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『……私はどうしても想いを寄せる女性と結ばれたかったんだ』
そこまでして結ばれたかった相手とは一体どんな女性なのか。ロマンス小説さながらの状況に興奮した私は、失礼も承知で聞いてしまったのだ。
「その……、公爵様が想いを寄せる女性ってどんな人なんですか?」
「え。そ、それはどういう……」
「あ、えっと、その今の言葉に変な意味は全くなくてですね!ただちょっとだけ気になったというかなんというか……」
「気になる……」
興奮していて、つい勢いで聞いてしまった私だったが、戸惑った公爵様の顔を見た途端、これはやってしまったと悟った。
「す、すみません!やっぱり失礼でしたよね。で、できれば今のは聞かなかったことに……」
そもそも私は貴族の頂点である公爵様の恋を、ロマンス小説にたとえてる時点でアウトだ。きっと公爵様も怒って……
「君なんだ」
「……へ?」
(何か今おかしな言葉が聞こえたような気が…………いや、気のせい気のせ)
「君をずっと想っていたんだ」
「……え!?わ、私……?」
「ああ」
気のせいではなかった。まさか自分が当事者だったとは予想外にも程がある。
でもわからない。なぜ公爵様は私を想っていたのか。私たちが初めて顔を合わせたのは十年前の結婚式だけだし、それにもし本当に私のことが好きだったのなら、十年も放置したりしないはず。
「な、なにか勘違いされているのでは?だって十年前の結婚式の日まで私は公爵様と面識は」
「ハンカチ」
「え?」
「昔、泣いている女の子に私の瞳によく似た色のハンカチをあげたことがあるんだ」
「碧色の……」
「多分五、六歳だったかな?その女の子はとても怖い思いをしたみたいで、涙をポロポロ溢しながら泣いていたんだ。だから慰めなくちゃと思って急いでハンカチを渡したんだけど、その時女の子と目が合ってね。薄紫色をしたすごくきれいな目だったよ」
「っ!」
公爵様の碧の瞳と目が合う。心臓がドキリとした。
(……私、この瞳を知ってる)