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「わぁ……」



 馬車から降りた私は、目の前に広がる光景に唖然とするしかなかった。一体どこからどこまでが公爵家の敷地なのだろうか。ここはひとつの町なのでは?と勘違いしてしまいそうだ。

 建物や庭、調度品、使用人のすべてが洗練されていて、まさしく貴族の頂点にふさわしい。

 私はふと自分の姿を見下ろした。三着しかない服の中で、唯一の外出着であるラベンダー色のワンピース。自分の瞳の色と同じでお気に入りの服だが、それでもこの場所には似つかわしくはなかった。


 アレクシス様のあとを付いていく。そして私の後ろを侍女が続く。



「えっと、ここは……」



 案内されたのは応接室のようだった。どうしてこのような場所に私を連れてきたのだろう。



「あっ!す、すまない!長旅で疲れたから早く休みたかったよな?」


「いえ、そういうわけじゃなくて……その、てっきり使用人の部屋に案内されると思っていたので……」


「な、なぜ!?」



 あの日から私はこれからのことを考えていた。なんとなく心のどこかで、もうこの生活は続けられないと思っていたから。たとえこの人が私との約束を守ってくれたとしても、私の人生は大きく変わる、そんな予感がした。

 ではどんな人生になるのかと考えた時に一番あり得そうで、身の丈に合っているなと思ったのが……



「えっ?私を使用人とするためにここに連れて来てくれたのですよね?」


「違う!」



 どうやら私の人生予想は違っていたらしい。しかしそれなら私はどうして公爵邸に連れてこられたのか。



「え……ではどうして私をここに?そもそもご主人様はこのことをご存じなんですか?」


「っ、も、もちろん公爵様には許可はもらっている!だから心配は」


「じゃあ私はここで何をすればいいのですか?」


「何をって……そ、れは……」



 急に口ごもってしまったアレクシス様。私は何かおかしなことでも言ってしまったのだろうか。



「アレクシス様?」


「……本当は君に謝らなくてはいけないことがあるんだ」


「謝る……?」



 お飾りの公爵夫人である私とは違い、この人はご主人様の従兄弟なのだから、産まれた時から高貴な身分なはず。そんな人が私に謝ることなどあるわけないと思うのだが……



「……ああ。少し長くなるが話を聞いてもらえないだろうか」



 しかし嘘を言っているような雰囲気ではない。どうやら本当に謝ることがあるようだ。それなら私もしっかり聞くべきだと、改めて姿勢を正した。



「……わかりました」


「ありがとう。……実は」



 彼が口を開こうとした瞬間だった。



 ――ドタドタドタドタ



『お、お待ちください!』



 誰かの足音と、呼び止める声が聞こえてきたのは。そして、



 ――ガチャ



「やぁ、クレイ!今日は私から来てやったぞ!」


「なっ!?」


「え?」



 突然扉が開かれると、一人の男性が現れた。マナーに詳しくない私でも、これがマナー違反だということは分かる。けれどあまりにも突然の出来事だったので、体は動かないし声も出ない。

 そしてさらにこの状況で、信じられない言葉を耳にすることになった。



「アレクシス殿下!お待ちください!」



 あとから遅れて部屋へとやって来た男性。この屋敷の使用人だろうか。どこかあの侍女と似ている。

 その使用人が言った言葉に私は戸惑った。



(え?どういうこと?同じ名前?それにアレクシス殿()()って…………嘘、まさか)



「お、王太子殿下……?」


「ん?おや、初めて見る顔だね。クレイ、この女性はどちらのご令嬢なんだい?」


「おい!お前はなんてことを……!」


「っ!クレイって……」



 どうして気づかなかったのだろうか。瞳の色が同じであると、そこまでは気づいていたはずなのに……。あの人があの場に来るわけがないと、その可能性を無意識に排除してしまっていた。


 この国でただ一人の公爵であり、王位継承権を持つ唯一無二の存在。

 そして書類上、私の夫である人物……

 碧の瞳をした彼こそがクレイ・ペンゼルトン公爵、その人だったのだ。


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