収納
S級と生徒会の合同依頼。
それの準備のため、翌日は授業がなしに。何日間の留守にするかわからなかったので、荷物は多めに持って行くことにした。
そして、半日かけて荷物を用意したのだが……男性陣はともかく、女性陣の荷物は非常に多かった。
特にメル。大きなバッグが五つもあり、どれも着替えなどが大量に入っている。
サフィーもメルよりは少ないが多い。フェニアとアネルもサフィーよりは少ないがそれでも多かった。ウィルとアルフェンはカバン一つだけなのに、これではあまりにも荷重すぎる。
ウィルは、寮の談話室に置いてある荷物の山を見てため息を吐く。
「減らせ。こんなの重すぎだろ」
「だ、駄目です! 何日かかるかわからない旅ですし……着替えとか必要です」
「サフィーの意見に賛成します。野営とかもあるし、服や下着の替えは必要です!」
サフィーとメルの抗議をウィルはすっぱり無視。
ウィルはため息を吐き、キッチンで野営用の鍋やフライパン、調理器具などを箱に詰めていたアルフェンに言う。
「おい、あいつらなんとかしろ。着替えなんてしなくても死にやしないってな」
「あー……まぁそうだけど」
S級たちが乗るのは、大きな荷馬車だ。
魔人討伐の報酬を出し合い、みんなで大きな馬車を買ったのだ。学園から支給された荷馬車が小さすぎたため、即金で買える馬車がそれしかなかったという理由もある。
十人乗りで、小さいながらも二階建て、寝室もある。馬車の牽引は馬ではなくマルコシアスに引いてもらう。試しにマルコシアスに引いてもらったところ、『おいおい、軽すぎるぞ?』という感じで軽々引いていた。
荷物を置くスペースもあるが、さすがに多すぎた。
「たっだいまー!」
「ふぁぁぁ~~~……ただいまぁ」
「ただいま」
すると、レイヴィニアとニスロク。アネルが帰ってきた。
アルフェンがそちらに顔を向ける。
「おう。おかえ…………って、なんだそれ?」
「むっふっふ。ようやく見つけてきた!」
レイヴィニアが誇らしげに胸を張る。
アネルが、黒いモフモフした鳥のヒナみたいな生物を抱っこしていた。アネルはニコニコ顔でモフモフを堪能しており、フェニアたちもモフモフに釘付けだ。
レイヴィニアは、モフモフをツンツンしながら言った。
「こいつは『ディメンションスパロウ』っていう、魔帝様が呼びだした召喚獣……ああ、人間は魔獣って呼んでるな。魔獣だ。旅に出るならこいつの能力が役に立つと思って、ニスロクとうちで捕まえてきた!」
「ぼくの『能力』なら魔獣操れるしらくしょぉ~~~」
ニスロクの能力は『魔人通信』だ。
魔獣を操ることが可能で、魔人同士遠隔で会話もできるという。
アネルが一緒に行ったのは脱走しないように……だが、そんな心配は欠片もしていなかった。
「ガーネットのやつに頼まれてな。こいつがいると楽だぞ……見てろ」
「あぁっ」
レイヴィニアがアネルからディメンションスパロウを奪う。そして、置いてあった荷物にモフモフを近づけると、ディメンションスパロウの口が開き、荷物が吸い込まれてしまった。
いきなりのことで仰天する一行。
「むっふっふ。こいつの能力は『収納』っていうんだ。どんな大きなものでも吸い込んで収納する。物を出したいときはモフモフしながら命じるんだ。おい、カバン出せ」
『ぴゅるる』
レイヴィニアがモフモフすると、ディメンションスパロウは口を開け、フェニアのカバンをペッと吐きだした。
アルフェンは、ディメンションスパロウに近づいて撫でる。
「すごいな。これは役に立つぞ」
『ぴゅるる』
「いちおう、もう一匹捕まえてきた。あの、生徒会とかいう連中用に」
「ああ……まぁ、俺が届けるよ」
