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記者会見

 記者会見前日の夜。

 今回の記者会見は、S級のお披露目と魔人を討伐したアルフェン・リグヴェータの取材だ。

 最初はアルフェンだけの記者会見かと思ったが、どうもメルが手をまわしたようだ。

 そして、S級寮に引っ越してきたメルは、従者に運ばせた箱をアルフェンたちに渡す。

 箱を開けると、中には黒を基調とした制服が入っていた。


「これがS級の新しい制服。『魔術師(マジシャン)』トリックスターの召喚獣『トリッキー・トリッキー』の体毛で編まれた特殊な制服よ」


 『トリッキー・トリッキー』は、全身体毛に包まれた毛玉というべき召喚獣で、その体毛は可視化された『経絡糸』であり、強力な生気が通った特殊な繊維である。その繊維は柔軟で頑丈。衝撃吸収力も高く火にも強い。最高級の武具素材でもあった。

 メルは誇らしげに言う。


「それと、S級召喚士のリーダーにわたしが選ばれたわ。お父様を説得するの大変だったけど……これからはわたしの指示で動いてもらうから」

「メル、なんか性格違わない?」

「え、ええと……こっちが素というか」


 フェニアがサフィーにヒソヒソ声で確認する。

 メルの本性を知っているのはアルフェンとサフィーだけ。ウィルも気付いているがどうでもよく、アネルは王族相手に未だ緊張気味だ。

 レイヴィニアとニスロクの分も用意したのだが、二人は服などどうでもいいのか、風呂に入って寝てしまった。ちなみにこの二人は変装しているといえ『魔人』で、S級所属ということは伏せておく。記者会見にも参加することはない。


「あの、王女様」

「メルでいいって。なに、アネル?」

「えっと……この服、着ていいですか?」

「もちろん。というか着て着て、見せて!」

「は、はい」

「あと敬語なし! アネルって十六歳でしょ? わたしより一個年上だし、敬語いらないから」

「で、でも……王族ですし」

「いいから!」

「は、はい!」


 メルは強引にアネルを女子寮へ。せっかくなのでアルフェンたちも着てみることに。

 再び談話室に集まると、そこには黒い制服のアルフェンたちがいた。


「なんか、動きやすいよな」


 アルフェンはためしに右腕を発動させる。

 召喚獣の素材でできた素材と右腕が融合した感覚だ。動きやすいし、まるで意志を持っているかのように感じた。

 フェニアたちも、スカートを摘まんだりその場でくるっと回転する。


「なんか肌触りいいかもー」

「確かに、気持ちいいですね~」

「うん。いい……」


 女子たちにも好評だった。

 それに、黒い制服はみんなに似合っていた。

 特に、アルフェンが一番よく似合っている。


「ったく、終わったならオレは戻るぞ。そろそろ眠いんだよ……」


 ウィルは欠伸をして部屋へ戻った。

 フェニアたちも部屋へ戻り、残ったのはメルとアルフェン。


「明日はS級のお披露目、そしてあなたの記者会見よ。大丈夫?」

「ああ。質問はなんとか答えられる。まぁ……さっさと終わらせるよ」

「ふふ、頑張ってね」

「ああ。っと……なぁメル、聞いていいか?」

「ん?」

「領地って功績挙げればもらえるか?」

「いきなり何? ……ああ、リグヴェータ家ね。そうね……次、魔人を倒したら領地をもらえるようにお父様に掛け合ってみる。でも、与えられる領地なんて辺境しかないわよ?」

