15
「……」
「お願いします……!」
私は必死に頭を下げ続けた。頭を下げることは大したことではない。それよりも私は今のこの生活を守りたいのだ。
思いが伝わったのか、アレクシスと名乗った男性が口を開いた。
「……わかった」
「あ……ありがとうございます!」
(よ、よかった!)
これでこの生活を守ることができる。そう思ってホッと胸を撫で下ろしたのだが……
「ルーナ」
「はい」
「きゃっ!?」
アレクシス様が誰かの名前を読んだ途端、突如としてお仕着せを着た女性が現れたのだ。あまりに突然の出来事に私は驚いて叫んでしまった。
「ルーナ。私が戻るまで必ず彼女を守れ」
「かしこまりました」
「えっ?」
「フローリア嬢!すぐに迎えに来る。だから待っていてくれ」
「え、それはどういう意味」
「必ずまた会おう……急ぎ屋敷に戻る!行け!」
「ちょ、ちょっと……!」
私が止めるまもなく、あの人は馬車に乗って帰っていってしまったのだ。よくわからない言葉と一人の使用人を残して……
◇
そして先ほどの会話に戻るのだ。
「……せっかくのいい天気だったのに」
結局今日は買い物も種蒔きもすることができなかった。やろうと思えばできたのだろうが、あんなことがあったのだ。とてもやる気が起きなかった。
「いかがされましたか?」
それに家の中に知らない人がいるこの状況が、全く落ち着けない。
「……ううん。何でもないです」
「何かございましたら何なりとお申し付けください」
「……分かったわ」
気遣ってくれているのは分かるが、何せ産まれてこのかた二十七年。名ばかりの貴族である私は平民、いやそれ以下の生活を送ってきたのだ。今さらお世話されるのはちょっと抵抗がある。できればそっとしておいてほしい。
果たしてこの状況はいつまで続くのだろうか。
「はぁ……」
私は気づかれぬよう、そっとため息をついたのだった。