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 昔、知らない人に連れ去られそうになったところを助けてくれたお兄ちゃん。あの時はたくさん泣いていたから、あまり視界がはっきりしていなかった。だけど助けてくれたお兄ちゃんの目の色は今でもよく覚えている。まるで宝石のようだと幼心に思ったのだ。それにそのお兄ちゃんからもらったハンカチは今でも大切に持っていて、今だってお守り代わりにとポケットの中に入っている。



「そのあと女の子のお母さんが来てすぐにお別れになった。だけと別れ際、その女の子は私に笑って手を振ってくれたんだ。だから私も手を振ろうとしたんだけど、その時強い風が吹いてね。そうしたら女の子が被っていたフードが外れたんだ」



 それも覚えている。

 普段は外套など被っていないのに、その日だけは母から必ず被っていなさいと言われていたのだ。なぜならその日だけは、いつもの薬を飲むことができなかったから。



「ほんの一瞬のことだった。だけどずっと忘れることができなかったんだ。……光り輝く美しい銀色の髪を」


「……」



 間違いない。あの日私を助けてくれたお兄ちゃんは今、私の目の前にいるこの人だ。

 ずっとお礼を言いたいと思っていた。あの日はただ泣くだけで、きちんとお礼を言えていなかったのだ。

 まさかこうして二十年以上経ってから、再会することになるなんて思いもしなかった。そしてその人が公爵様で、しかも私の旦那様だったなんて……


 これは一体どんな巡り合わせなのか。



「……だけど私は取り返しのつかないことをしてしまった。あまりも愚かだったんだ。ずっと探し続けていた君を、十年もの間一人にさせていたんだから」


「……」


「私は君の大切な十年という時間を、私の身勝手な都合で奪ってしまった。到底許されることではないことは分かっている。だけどどうか謝らせてほしい」



 そう言うと公爵様は立ち上がり、私に頭を下げた。



「本当に申し訳なかった」


「公爵様……」



 たしかにこれは、普通であれば怒ってもいいのかもしれない。

 もちろん驚きや戸惑いはある。だけど今の公爵様の話を聞いた私に、怒りの感情はまったくなかった。


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