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「だから私が選ばれたのですね」
公爵様の口から語られたのは、私が公爵様の結婚相手に選ばれた理由。
公爵様は隣国の王女様との婚姻を避けるために、都合のいい令嬢を探していた。そして見つけたのが私だったというわけだ。
結婚適齢期にも関わらず未婚で、しかも婚約者すらいない。それに家は金に困っている状況で、まだ幼い子どももいる。それなら金さえ出せば喜んで娘を差し出す、そう思って私に縁談を持ちかけたそうだ。
「ああ。君の人生を私の都合で奪ってしまうことに罪悪感はあった。だけど私は何としてでも王女との結婚は避けたかったんだ」
そう言う公爵様の言葉からは、確固たる意志が感じられる。それならばと、気になったことを思いきって聞いてみることにした。
「どうしてそこまでして王女様との結婚を避けたかったのですか?そんなに悪い話ではないように思いますが……」
「それは……」
「公爵様?」
「……私はどうしても想いを寄せる女性と結ばれたかったんだ」
「!」
公爵様の答えに、私の心臓は高鳴った。
(嘘……そんなことって本当にあるの……?)
想いを寄せる女性と結ばれたいから王女との結婚を避けたい。けれど王女様からの縁談を避けるためには、偽りの結婚をするしか手段が残されていない。だから都合のいい娘と結婚する必要があった。王女との結婚を避けつつ、その時が来たらすぐに離婚できるようにと……
(こ、これってもしかして、小説とかでよくある身分差の恋!?それとも三角関係とか!?きゃー!)
まさか大好きなロマンス小説のような状況に、自身が関わっていようとは微塵も思っていなかった。
だってまさか公爵様が、そんな恋をしているだなんて誰が想像できようか。何でも手に入れることのできる公爵様であっても、簡単に結ばれることのできない女性。
(一体どんな女性なのかしら?き、気になる……!)
聞きたい。だけどやっぱり聞くのは失礼だろうか。でもこの流れなら聞いたら教えてくれるのでは……?そんな考えがふと頭を過った。
普段ならこんな非常識なことは考えない。平穏に生きることこそが私の望みだから。
だけどこの時の私はここ数日の心身の疲れから、判断力が弱くなっていたのかもしれない。それに先ほどの出来事が決定打となり、一種の興奮状態になっていたと思われる。
だから私はダメだと思いながらも、好奇心からつい口にしてしまったのだ。
「その女性はどんな人なんですか?」と。
しかしその好奇心によって、私はさらなる衝撃の事実を知ることになる。