もう一匹はどこにいるのかと探すと、ニスロクが着ていたフード付きコートのフードの中にいた。こっちの色は黄色だった。どうも個体によって色が違うらしい。
すると、黒いディメンションスパロウはフェニアに強奪された。
「かわいぃ~♪ ねぇねぇ名前つけよ! 餌は何食べるのかな?」
「も、もふもふです! マルコシアスとどっちがモフモフかな」
「餌は雑食みたい。あ、クッキー食べるかな?」
「アネル! その役目はわたしにお任せを! 王女の命令です!」
と、構われまくっていた。
ウィルは興味なさそうにため息を吐く。だが、これで荷物問題は解決した。
ニスロクは、フードから黄色いディメンションスパロウを取り出す。
「はいこれ。餌はなんでもいいし、普段は寝てるからお世話もらくぅ~」
「わかった。伝えておくよ……とりあえず、キリアス兄さんに言うか」
黄色いディメンションスパロウを抱っこし、アルフェンは寮を出た。
◇◇◇◇◇◇
寮を出て歩いていると、すぐに後悔した。
「おい、なんだあれ」「S級……なんだあれ、ひよこか?」
「かわいい~」「黄色いモフモフ」「ペットか?」
ディメンションスパロウを抱いたアルフェンは、かなり目立っていた。
「くっ……は、恥ずかしいなこれ」
『ぴゅい?』
「……くっ、確かに可愛い」
さっさと届けようと歩いていると、ちょうどグリッツを見つけた。
買い物をしていたようで、両手がふさがっている。アルフェンはお構いなしに話しかけた。
「おーい。そこの、ちょっといいか?」
「え……あ、アルフェン・リグヴェータ!? な、なんだよ、なにか用……なんだそれ?」
「……とりあえず質問。キリアス兄さんは?」
アルフェンはグリッツの質問を無視。ディメンションスパロウをジロジロ見ていたグリッツは、アルフェンの顔を見て言う。
「キリアス先輩なら、一緒に買い出ししているよ。ここで合流するからもうすぐ来る」
「買い出し? ……ああ、お前も行くんだっけ」
「ああ。とはいっても、完全な雑用係だけどね。キリアス先輩も似たようなものさ」
「そっか……あ、そうだ。じゃあお前にも説明しておくよ」
「?」
アルフェンはディメンションスパロウの説明をした。半信半疑のグリッツの前で持っていた荷物を全て収納。モフモフしながら荷物を再び出してやる。
「……お、驚いた。これは便利だな!」
「だろ? 大量の荷物を馬車に積んで馬に苦労させるか、モフモフしながら可愛い鳥の世話をするかの二択だ。どうする?」
「もちろん世話だ」
『ぴゅい』
「……うん、世話だ!!」
グリッツはディメンションスパロウが気に入ったようだ。
渡してやると、モフモフと頭を撫でる。すると、いいタイミングでキリアスがやってきた。
「待たせたグリッツ……アルフェン?」
「お疲れ様です。兄さん」
「キリアス先輩!! 実は、このようなものをもらいまして」
グリッツはディメンションスパロウの実演をし、キリアスを驚かせた。
「なるほど。これは便利だ……あー、ありがとう、アルフェン」
「いえ。あ、世話だけはよろしくお願いします。おい、変なことに使ったりしたら怒るからな…………俺が」
「わ、わかってるよ。大事に世話するさ!」
一応、このディメンションスパロウに何かあればニスロクに伝わる。
世話はグリッツがやるだろうし、大丈夫だろう。
用事も終わり、アルフェンは帰ろうとした。
「待て。あー……その、や、約束を果たそうか」
「え?」
「飯……奢ってやる。行くぞ」
「……はい!!」
「うむ……おい、グリッツも来い。オレが奢ってやる」
「え、あ、は、はい……い、いただき、ます」
キリアスがこんなことを言うとは思ってなかったようだ。
アルフェン、キリアス、グリッツの三人は、高級購買内にある飲食店へ向かって歩きだした。




