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スライム、カエル、黄金

 アネルの一撃とアルフェンの一撃を喰らったヒュブリスは、地面にめり込み痙攣していた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 全力で走り、全力で殴ったアルフェンは息が切れていた。

 寄生型は身体能力が高い。だが体力まで増えるわけではない。

 すると、ボロボロになったウィルが全力で叫んだ。


「油断すんじゃねぇ!! 四肢をぶっ千切って動けねぇようにしろ!! 『色欲』の手掛かり……絶対に逃がすんじゃねぇぞ!!」

「わ、わかった!!」


 アルフェンは、ヒュブリスの手足を硬化させようと右手を伸ばす。

 ヒュブリスは地面に頭から突っ込んだままだ。今なら容易く『硬化』できる。

 そして───ヒュブリスに触れようとした瞬間。


『フフフ───大したモノだ』

「!!」

『ここまで追い詰められたのは、あの二十一人と戦って以来だよ』


 土の中で、ヒュブリスが喋った。


『まぁ、あの二十一人も万全ではなかった。魔帝様、我ら七兄弟、そして数多の魔獣を相手にしていたからね……ふふ、単騎で戦えば我らとて危険な二十一人。きみは彼らより弱い。だが……この我をここまで追い詰めた』

「おい、喋んな。これからお前の手足を硬化させる。他の魔人のことを話してもらうぞ」

『フフフ……きみは、きみたちは資格を得た」

「……は?」

「おい!! 何喋ってんだ、さっさとやれ!!」


 ウィルが叫ぶ。

 アルフェンは、ヒュブリスの話は後でいくらでも聞けると判断。右手を伸ばす。


『弟を、アベルを殺したのはきみだね?』

「…………」

『ああ、別に怒っていない。あのクズ、かつて二十一人と戦った時も、戦いもせず震えていた臆病者だからね』

「……もういい」

『いや、まだだ。きみたちは資格を得た……全力の我と戦う資格を!!』

「───ッ!?」


 次の瞬間、ヒュブリスの下半身がドロドロに溶けていった。

 液状の黄金とでもいえばいいのか。宮殿、ドームの破片、彫像、散らばった宝石や金貨……ヒュブリスが生み出した全てが溶け、地面に吸収されていく。


「な、なんだ……!?」

「チィィッ!! この馬鹿!! さっさと止めを刺さないから!!」


 地震が起きた。

 そして、間欠泉のように黄金の液体が地面から噴き出した。

 一か所だけではない。周囲から黄金の液体が噴水のようにあふれ出た。

 さらに、黄金の液体は噴き出すと同時に金貨になる。もう、意味がわからない状況だった。


「っく……全員、ここから離れろ!!」

「アネル、ウィル、乗って!! サフィーはいける!?」

「はい!! アルフェン、マルコシアスに乗って!!」


 アルフェンは腕を伸ばし、マルコシアスの近くに生えていた樹を掴み一気に戻して移動する。

 枝から手を放し、マルコシアスに騎乗。フェニアもアネルとウィルを乗せ、その場から離れた。

 黄金の噴水は、いたるところで起きていた。


「これ、何なんだよ!?」

「知るか!!」

 

 ウィルが怒鳴る。

 アルフェンがさっさと行動しなかったことに苛立っていた。

 サフィーは、思い出したように言う。


「───まさか、これが『傲慢』の魔人ヒュブリスの……真の姿」

「……え?」

「おばあ様が言ってました。魔人はヒトの姿をしているけどそれは擬態。召喚獣としての姿があるって」

「そういえば……アベルも人間から『デカい口』みたいなバケモノになったな。じゃあ、この液体がヒュブリスの真の姿か?」

「恐らく……」


 ヒュブリスの正体は黄金の液体。

 すると、噴水のように噴き出していた液体が徐々に収まり、液体がゆっくりと移動を始めた。

 ヒュブリスが突き刺さった場所に、黄金の液体は集まっていく。

 アルフェンたちは集落から出て、その様子を見ていた。


「な、なにこれ……ゆ、ユメ?」

「……お、大きい」


 フェニアとアネルが信じられない物をみたように言う。


「……クソが」

「こ、こんなの……どうすれば」


 ウィルとサフィーも唖然としていた。

 アルフェンもまた、開けた口がふさがらなかった。


「これが、『傲慢』の魔人ヒュブリスの……召喚獣としての姿、なのか」


 かつて、農村だった場所に現れたのは……あまりにも巨大な『黄金のスライム』だった。

 直径五十メートル、横幅だけで二百メートル以上ある。

 さらに、スライムはブルブル震え、形を変えていく。

 前足、後ろ足が生え、大きな口、ギョロっとした眼……『カエル』の姿に。

 巨大な黄金カエルは、大きな口をがぱっと開けた。


『はっはっは!! 待たせたね……これが我の真の姿。さぁ少年少女たち!! 最後の戦いを始めようじゃないか!! グワァァ~~~アァッ!!』


 巨大黄金カエルは、カエルのように喉を鳴らした。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンたちは、必死に逃げていた。

