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「っ……」
「あっ!も、もちろんお気持ちは嬉しいですよ?でも、その……私、いい歳して恥ずかしいのですが、そういった感情がよく分からないんです。これまでの人生はそういった感情とは縁のない生活だったものですから」
「そ、れは……」
「公爵様の妻になりたい人はたくさんいると思うんです。だから同じ気持ちを返せない私が、公爵様の妻でいていいのかなって……」
公爵様を大切に思ってくれる人が側にいた方がいい。その方が幸せに決まっている。そう思って発言したのだけれど……
「私は君がいい。君じゃなくちゃダメなんだ!」
「こ、公爵様……」
「たとえ君が私と同じ気持ちじゃなかったとしても!私は君に側にいてほしい!……自分勝手なのは分かっている。だけどどうか私の側にいてくれないか……?」
――ギュッ
「!」
一瞬だけだったが、なぜだか急に胸がギュッと締め付けられたような気がした。
(何、今の……?)
今のは一体何だったのだろう。考えてみても、自分のことのはずなのに全然わからなかい。
「ダメ、だろうか……」
公爵様の言葉にハッとする。今は分からないことを考えている場合ではなかった。すぐさま返事をしなければ。
「ダ、ダメじゃないです!その……私でいいのですか?」
「ああ。君がいいんだ」
「……わ、かりました。私でよければできる限り頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
公爵様の妻という役割が簡単なものではないことは分かっている。だけど私は覚悟を決めて嫁いできたのだ。……まぁ十年後になるとは思っていなかったが。
でもこれでようやく恩返しをすることができる。そう思うと不安よりも喜びの方が大きくなっていった。
「ありがとう!それじゃあよろしく頼む。えっと……フ、フローリア嬢」
「こ、公爵様!その呼び名はやめてください……!私はもうそんな歳じゃないです!」
私はもう二十七歳なのだ。さすがにその呼び名はきつい。
「す、すまない!ではなんて呼べばいいだろうか……」
「そうですね……ではフローリアとお呼びください。よく考えてみれば私たちは一応十年も夫婦なんですから」
「っ!ふ、夫婦……!」
「はい!……ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」
結婚して十年。
こうして新たな生活が始まったのだ。




