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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第四章

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茶会とお姫様

 王族主催の茶会は、王城にある庭園で行われることになっている。

 王城庭園は、様々な花が咲き誇りとても美しい。日差しも柔らかく、茶会を開くには最高の場所、そして天気だった。

 アルフェンたちリグヴェータ家が庭園に入ると、さっそく貴族たちが群がってきた。


「リグヴェータ卿、このたびはおめでとうございます!」

「いやはは、身に余る光栄ですよ」

「初めまして。私は伯爵家の───」


 と、挨拶ラッシュが始まる。

 アルバンは、挨拶に応じながら妻を、息子たちを紹介した。


「こちらが我が娘リリーシャ。学園に所属するA級召喚士で、生徒会長を務めています」

「おお、生徒会長といえば、あの有名な……」

「なんとも美しい……」

「赤薔薇、いや黒薔薇と表現すべきか悩みますな」


 くだらない───アルフェンは、心底帰りたかった。

 とりあえず、キリアスの頼みに従い、当たり障りのない挨拶をすることに。

 父アルバンの紹介だ。


「こちらが末息子のアルフェン。えー……S級召喚士で、魔人討伐の功績を」


 と、最後までアルバンは言えなかった。

 ドヨドヨと、辺りが騒がしくなったのだ。


「国王陛下のご到着です。皆さま、ご静粛に!」


 主催の到着。

 つまり、茶会の始まりだ。

 国王陛下、王子、王女、そして数人の護衛が庭園に足を踏み入れる。

 アースガルズ国王ゼノベクトは、両腕を広げた。


「ようこそ!! 我が主催する茶会へ!! 天気も良く、初めて見る顔も見飽きた顔も勢ぞろい。今日は楽しい時を過ごしてくれ!!」


 なんとも簡潔で王らしくない挨拶だった。

 メイドたちがお茶を淹れ始めた。アルバン、サリーは挨拶ばかりでアルフェンのことなど気にしていない。リリーシャは貴族男性と笑顔で談笑している。

 すると、貴族男性たちがするりと道を開けた。


「やあリリーシャ。今日も美しい」

「サンバルト殿下。本日はお招き、ありがとうございます」


 王の息子にして次期国王、サンバルトだ。

 年齢は十八でリリーシャと同じ。まだ婚約者がおらず、リリーシャを婚約者に迎えようとしているという噂はアルフェンも聞いたことがある。

 ちなみに、サンバルトはA級召喚士で、学園に在籍している生徒でもある。

 リリーシャに言い寄っていた貴族男性たちも爵位が低いわけではないが、この国の王子相手では分が悪い……というか、美男美女でお似合いだった。

 キリアスとダオームも、招待客と話をしていた。

 だが、アルフェンは兄弟たちが何の話をしようが、塵一つの興味もない。

 せっかくなのでお茶を飲もうと、メイドに声をかけようとした。


「アルフェン、見つけました」

「ん、おお。サフィーか」


 すると、アルフェンの傍にサフィーが来た。

 長いシルバーブルーの髪はまとめられ、同じ色のドレスを着ている。やや胸元が開き谷間が見えていた。貴族のドレスはなぜか胸元を強調するのが多い……と、アルフェンは思う。

 サフィーはそんなことに気付かず、にっこり笑う。


「お前、挨拶は終わったのか?」

「ええ。一通り。おばあ様が気を遣ってくれまして……はぁ、公爵家の後ろ盾が欲しい男性ばかりで、嫌になっちゃいます」

「婚約者か?」

「はい。私、まだ婚約者がいないので……」

「ふーん。ま、お茶でも飲もうぜ。なんかいい匂いするし」

「はい! あ、ここ、フルーツを乾燥させたお茶が美味しいんですよ」

「へぇ~」


 アルフェンは気付いていない。

 サフィーが、今日一番の笑顔を見せていることに。サフィーが楽し気に笑っている姿を、つい先ほどまでサフィーを口説いていた貴族男性たちが見ていることに。

 紅茶をもらい、サフィーとのんびり飲んでいた。


「美味いな。オレンジっぽい味がする」

「ほんとです……これは私も初めてです」

 

 濃いオレンジ色の紅茶は、甘さ控えめのさっぱり柑橘味。

 オレンジが好きなアルフェンは気に入り、お土産に茶葉をもらえないかメイドに聞こうとした。

 すると、桃色のドレスを着た桃髪ウェーブの少女がアルフェンの前に立つ。


「あなたがアルフェンかしら?」

「……え、ああはい」

「ふ~ん……けっこうカッコいいわね」

「…………え、誰?」

「あら、わたしを知らないの?」

 

