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潜入

 アルフェンは、城下町の家屋の屋根をぴょんぴょん飛んでいた。

 城下町は、夜のが賑わっている。召喚獣と一緒に町を歩く人、飲食店で酒を飲む人、広場では音楽隊が楽器を奏で、平和な歌声がどこからともなく聞こえてきた。

 そんな光景をチラ見しながら、アルフェンは城を目指す。

 王城近くにある時計塔の柵が見えたので、右手を伸ばし掴み、戻す。高いところに上るのに、この右腕はとても便利だった。


「っと……よし、王城が見えた。あんまり使いたくないけど……」


 アルフェンはフードを外し、右目に力を込める。


「『第三の瞳(マクスウェル)』……開眼」


 右目を発動させる。

 セピア色の世界に切り替わり、経絡糸の輝きが城中に輝いて見える。

 同時に、召喚獣の気配も感じ取れる。

 麻酔針を何本か手に持ち、深呼吸をする……アルフェンが行おうとしていることは、まさに犯罪なのだ。いくらアルフェンでも緊張する。


「『第三の瞳(マクスウェル)』が使えるのは約二分……いくぞ」


 アルフェンは、右目を発動させたまま城へ向かう。

 人の気配が光となってわかるので、隠れながら進むのが楽だ。それに、アルフェンなら城壁を跳躍と右腕の伸縮でよじ登れる。まさか城壁をよじ登れる人間がいるとは考えていないのか、警備の薄い場所があった。

 問題は、召喚獣の気配だ。

 城内には、たくさんの召喚獣の気配を感じた。

 相棒型、装備型、愛玩型……大きさも様々だが、どれも大きな気配を感じる。少なくともC~A級の気配だった。


「───っぐ」


 ビキリと、右目が痛む。

 アルフェンは、城の壁を伝いながら北西塔へ。

 うまく人と召喚獣の気配を避け、塔の真下へ到着……塔の中には、大勢の召喚獣の気配があった。


「……よじ登るしかないな」


 幸い、塔は石造りで、取っ掛かりの穴がいくつか空いていた。

 アルフェンは右手を伸ばし、その取っ掛かりを掴んで右腕を伸縮させて登る。

 塔は高い。何度か伸縮を繰り返さないと登れない。


「右眼、解除。麻酔針も必要なかったな……よし」


 右目を解除し、塔を登る。

 塔の最上層には窓があり、空いているようだ。

 アルフェンは深呼吸し、右腕をゆっくり伸ばして窓の縁を掴む。そして、ゆっくりと、気配を殺し腕を引き寄せた。


「───………よし」


 静かに室内を確認───いた。メルが一人、寝間着姿でソファに座っていた。

 アルフェンは窓枠に身体をねじ込み、室内へ。


「きゃっ!? え、うそ!? そ、外から……え!?」

「約束通り、誰にも見つかってないぞ」

「うそ……てっきり、塔の近衛騎士を倒しながら来るかと思ってたのに! 囚われの姫を救い出す騎士様みたいに!」

「なんの物語だよ……って、失礼しました。王女様」

「あ、普通でいいよ。わたし、敬語とか好きじゃない」

「……わかった」


 メルはソファで足をバタバタさせる。

 そして……足を組み、初めて会った時と同じ目でアルフェンを見た。


「とりあえず、合格ね。誰にも見つからずここまで来るなんて、A級召喚士でも難しいわ」

「合格って……」

「わたしの話を聞く権利があるってこと。じゃあ本題ね。わたしの専属諜報組織によると、魔人の目撃情報がいくつかあるわ。それも二つ」

「ちょ、諜報部?」

「ええ。わたしが育てたわたしの組織。わたし、お父様やこの国の騎士は信用していない。特A級は別だけど、あの人たちは王族の呪いに縛られて動けないからね。わたしだけの組織を作って情報収集するなんて当たり前のことでしょ?」

「当たり前って……あんた、お姫様だろ?」

「お姫様が私設部隊を持ってちゃ駄目?」

「そ、そういうわけじゃ……」


 メルは足を組みなおし、蠱惑的な笑みを浮かべた。


「わたしは、お兄様やお父様みたいな平和ボケとは違う。先の先を考えて動かないと気が済まないタチなのよ。私設部隊もその一つ、いざという時の手駒は必要だからね」

「……その秘密を明かしたってことは、俺も手駒に加える気か?」

「ええ。魔人討伐者なんて最高の手駒じゃない。実は今、お父様に打診して、S級召喚士をわたしの専属召喚士にしようとしてるの」

「……はぁ?」

「このわたしが、魔人討伐の指揮を執る。諜報部隊に魔人の行方を調べさせ、S級が討伐する……わたしが指揮を執れば、わたしの功績になる。……平和ボケした無能な兄ではなく、このわたしがこの国の王になれば、未来は明るいと思わない?」

