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選んだ茶色のワンピースに袖を通し、長い髪を邪魔にならないように一つにまとめれば準備完了だ。
「これで終わりっと。あとは……」
チラリとテーブルの上に目を向ける。そこに置いてあるのは、水色の液体が入った小瓶だ。
「……まぁ、買い物に行く前に飲めばいいよね?」
誰かに言い訳する必要もないのに、自然と言葉が漏れ出ていた。
これは私が幼い頃から飲んでいる薬だ。毎日飲んでいるのだが、二十年以上経った今でも、この味には慣れることができていない。
それでもこの薬を毎日飲むのは、母との約束だから飲まないという選択肢はない。ないのだが、こんなに気持ちのいい朝にはどうしても飲む気分にはなれず……
結局後回しにしてしまったが、どうせ飲めばすぐに効果が出る。ここは滅多に人がやって来る場所ではないし、それなら街へ行く前に飲めば問題ないだろう。
パンと昨夜の残ったスープで軽く朝食を済ませると、先ほど決めた予定通りに洗濯を始める。
桶に水を張って、服を洗う。
洗いながらふと空を見上げれば、今日は雲一つない晴天だ。この天気ならすぐに洗濯物も乾くだろう。
「次は掃除を……って、あら?あれは……」
洗濯物は干し終わったので、次は掃除に取りかかろう。そう思った矢先、こちらに向かってくる一台の馬車の存在に気がついた。
この先には広大な森が広がるだけで、馬車で向かうような場所はない。それにも関わらず馬車はこちらに向かって、速度を緩めることなく進み続けている。
(道でも間違えたのかしら?)
もしかしたらあの馬車は道に迷っている内にこの家を見つけ、誰かに道を聞こうと、こちらに向かっているのかもしれない。
そんなことを頭の中で考えていると、馬車があっという間に近くにまでやってきていた。
その馬車は遠目から見ても、滅多に見かけることがないほどの立派なものだと分かる。
思わずじっと眺めていると、その立派な馬車が私の目の前で停まった。
そして次の瞬間……