 桃髪の少女はきょとんとし、サフィーが青ざめていた。


「あああ、アルフェン!! こちらの方は王女様です!!」

「王女……え!?」

「ふふ。初めまして。わたしはメルディス・リリアンドール・ラ・ネイム・アースガルズ。長いのでメルとお呼びくださいな」


 アルフェンたちの前に現れたのは、この国の王女メルだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「わたし、あなたに興味があるの」


 メルは、アルフェンにぐいっと顔を近づけた。

 アルフェンより背が低いので、自然と見上げる形になってしまう。おかげで、豊満な胸の谷間がよく見えてしまい、アルフェンは少し離れて顔を背けた。


「きょ、興味……ですか?」

「はい♪ 魔人討伐者にして、歴代四人目の寄生型召喚士……あなたがきっかけですよね? 召喚獣の歴史が始まってから三人しかいない寄生型が、さらに二人も追加されるなんて」

「…………!」


 アルフェンは気付いた。

 メルの眼が、遊びではない探るような眼に変わっていた。

 只者ではない。アルフェンは瞬時に警戒する。


「あなたは何者です? その右腕……いったい『何が』寄生しているんでしょうね?」

「…………」


 スゥーっと、アルフェンの心が冷えていく。

 警戒。敵。そんな言葉が頭をめぐる。すると、メルはクスっと笑う。


「冗談です。でも……あなたに興味があるというのは本当ですよ? 誰にも成し遂げることのできなかった魔人討伐、あなたとその仲間なら可能かもしれません……」

「……頑張ります」

「ね、サフィー」

「ふえっ!? はは、はい!! メルディス様!!」

「もう、メルでいいって言ってるのに。同い年のお友達なんだから、もっと自然体でいてよ」

「うぅ……すみません」

「ま、いいわ。ところで、アルフェン」

「はい」


 いつの間にか呼び捨て、そして主導権を握られていた。

 アルフェンは感じていた。メルには『王』の風格がある。

 同い年ということは、まだ十五歳のはず。メルはアルフェンの耳にそっと口を近づけた。


「───魔人の情報、欲しい?」

「───!?」


 こそばゆい、生暖かい吐息が耳に。

 メルは小悪魔な笑みを浮かべていた。


「まだ未確定情報だから誰にも話していないの。この情報が欲しいのなら……今夜、わたしの部屋に一人で来て」

「は? ひ、一人って……しかも、夜?」

「ふふ。城に護衛にも兵士にも騎士にも、あなたが来ることは伝えないわ。警備を掻い潜ってわたしの部屋に来て。そうすれば教えてあげる」

「…………」

「わたしの部屋は、城の北西塔最上層。そこで待ってる」

「……わかりました。今夜、お伺いいたします」

「ええ。ふふ、楽しみね。ああそれと、城に不法侵入した場合、たとえ魔人討伐者であるあなたでも罰せられるわ。未婚のわたしの部屋に侵入したなんてバレたら、問答無用で死刑だからね♪」

「……この、タヌキ」

「あら失礼。こんなに可愛いわたしがタヌキ? ふふっ、じゃあね♪」


 メルは一礼して、リリーシャと兄の元へ。

 サフィーは終始茫然としていた。


「あの……何をお話されてたのですか?」

「悪い話。なぁサフィー、あの王女様のこと教えてくれ」

「……何やら親し気でしたけど」

「そんなわけないだろ。俺、ああいうの苦手だわ」


 アルフェンは、今夜城に侵入する決意を固めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 その後、特に何もなく茶会は終わった。

