#05 喧嘩
伊佐木は、Aクラスの担任として煌纏の授業を行っていた。
(御島俊・・・彼は完璧だな。晴太もかなり完璧に近い。将次はまあ多少粗いが、許容範囲内だ。)
そう言って、生徒の煌纏を見ていく。
順位が10を越したころから、煌纏の精度が下がっていった。
(『実戦』の討伐成功者は例年より多いが、質は悪いな。まったく・・・ん?)
そう言って、最後の一人を見た。
_大瀬守。自分を驚かせた存在。
彼ならきっと、煌纏も立派だと思っていたのだが・・・。
「お前は・・・全然ダメだ。逆に、なぜそれほどの効率の悪さで煌纏が続けられている? ゴリ押しにも程があるだろう。 あとで個別トレーニングだ」
「え・・・!?」
どうやら、コイツが立派なのは防御の能力だけらしい。
◆◆◆
「お前はどうなっているんだ? どうしてそれほど煌纏がヘタクソなんだ? そのままで自分の真価が引き出せていると思っているのか?」
「すいません・・・!」
僕は、伊佐木先生に説教されていた。
「だが、矯正すれば多少は良くなるはずだ。・・・もう一度、煌気を纏ってくれ」
「・・・はい」
そう言われ、僕は煌気を手に纏う。
「まず、効率が悪すぎる。相当な量の煌気を費やしているのに、煌纏しても力はBクラスの生徒と大して変わらん。均等に煌気を纏い、腕から少しも離さないという心構えを見せろ」
でも、僕はずっとそうやってきた。
その集大成が、これだった。
その後何をやっても全く良くならない僕に、伊佐木先生は言った。
「・・・なるほど分かった。お前は煌気に関して全くセンスがない。意識するだけでは足りんな。俺が叩き直す」
「ひぃ・・・!」
その言葉に、僕は短い悲鳴を出してしまった。
◆◆◆
訓練校の帰り道で、誠と出会った。
すっかり夜遅くになり、星空が煌めいている。
「守、大丈夫か? 最近はずっと伊佐木先生と個別トレーニングだろ?」
「・・・うん。だ、大丈夫・・・。」
疲れた僕を見て誠は心配してくれていた。
「・・・そうか。無理はすんなよ。」
そう言って、僕は借りているマンションの一室へ戻る。
元々は剛さん_蘭のお父さん_に拾われて部屋をもらっていたけど、今はそこも壊されてしまって、仮の住宅に住んでいたのだ。
入隊後は東京に来たので、マンションの一室を借りて生活している。
そのベッドで、僕は倒れ込んだ。
(どうしよう・・・明日起きれるかな)
最近は、ずっと煌纏の練習を続けていた。
限界まで煌気を使い切った数分後には、また特訓が再開されて休む暇もない。
でも、そのおかげで少しずつ煌気の量とコントロールが上がって来ていた気がした。
「・・・ふぅ、考えちゃだめか」
そう言って、僕は眠りについた。
◆◆◆
その日の休憩時間に僕は伊佐木先生との特訓を終え、教室に戻って来ていた。
すると、教室の中から罵声が聞こえてくる。
「お前、能力ないんだってな? 雑魚じゃねぇかよ」
声の主は、八岳家の将次君だった。
「・・・!」
相手は・・・大垣杏さん?
確か、武士の家系で刀使いなんだっけ。
「能力がないけど人は救えるって思ってるのか? バカな野郎だ。この世界は生まれた時点で全て決まるんだよ」
その言葉に、廊下にいた僕は思わず反応した。
「そんなことないよ! 能力がなくても、人は救える!」
「あ”ぁ”? 何だテメェ」
「待て、守!」
誠が制するが、もう遅かった。
「消えろォ!!! 〝穿木〟」
将次は、教室から廊下へ飛び出す。
そして、凄まじい速度の鋭い木の枝が、僕へ迫った。