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「あなたが、ペンゼルトン公爵様……?」
「あ、いや、その!こ、これには事情があって……!」
まさか目の前にいるのが、公爵様だとは思いもしなかった。気づかなかった自分はあまりにも愚かしい。
(……ハッ!こうしている場合じゃないわ!)
私はソファから急いで立ち上がって頭を下げた。
「申し訳ございませんでしたっ!」
「えっ!?」
「公爵様だとは露知らず、大変失礼な態度をとってしまいました!」
恩人である公爵様になんてことをしてしまったのか。あの時は秘密を守るのに必死だったが、今思い返してみれば、私のとった行動は最初から最後まで無礼のオンパレード。どう考えても謝って済む話ではない。
「あ、頭を上げてくれ!」
「そういうわけにはいきません!これまでの無礼を一体どう償えばいいのか……」
「償うなんて……!そもそも君が謝ることなんて何もない!謝るべきなのは私の方だ!」
「いえ、私が!」
「いや、私だ!」
ご主人様に謝らせるなんてもってのほかだ。だからここで折れるわけには……
「よーしよし、二人とも。少し落ち着こうか?それと私がいることを忘れないでくれよ?」
「「……あ」」
謝らなくちゃという思いで頭がいっぱいだった私は、この場に王太子であるアレクシス殿下がいることを忘れていた。
「うん。私のタイミングがものすごく悪かったことは理解した。とりあえず私は他の部屋で待っているから、きちんと二人で話し合うといいよ」
「お、おい!ちょっと待……」
――パタン
アレクシス殿下は公爵様の呼び止める声を無視し、サッと部屋の扉を閉めてしまった。
「……」
「……」
突然やって来た嵐が過ぎ去り、部屋は静寂に包まれる。
(き、気まずいわね……)
お互いに先ほどまでの勢いは消え、今は非常に気まずい雰囲気だ。何か話をしなければ。そう思い口を開こうとすると、私より先に公爵様が口を開いた。
「……すまなかった」
「っ!い、いえ!私の方こそとんだ失礼を……」
「いや、私は君に嘘をついていたんだ。謝るのは私の方だ」
ここでお互いに謝りあってもまた同じことの繰り返しだ。
私も自分のしたことに対して、謝罪しなければ気は済まない。けれど今はそのタイミングではないし、ちゃんと確認しなければならないことがある。
「……あなたがペンゼルトン公爵様なのですか?」
まだきちんと聞いていない。この碧の瞳を持つ男性の名前を。
「……ああ。私の本当の名前はクレイ・ペンゼルトンだ」
「あなたが私の……」
改めて目の前の人物を見た。黒い髪に碧の瞳をした美しい男性。
自分とは違う世界の人間のように思えるこの人こそが私の旦那様、その人だったのだ。
「……少し長くなるが、どうか私の話を聞いてもらえないだろうか?」
どこか不安げな声ではあったが、碧の瞳にはたしかな決意が宿っていた。
一体どんな話なのかは分からない。だけど私も公爵様の誠意に答えなければ。そんな気持ちになった。
「……分かりました」
「っ……ありがとう」
そして公爵様は話し始めた。
「始まりは――」