 両親は終始挨拶に振り回され、リリーシャやダオーム、キリアスも忙しそうだった。

 アルフェンだけが、何もなかった。最初はS級召喚士として挨拶したりするのかと思ったのだが、不思議なくらい誰にも構われなかったのだ。

 アルフェンが挨拶したのは一人。メルだけ。なんとなくだが、この茶会参加はメルの息がかかっているような気がした。

 王城の控室で、両親たちは嬉しそうに笑っていた。


「いやぁ、今日は実に楽しかったよ。いろいろな貴族の方と知り合えた」

「そうね。ふふ、私もお茶会に誘われたわ。私もお茶会を開催して貴族婦人方をもてなさないといけないのねぇ……ああ、忙しくなりそう」


 両親は忙しい忙しいを繰り返していた。正直鬱陶しいのでアルフェンは無視。

 そんなことより、今夜城に忍び込むことを考えていた。


「リリーシャ。今夜は空いているかね? 家族で食事でもどうだい?」

「いいお考えですね。では、レストランの手配をしましょう」

「ああ、頼むよ。うんうん、久しぶりに家族団らんといこうじゃないか」

「まぁ、あなたってば」


 吐き気が収まらなかった。

 いい加減、茶番にも飽き飽きしていたので、アルフェンは胸元をゆるめる。

 話しかけるのも嫌だったので、そのまま部屋を出ようとした。


「待て。どこに行く」


 当然、引き留められる。

 引き留めたのはダオームだ。

 このまま部屋を出ようと考えたが、せっかくなので理由を言う。


「帰るんですよ。約束は茶会の出席だ。それに、いい加減この空気にもうんざりなんで」

「なんだと? おい貴様、どういう」

「待ちなさい。ダオーム、ここは私が……アルフェン、どういうつもりだ?」

「……はぁ?」


 ダオームを押さえ前に出たのは、なんと父アルバンだった。

 まるで、子供を叱りつける親のような態度だ。

 あまりの馬鹿さに、アルフェンは言葉を失う。


「アルフェン。久しぶりに会ったというのに、その態度はなんだ? 今夜は家族水入らずで食事でもしようじゃないか。これまでのお前の話を、聞かせて欲しい」

「そうよ? 家族の時間は大事じゃない? さぁ、お茶でも飲んで」

「いや、馬鹿なのか? 頭おかしいんじゃね?」


 アルフェンは我慢できなかった。

 本当に、この両親はバカの塊で構成されているのではないかと疑う。


「本当に頭大丈夫か? あんたら、俺のこと徹底的に無視してたくせに、何急にご機嫌取ろうとしたり、両親顔してんだよ? それに、俺はもうリグヴェータ家の人間じゃないだろ? 俺が除名届け出したらすぐにサインして送り返したくせに。なに無かったことにしてるんだよ」

「あ、いや、それは……」

「あ、アルフェン!! 親に向かってなんてこと言うのよ!!」

「俺の功績狙いだろ。よかったじゃないか。男爵から伯爵。それも辺境伯だ」

「「…………」」

「ほんっと、醜いな。ヒュブリスの楽園にいたブタより醜い。俺の功績で成り上がるのは勝手にしろ。そのかわり、二度とこんな茶番に呼ぶな。魔人と戦ったからわかる……お前ら、魔人より醜くて薄汚いんだよ」


 絶句する両親。

 アルフェンはフンと鼻を鳴らし、キリアスに頭を下げた。


「ではキリアス兄さん。ここで失礼します」

「あ、ああ……」

「それと、気を付けて下さい。そこの連中に俺を懐柔しろとか言われるかもしれません。いくら兄さんの頼みでも、それだけは受け入れませんので」

「…………」


 それだけ言い、アルフェンは部屋を出た。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 城を出て、一人歩く。

 今夜は城に忍び込む予定だ。アルフェンは北西塔を見る。


「あそこか……」


 北西側に、大きな塔が建っている。

 アルフェンたちがいた大きな城の周りを、いくつかの塔が囲んでいる。その中にある一つが北西塔だ。

 警備は、王国直属の兵士が城の外周を固め、城内にも兵士、そして騎士がいる。

 それぞれの塔には近衛騎士が厳重に守り、召喚士が何人も在中していた。


「こんな中を隠れて行くのかよ……あのお姫様、マジで何考えてんだ」


 戦うのはアウト。見つかるのもアウトだ。

 人だけでなく召喚獣も警備しているだろう。召喚獣が傷付けば召喚士もダメージがあるし、必ず隠密行動で行かなければならない。

 

「……よし。少し時間あるし、城下町で準備するか」


 アルフェンはポケットの財布を確認し、城下町で買い物をした。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 寮に戻り、部屋へ戻る。

 フェニアはアネルと買い物、荷物持ちにウィルを連れて出かけている。帰りは遅くなるからと置手紙があった。いつの間にかかなり仲良くなっている。

 サフィーは、公爵家本邸に泊まり、明日の朝戻ってくるようだ。

 つまり、寮にはアルフェン一人。


「よし。準備準備」


 アルフェンは、買った荷物を自室で広げ、さっそく支度を始めた。

 買ったのは、真っ黒なフード付きコートとズボン。鉄板入りのブーツ。動物用麻酔薬と、医療用針だ。

 夜の移動なので真っ黒な服とズボンを装備し、医療用麻酔薬と針はいざという時の眠り薬として使用する。ちなみに麻酔に関してはアルノーから習った。

 仮眠を取り、着替え、果物を軽く食べ、軽くストレッチ。

 外が暗くなり、アルフェンは自室で深呼吸……窓を開け、外へ出た。


「よし……行くぞ」


 寄生型の身体能力を使い、まずは寮の屋根へ。

 王城の位置を確認───まずは学園から出て、城下町の屋根を伝って城へ向かう。


「ったく、面倒なことさせやがって。これでつまらない情報だったら、どうしてくれようか」


 そんなことを呟きながら、アルフェンは屋根から跳躍した。

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