くわけにはいかない。すべてはまだ始まったばかりなのだから。



「……これから、か」



 一人になった部屋で、私はソファに背を預けながらひとりごちるのだった。

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