王族との晩餐会
アルフェン、ウィル、フェニア、サフィー、アネル。そしてメルの六人は、寮の談話室でメルが話した内容を聞いて驚いていた。
話の内容は、国王ゼノベクトとの食事会だ。
国王は、純粋に魔人討伐の功労者であるS級召喚士と食事したり、話を聞いてみたいらしい。メルは断言した。国王ゼノベクトに裏などない、純粋に食事会を開きたいだけだと。
最初にウィル。
「パス」
虫を払うかのように手を振り、拒絶。
フェニアとアネルもだ。
「あ、あたしもちょっと……お、王様と食事なんて」
「あ、アタシも緊張して吐くかも……うっぐぅ」
「駄目です!」
と、サフィーは立ち上がって言う。
「国王の誘いを断るなんて、普通じゃあり得ません! みなさん、気乗りはしないでしょうが、王城に行きましょう!」
「オジョーサマ、なんか乗り気だな」
「すみません……なぜでしょうか、貴族として行かないと、って気持ちが」
「ま、いいだろ。俺は別にいいぞ」
アルフェンはオレンジジュースを飲みながら言う。
「美味いモン食いに行くって思えばいいだろ。さっさとメシ食って帰ればいいし、メルの立場もあるしな。今回だけ受けようぜ」
「……お前も乗り気だな。なんかあったのかよ?」
「別に何もない」
こうして、アルフェンたちは食事会に参加することになった。
アルフェンたちの服と女性陣のドレスもメルが用意することになった。レイヴィニアとニスロクは留守番……ウィルが大量の食事とおやつを作り置きすると言ったら大喜びだった。
食事会は三日後……時間は、あっと言う間に経過する。
◇◇◇◇◇◇
メルが用意した服に着替えたアルフェンたちは、王族専用馬車に乗って王城へ。
王城に到着すると、桃色のドレス姿のメルが出迎えた。
「ようこそ。なーんて……そんなに畏まらなくていいわ。普通に食事して、普通に帰るだけでいいわよ」
「そ、それができればどんだけ……」
緑色のドレスを着たフェニアは緊張しまくっていた。
ドレスに合わせ髪型も変え、肩がむき出しで胸の谷間も見えているドレスだ。普段のフェニアなら恥ずかしがるが、緊張でそれどころではない。
「…………」
「おい、ビビんじゃねーぞ」
「びびび、びびっててないしし!」
「……うそつけ」
緊張気味のアネルに話しかけたウィルは、黒っぽい礼服にネクタイをしていた。
アネルは赤を基調としたドレスで、大きな胸元が強調されているデザインだ。フェニアと同様に、緊張しすぎているせいで露出が多いドレスを気にしている場合ではない。
「アルフェン、お肉とお魚、どっちが好きですか?」
「両方」
サフィーは、公爵令嬢という立場から国王と晩餐を共にしたことがある。緊張もしておらず、ドレスも着こなしていた。
アルフェンは、王城を見上げながらメルに聞く。
「なぁ、ほんとにただの食事会なのか?」
「断言する。ガチでただの食事会よ……はぁ」
すると、アルフェンたちの前に案内の騎士……アルノーがきた。
久しぶりのアルノーにアルフェンは声をかけようとしたが、アルノーは表情を変えず、静かに一礼して案内をはじめた。
仕事中。真面目なアルノーらしい。
アルノーに付いて王城内へ。そして、アースガルズ王城の中庭の一角に作られた、野外食事会場へ。
オープンキッチンがわざわざ設置され、料理人やソムリエ、給仕のメイドが一斉に頭を下げる。
高級酒がずらりと並んでるのを見たウィルは、軽い口笛を鳴らした。
「おお、英雄たちの登場だ。さぁさぁ、席についてくれ」
すでにゼノベクトは到着していた。
隣には、アルフェンと戦ったサンバルトもいる。アルフェンを見てやや複雑そうな表情だが、アルフェンは一切無視した。
使用人たちが椅子を引いたので、アルフェンたちは座る。
食前酒が運ばれ、全員が手に取った。
ゼノベクトは、アルフェンたち全員、一人ずつ目を合わせる。
「うむ。ようやく英雄たちの目を見ることができた。そなたたちに話を聞きたいところだが、まずは乾杯といこう。では、乾杯!」
シンプルすぎる挨拶、そして乾杯だった。
フェニアとアネルは慌ててグラスを掲げ、それ以外は軽くグラスを掲げた。
アルフェンたちはまだ未成年者だったが、出された食前酒はごく軽い葡萄酒。ほとんどジュースのような物だ。
それから、食事が運ばれる。最初はオードブル。
「さて、英雄たち。いや、名前で呼ぼうか。アルフェン・リグヴェータ……『暴食』と『傲慢』、そして『憤怒』の討伐者よ」
「……恐縮です」
アルフェンは、近くにいた使用人にオレンジジュースを頼む。
王宮のオレンジジュースは、その場で搾りたてを出してくれた。
その後も、ゼノベクトは一人一人に質問する。フェニアとアネルは緊張で舌を噛み、ゼノベクトを大いに笑わせた。
ウィルは高級酒を何本も開けて上機嫌になり、ゼノベクトもその飲みっぷりにいたく感心をしているようだった。
そして、メインディッシュを終え、デザートを残すのみとなる。
ゼノベクトは、ずっと黙っていたサンバルトに話題を振った。
「そういえばサンバルト。A級召喚士たちは魔人を捜索しているようだな」
「っ……そ、そうです。ち、父上」
サンバルトがワインを噴き出しそうになるのを堪えた。
「はっはっは。ならば、S級召喚士と協力したらどうだ? 魔人討伐者のアルフェン・リグヴェータがいれば、残りの魔人も容易く葬れるのではないか?」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
この場にいる全員が沈黙した。
国王ゼノベクトは空気を読めない。メルはそう言っていたが、ここまでとは。
A級召喚士とS級召喚士の模擬戦、そして互いに険悪だということを知らないのだろうか。さすがのメルも頭を抱えそうになった。
だが、これを無視するわけにはいかない。
「そうですわね。お兄様、探知系召喚士が多くいるA級とB級が魔人を見つけた場合、S級召喚士にも情報提供をしていただければ」
「……そ、それは、その」
「おお! それはいいな。はっはっは!」
ゼノベクトは、酔っているようだ。
メルは一気に畳みかける。
「お父様、A級とS級が協力して魔人を討伐してみせますわ。模擬戦の結果はご存じの通り、S級召喚士が優れているとのことですので……A級は後方支援、S級が前線での戦いを担当するというのはどうでしょうか?」
「なっ、それは「おお、それはいいな! ははは、魔人討伐者のS級が残りの魔人を撃破すればいい!」
「ええ、その通りですわね。ねぇお兄様」
「メル……お前」
サンバルトは、今まで見たことのないメルの顔に驚愕した。
アルフェンたちは置いてきぼり。楽しい晩餐会は、国王命令により『A級がS級を支援する』という内容を取り付けることで終了した。
協力関係、ではない。
S級がA級を利用する。そういう形ができてしまった。