「お前の狙いは王座か……!」

「ええ。ここだけの話、お父様はもう長くない。おそらくあと三年くらい」

「……!?」


 メルは再び足を組みかえる。どうも落ち着きがない。

 

「この国は、魔帝討伐の功績により加速度的に大きくなったわ。でも……大きくなりすぎて管理が行き届いていない。不正するクソ貴族、爵位にものを言わせたブタ貴族、使えない馬鹿貴族は毎日くだらない茶会三昧……父も兄も、そんなところに目も向けずに『平和だ平和』だなんてほざく。魔帝が復活して力をためているのを知ってるのに、碌な対策もしたがらない」

「…………」

「わたしは違う。わたしなら、もっとこの国を豊かにできる。お母様みたいに……ごめん、これは失言。魔人の脅威に対抗できる力がある今、わたしの有能さを見せつけて次期国王になってやる」

「……野心家」

「ふふん。当然でしょ? ちなみに、『傲慢』の魔人を見つけたの、うちの諜報員よ」

「え。そうなの?」

「ええ。ガーネットに情報を渡したのは、このわたしなの」


 メルは、同い年とは思えないくらい野心にあふれていた。

 正直、信用できるかどうかわからない。


「当然、報酬は支払うわ。お金はもちろん、女王になったら領地もあげる。どう? わたしと契約しない?」

「…………」


 魔人の情報を聞きに来たのに、大ごとになっていた。

 アルフェンは悩む。


「……魔人の情報は?」

「契約したら話すわ」

「……わかったよ。契約する。魔人の情報をくれ」

「決まりね! それと、裏切ったら不敬罪で死刑にするから♪」

「怖い姫様だな……ああ、報酬は金か?」

「ええ。それとも……わたしの身体で払ってもいいわよ?」

「は!?」


 メルは、パジャマの胸元をパタパタさせる。

 妖艶な笑みを浮かべている……本気のようだ。


「女王になるためなら何でもするわ。命だって賭けれるし、純潔だって捧げられる」

「ばば、馬鹿なこと言うな。報酬は金でいいから」

「ふふん。意気地なしね」

「うるさい。ってか、そろそろ本題に入れよ」


 メルはソファに寄り掛かり、腕を組み足を組む。


「魔人の目撃情報が二件。一件は城下町のスラム街、もう一件は大通りの商店街ね」

「はぁ? スラム街、商店街って……魔人はアースガルズ王国には近づかないんじゃ」

「わたしが思うに、裏をかかれたのよ。最強の二十一人がいるアースガルズ王国に魔人は来ないってわたしたちは考えてるからね。たぶん、奴らも情報収集してるんでしょ」

「そういや、ヒュブリスが言ってたな……『怠惰』と『嫉妬』の魔人は双子で、連絡係でもあるって」

「へぇ……」


 メルは考え込む。


「魔人が二人もやられたことで、奴らも焦りがあるのかな。集めるとしたら、二人の魔人を殺した召喚士……つまり、S級のあんたたち。んー、狙われる可能性があるわね」

「待てよ。狙われるって」

「魔人は二十一人の召喚士がいるアースガルズ王国で情報収集してるかもしれないのよ? あんたらの情報なんて城下町の居酒屋でも手に入る。魔人には魔法も『能力』もあるし、寝静まった頃に寮に侵入して心臓に刃を立てるくらいやりかねないわよ」

「…………」


 アルフェンは、猛烈に嫌な予感がした。

 ウィル、フェニア、サフィー、アネル。

 もし、あの四人に何かあったら。


「……嫌な予感がする。悪い、話はここまでだ」

「ええ。それと、今後もあるし、わたしをS級に入れなさい。S級にも話をしておきたいしね」

「いいけど……お前、王女だろ?」

「一応、A級召喚士なのよ。学園にはあまり通ってないけどね」

「マジで?」

「ええ。ガーネットには伝えておく。明日の放課後、教室に行くから」

「わかった。じゃあ今日はここまで……」

「あ、ちょっと待って」


 立ちあがったアルフェンに近づくメル。

 アルフェンの右手を掴むと───なんと、自分の胸に押し付け、さらに顔を近づけ頬にキスをした。


「んなぁ!?」

「今お金ないから、とりあえずこれが報酬。前払いね」

「ななななな……」

「さっきも言ったけど、目的のためになら命も身体も差し出せる。これがあたしの覚悟、わかってもらえた?」


 メルの蠱惑的な笑みから逃げるように、アルフェンは窓から飛び出した。

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