 巨大な黄金カエルがぴょんぴょんと跳ねながら迫ってきたのである。

 その光景はまさに恐怖。特にサフィーがやばかった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!! カエルぅぅぅぅぅぅ!! お家にカエルぅぅぅぅぅぅ!!」

「お、落ち着けサフィー!! マルコシアス、とにかく走れ!!」

『ガルォォッ!』


 なぜかマルコシアスはアルフェンの言うことを聞いた。

 魔人ヒュブリスの楽園から出てひたすら走る。上空ではグリフォンが必死に逃げていた。

 

「カエルが正体とはね……しかもでっかい!!」

「あのサイズ、さすがに気持ち悪い……」

「……お前ら、けっこう平気そうだな。下じゃオジョーサマがピーピーわめいてるけどよ」


 フェニアとアネルが普通にしていることに驚くウィル。

 

「あたし、小さい頃アルフェンと家の裏庭で虫取りやってたし。昆虫とか別に平気よ。素手で蛇とかも掴めるわ」

「アタシは水路でよくカエル捕まえてたし。大きいのは晩ご飯の食材にもしてたから」

「……逞しいな。っと、それどころじゃねぇ!! あれをなんとかしないと───」


 と、ぴょんぴょん跳ねる黄金カエルの口がバカっと開く。


『ゴワァァァァァァ~~~~~ッ!!』

「なっ……マルコシアス避けろ!!」

「グリフォン、回避ぃぃぃっ!!」


 アルフェンとフェニアが指示を出す。

 黄金カエルの口から、大量の金貨、宝剣、王冠、ネックレスや肖像画などが吐きだされた。

 まるで津波のように流れてくる。黄金カエルは財宝を吐きながら跳ねていた。

 アルフェンはマルコシアスの背に立ち、右腕を巨大化させる。


「『停止世界(パンドラ)』!! 薙ぎ払いッ!!」


 右腕を伸ばし、薙ぎ払うように空間を『硬化』させた。

 アルフェンが腕を薙ぎ払った場所だけ財宝の津波がピタッと止まる。そのまま黄金カエルも───とはいかない。黄金カエルはジャンプして硬化地帯を回避。完全にアルフェンの能力を読まれていた。


「くっそ!! あのカエルに触れれば倒せるのに……!! 財宝の津波のせいで近づけないし、能力が読まれてるから遠距離の硬化も通じない!!」


 思わず叫ぶ。

 すると、上空を飛んでいたグリフォンがマルコシアスに並ぶ。


「おい!! あのカエルの弱点を探せ!!」

「はぁ!?」


 いきなりウィルに言われたアルフェン。

 すると、ウィルは自分の右目を指さす。


「お前の『眼』!! オレらとは違う何かが見えんだろ!? なんでもいいから『視』ろ!!」

「あ───そうか」


 アルフェンはそっと右目に触れる。

 そして、心の中で念じる───見ろ、視ろ、診ろと。

 アルフェンの右目。白目だった部分が赤くなり、瞳が黄金に輝いた。


「『第三の瞳(マクスウェル)』───開眼!!」


 アルフェンは、自分の意志で『セピア色の世界』を視た。

 ほぼ単色の、寂しい世界。人だけが色を持ち、召喚獣もセピア色に染まっていた。

 半分気を失っているサフィー、ウィル、フェニア、アネルの体内に『糸』が巡っている。これが経絡糸で、生気が循環していた。

 そして、黄金に輝くカエル。この世界ではセピア色だ。やはり、体内に経絡糸が巡り───。


「───ん?」


 アルフェンは気付いた。

 経絡糸が確かに伸びている。だが……眼球と眼球の間に、小さな球体が光っていた。

 よく見ると、そこから経絡糸が伸びている。糸玉のような形にも見えた。

 

