20
あれから数日後。私は今、馬車に揺られている。
馬車に乗るのは、結婚してあの家に連れてこられた時以来十年ぶりだ。
車内には私を含め三人乗っているが、誰も口を開かない。私の隣にはあの日から側を離れない侍女が、そして向かい側にはご主人様の従兄弟だという男性が座っている。私はチラリと向かい側に座る人物を盗み見た。
金の髪にどこか懐かしさを覚える碧い瞳、それに均整のとれた体格をしている。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。間違いなくこの人はモテる。恋愛に興味のない私でも、この人はモテるだろうなと分かるほどの美しい容姿をしているのだから。あまりにも次元が違いすぎて、自分と同じ人間なのかさえ疑ってしまいそうだ。
「だ、大丈夫か!?もしかしてどこか具合でも……」
気づかれないように見ていたのに、うっかりため息で気づかれてしまった。本当に人間ですか?なんて聞けるわけもない。
「す、すみません!ちょっとボーッとしちゃってただけなんです」
「本当か?」
「は、はい!」
「それならよかった……。あ、でもなにかあれば遠慮しないですぐに言ってくれ!」
「……分かりました」
この人は私が名ばかりの公爵夫人だと知っているのに、どうしてこんなに気を遣ってくれるのだろうか。分からない。それにあの時も、なぜか私の顔を見て泣いていたし……
丁寧に接してくれるのは、私が銀の髪を持っているから?でもあれからは一度もその話はしてこない。それにあの碧い瞳からは嫌な感じはしないし、むしろ好意的に見られているような気もする。
もちろん私はこの人のことを全く知らない。それなのにどうしてだか、あの碧色の瞳に見つめられると、なぜか胸がギュッと締め付けられるのだ。