「どこでもいい。リグヴェータ家じゃなければな」

「よっぽど嫌いなのね……とりあえずわかったわ」


 アルフェンは頷き、部屋に戻ろうとしたら……メルに袖を掴まれた。


「な、なんだよ?」

「そういえば、報酬を払ってなかったわ」

「は?」

「魔人討伐の報酬」

「いや、もらったぞ。樽いっぱい……」

「それは王国の報酬でしょ。わたしからの報酬はまだ支払ってないわ」

「い、いや、いらないし」

「駄目……今夜、あなたの部屋に行くわ」

「はぁ!?」

「ふふ。冗談よ」


 メルはパッと離れ、悪戯っぽい笑みを浮かべて女子寮へ。

 アルフェンは、高鳴る心臓を右手で押さえつけた。


「ったく、あいつ……マジで魔女だな」


 明日は記者会見。

 アルフェンは自室に戻り、制服を脱ぎ捨ててベッドに入った。


 ◇◇◇◇◇◇


 記者会見当日。

 記者会見は、アースガルズ王国で最も大きな新聞社である『ユグドラシル新聞社』で行うことになった。

 特設会場には多くの記者が詰めかけ、会場内は大いに盛り上がっている。

 今、話題のS級召喚士のお披露目だ。会場内には小型の召喚獣が飛び交っていた。

 フェニアは、会場袖からそっと様子を伺う。


「なんかいっぱい召喚獣が飛んでる……なんでだろう?」

「あれは撮影型召喚獣よ」

「さつえい型?」


 撮影型召喚獣。

 空間を切り取り保存することができる……とメルに説明されるが、フェニアは首を傾げていた。

 すると、サフィーが置いてあった新聞を見せる。


「ほら、新聞に書いてある絵、本物そっくりでしょう? これ、あの撮影型召喚獣が『撮影』した絵なんですよ」

「へぇ~……新聞なんて読まないから知らなかった」


 新聞に書かれた絵は実物そっくりだ。まるで空間を切り取り、紙に貼りつけたような。

 と、何気ない会話で緊張もほぐれた。アネルはずっと緊張していたが。


「おい、あんま緊張すんなよ。オレらは立ってるだけでいいみたいだぜ?」

「で、でもさ……その、こんなに大勢の前で」

「ったく、寄生型のくせにビビリだな」

「き、寄生型は関係ないでしょ!」


 アネルとウィル、意外と相性がよさそうだ。

 アルフェンは記者会見の質問用紙を見てブツブツ喋っている。


「アルフェン、大丈夫かしら?」

「ん、まぁな」


 メルが背中をパシッと叩く。

 すると、職員が「そろそろ時間です」と呼んだ。

 アルフェンは、全員に言った。


「じゃ、適当に終わらせてさっさと帰ろうぜ」


 どこかしまりのない言い方だった。だが、全員の緊張はほぐれたようだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 記者会見が始まった。

 まずはS級召喚士の紹介。いつの間にかいたファリオが、それぞれを紹介していく。

 アルフェンから始まり、ウィル、サフィー、フェニア、アネル、そしてメルの順に紹介された。

 メルは、王族でありながらS級召喚士のリーダーに就任、S級召喚士を率いて魔人討伐をすることを、大勢の記者の前で宣言した。

 すると、撮影型召喚獣の眼がピカピカ光る。どうやらこれが『撮影』らしい。

 しばらく召喚獣の光を浴びていると、魔人討伐者のアルフェンに質問する時間となった。フェニアたちは引っ込み、アルフェンに質問するために席が設けられる。

 席ができると、アルフェンは座るように言われた。


「うわ……」


 マイクがたくさんあり、飲み水も用意されていた。

 なにより、大量の記者がアルフェンを囲んでいた。

 柵が設けられたのでこれ以上は近づけない。


「では、アルフェン・リグヴェータ氏に対する質問を始めます」


 ファリオが仕切り、質問が始まった。

 記者たちが一斉に手を上げ、ファリオが指名していく。

 ファリオに言われた通りの質問が続く。

 アルフェンは特に緊張せず、さっさと帰りたい気持ちでいっぱいだった。

 そんな中、記者の一人がこんな質問をする。


『アルフェンさんは元F級とのことですが……クラスメイトとは仲がよかったのですか?』


 想定にない質問だった。

 アルフェンは、嘘偽りのない答えを言う。


『もちろん。全員が友人でした。『暴食』の魔人アベルに殺されて、俺も死にかけました……もし、アベルが俺たちを襲う前に近くで傍観していた(・・・・・・・・・)生徒会長達が(・・・・・・)助けてくれたら、被害はもっと抑えられたかもしれません。俺は、何もせずF級を囮にした生徒会と、生徒会に待機の命令を出した誰か(・・)を、生涯許すことはないでしょう』


 この一言が、S級召喚士を絶賛する国民と貴族たちに火を点け、B級召喚士と生徒会に抗議の連絡が殺到することになるとは、アルフェンは考えもしなかった。

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