1
ある国には時折、聖女という存在が現れる。
だからなのか、その国には聖女信仰が深く根付いていた。
ただ最後に聖女が現れたのは今から二百年も昔のこと……
文献によれば、聖女はありとあらゆるケガや病気を治す治癒能力を持っていたという。
そして世にも珍しい、美しく輝くシルバーの髪が聖女の証であると記されていた。
◇◇◇
――チュン、チュチュン
「ん……」
窓の外から鳥のさえずりが聞こえてくる。
「……もう、朝?」
どうやら目覚める時間が来てしまったようだ。
できればもう少し眠っていたかったが、今日はやることがたくさんある。ここで二度寝をするわけにはいかない。
「ふわぁ~……」
寝ぼけ眼を擦りながら、のそのそとベッドから起き上がる。閉じていたカーテンの隙間から差し込む光は暖かい。
よかった。今日は晴れているようだ。
私は窓へと向かい、カーテンを開ける。
するとそこには昨日の雨が嘘だったかのように、雲一つなく晴れ渡った空があった。
「う~ん!」
両腕を目一杯、空へと向かって持ち上げる。この調子なら午後には雨水も乾いて、畑に種を蒔くことができそうだ。
起きたばかりではあるが、頭の中でこれからの予定を組み立てていく。
(まずは洗濯でしょう?そのあと掃除をしてから街に買い物に行って……たしかそろそろ砂糖がなくなりそうだったわ。あと新しい小説が出てるか本屋にも行かないと)
好きなもののことを考えると、それだけでワクワクする。
(買い物から帰ったらお昼を食べて、種蒔きをして……そうだ、今日の夕食はお肉にしよう)
こうして一日の予定を立てるのが私の毎日の日課である。
一通り今日の予定を決め終えたので、さっそく朝の準備に取り掛かろうではないか。
私は目の前の窓に手を掛け、そして開けた。
開いた窓から朝の爽やかな風が部屋へと入り込み、緑色のカーテンをゆらゆらと揺らす。
「気持ちいい……」
今日はいい一日になりそう。なんの根拠もないが、そんな予感がした。
昔から私の勘はよく当たる。だからきっとこの予感も当たる気がするのだ。
「よしっ!」
そろそろ朝の支度に取りかかることにしよう。
今日は予定が詰まっているので、のんびりしている暇はない。
まずは桶に溜めた水で顔を洗い、続けて歯を磨く。
それが終われば次は着替えだ。
クローゼットの扉を開く。今日は種蒔きをする予定なので、汚れても大丈夫な服がいいだろう。クローゼットから丈夫そうな茶色のワンピースを選んだ。
……まぁ御大層に選ぶなどと言ってみたが、もっぱら畑仕事をする日はこの服だったりする。
そもそもクローゼットの中には今選んだ茶色のワンピースの他に、あと二着しか服が入っていない。だから自ずと着る服は限られてくるのだ。
あと入っているのは、大切な碧色のハンカチだけ。