28 クレイ
「それでどうだったんだい?」
執務室の扉を開けた瞬間、そんな言葉が飛んできた。
……誰だ。この部屋にこの男を入れたのは。
私は大きくため息をついた。
「はぁ……ルカ」
「……あーいやぁ、殿下がどうしてもって言うから」
「そこは私の側近としてちゃんと止めろ。何のために応接室があると思ってるんだ」
私は自身の側近であるルカを睨むが……
「まぁまぁ。私がどうしてもって言ったせいだから、ルカを責めないでやってくれ」
「殿下~!」
この男はいつもこうだ。
「……アレク」
「まぁそう怒るなって。ちゃんと大人しく待ってただろう?それと話も上手くまとまったみたいでよかったな!」
この男にこれ以上言っても仕方がない。それならここはもう本題に入ることにしよう。
「……それで?今日は何か用でもあるのか?」
「え?用なんてないよ?」
「はっ?」
「ほら、この前言ったじゃないか。今度はこっちから顔を出しにいくよって」
言った。たしかに言っていたが、こんな短期間で本当に来るとは普通思わない。
「……お前はこの国の王太子なんだぞ?そんなんでいいのか?」
「大丈夫さ。最近は父の体調も安定しているからね」
「……それはよかった」
アレクの父親というのは、国王陛下のことだ。ここ数年は体調を崩すことが多くなってきていて、貴族のたちの間では、そろそろ王太子に王位を譲るのではと囁かれている。
「まぁ正直なところ、少しずつ悪くはなってきているんだけどね。ただこればかりは歳だから仕方ないと言えばそうなんだけどさ」
「そうだな……」
「あーあ。クレイの言う聖女が本当にいたらいいのになー」
「っ」
アレクの口振りからして、私が昔見たという銀髪の少女の話を信じていないことが分かる。本当に存在していれば、二十年以上も見つからないはずがない。口に出さないだけで、きっと私の見間違いだと思っているはず。
今の何気ない言葉も、そう思っているからこそ出た言葉なのだろう。それ自体は構わない。ただ私は聖女という言葉を聞いて、ドキリとした。




