18 クレイ
「くっ……」
「公爵様?」
「なぜ気づかなかったんだ……!」
「おーい?」
「くそっ……十年前に戻りたい……」
「うーん、やっぱり頭でも」
「……何か言ったか?」
「嫌だなぁ。何も言ってませんよ?」
やはりこの男はなにか失礼なことを言っているような気がする。しかし正直今は相手になどしている場合ではない。
(ルーナをあの場に残してはきたが、一刻も早く彼女をここに連れてこなければ!)
――ガターン!
急に立った勢いで椅子が倒れてしまったが、まぁいい。
「ちょっと公爵様。急に立ったら危な」
「今すぐに部屋を整えておけ」
「はい?部屋、ですか?急にどうしたんです」
「いいからつべこべ言わずにやるんだ」
「わ、分かりましたけど、一体誰の部屋を整えるんです?今さら整える必要がある部屋なんてどこにも……」
「なにを言ってるんだ。当然女主人の部屋に決まっているだろう」
「え?でもそこは」
「私は城へ行く!戻るまでに必ず整えておくようにな」
「えっ!?ちょ、ちょっと、公爵様!?」
側近が何か言っているが、急いで確認しなければならないことがある。そのため私は城へと向かうことにしたのだ。
急ぎ城へと向かった私は、まっすぐに目的地を目指した。
「アレクシス!」
「うわっ!ク、クレイ?」
「今少しいいか?」
「い、今?まぁ大丈夫だけど……」
「じゃあ人払いを頼む」
「……何か重要な話か?」
「……ああ」
「わかった。少し待っていてくれ」
そして待つこと数分。従者や護衛、文官は全員退出し、部屋には私と従兄弟のアレクシスだけとなった。
「それで?突然どうしたんだい?クレイがこうして私のところに来るなんてめずらしいな」
「……確認したいことがあるんだ」
「確認?わざわざここまで来て一体何を確認したいんだ?」
「その……」
勢いでここまで来てしまったが、どう口にすればいいのか。彼女は秘密にしてほしいと言っていた。ここで下手なことを言って、彼女の秘密がバレたら……。そんな思いが一瞬頭を過ったせいで、上手く言葉が出てこない。
「クレイ?」
アレクシスが怪訝そうに私を見ている。人払いをしてもらったのだ。今さら何でもないとは言えない。ここで躊躇すれば逆に怪しまれてしまう。
私は慎重に言葉を選びながら口を開いた。