「もしかして、あれが……っぐぅ!?」


 ビキリ、と……アルフェンの頭に激痛が。

 見えない物を見ようとした代償だ。アルフェンは玉の位置を記憶し、『第三の瞳(マクスウェル)』を解除した。


「アルフェン、大丈夫!?」

「あ、ああ。でも……見えた。ウィル、たぶん弱点を見つけた」

「よし───」


 と、ここで黄金カエルが大ジャンプ。口から巨大な黄金の球体を吐きだした。


『ゲッボォォ!! ゲッボォォ!! ゲッボォォ!!』

「マズい!! おい逃げろ!!」

「グリフォン、頑張って!!」

「マルコシアス、気張れよ!!」

『キュォォーン!!』

『ガルルルル!!』


 マルコシアスとグリフォンが必死に走り、飛ぶ。

 黄金の球体が降り注ぐ。

 一つ一つの大きさが一軒家よりも大きく、地形がどんどん変わっていく。


「くそ!! せっかく弱点を見つけたのに───」

「どこだ」

「え───ウィル、お前!?」

「早く言え!! どこだ!!」


 ウィルはグリフォンから飛び降り、マルコシアスと並走していた。

 だが、大汗を掻き息が荒い。これほどの全力疾走、さすがのウィルでも長くもたない。

 アルフェンは叫んだ。


「目と目の中央だ!! あの黄金の模様、中央のくぼみ!!」

「───わかった」


 ウィルはその場から離脱した。

 方向を変え、アルフェンたちの真横に走り出したのである。 

 黄金カエルはウィルを無視。アルフェンたちを狙ったままジャンプ、球体を吐きだし続ける。

 グリフォンとマルコシアスも疲労していた。


「───ここはアタシに任せて!!」

「アネル、あんたまで!?」


 アネルは両足のブースターを噴射し、グリフォンから飛び降りた。

 着地と同時に跳躍する。


「だぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そして、黄金カエルが吐きだした球体を蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばした球体がカエルにヒットし、空中にいたカエルは吹っ飛び転がる。

 アルフェンはチャンスとばかりに飛び降りた。


「フェニア、サフィー、援護頼む……ここで決めるぞ!!」


 最後の力を振り絞り、ジャガーノートを限界まで巨大化させる。

 そして、落ちていた黄金球を掴み、仰向けにひっくり返っているカエルめがけてぶん投げた。


「潰れろぉぉぉぉぉっ!!」


 アネルも、ブースターを噴射させ落下した球体を蹴る。狙いはカエルだ。

 だが、まっすぐ飛んでいかず苦戦───すると、エメラルドグリーンの風が球体を軌道修正、カエルに直撃した。

 さらに、アネルが蹴りやすいように、球体の真下に氷の台座ができた。

 フェニアとサフィーのサポートに、アネルは力強い笑みを浮かべる。


「アネル、決めるぞ!!」

「うん!!」

『グォォロロロロロロロロロ!! グヌゥゥゥゥ!! 負けるカァァァァァっ!!』


 黄金カエルが起き上がり、大口を開けて黄金球を丸呑みした。

 アルフェンとアネルは、黄金球を飛ばしまくる。

 最後の攻撃───二人は限界まで身体を酷使していた。


『グワァァァ~~~アッァッァッァッ!! 素晴らしい粘りだ、もう傲慢とは呼べん!! これは……必死!! そう必死だぁぁぁぁぁぁっ!!』

「「や、かま、しぃぃぃぃっ!!」」


 アルフェンとアネルの声が重なった。

 落ちている球体がラスト一つ。アルフェンは球体を硬化させ、アネルを見た。

 

「───」

「───っ」


 アネルは大きく頷き、両足のブースターを噴射させる。

 アルフェンも残り全ての力を込めて構えた。


「『バスターキック』!!」

「『獣の一撃(ジャガーブレイク)全身全霊(フルインパクト)』!!」


 アネルの回転蹴り、アルフェンの全力パンチが球体を弾き飛ばす。

 黄金カエルは球体を飲み込もうと大口を開け───口の中に球体が直撃し、衝撃が後頭部まで突き抜ける。


『もっぐぉぉぉぉ!? ぉぉぉぉぉ~~~~っ!! んッッッ!!』


 だが───最後の一撃も、黄金カエルに飲み込まれた。

 力を使い果たしたアルフェンとアネルは、召喚獣を解除し倒れてしまう。

 サフィーとフェニアが駆け寄り、黄金カエルが大口を開けて言った。


『これにて終了!! ふはは、こんなに楽しいのは久しぶりであった。お前たちは我が血肉として」


 ───と、黄金カエルが喋っている途中だった。

 黄金カエルの頭、アルフェンが見つけた弱点の位置に穴が空いた。

 そう、いきなり穴が空いたのだ。

 アルフェンたちも、黄金カエルもポカンとし───黄金カエルは、ドロドロに崩れていった。


「───『超絶貫通弾(ロンギヌス)』……オレの切り札だ。あらゆる時間、空間を《貫通》し、狙った獲物を必ず仕留める究極の弾丸……一日一発の大技さ」


 左腕が巨大なライフル銃となったウィルが現れた。


「苦労したぜ。逃げたように見せかけてこの弾丸を撃つ準備をしてた。この形態は準備に時間がかかるのが難点だが……一度発射したら、狙った獲物は絶対に逃げられない」

「おま……はは、やるな」

「フン。それより、お前の言う弱点は正解だったようだな。見ろ……」

「あ」


 黄金カエルが溶けた場所に、両腕と両足を失ったヒュブリスが転がっていた。

 アルフェンたちは、慎重に近づく。

 近くで見たヒュブリスは、全身に亀裂が入っていた。


「いやぁ、負けた負けた。我の負けだ……きみたちの勝利である」

「聞かせろ。『色欲』はどこにいる」

「ふ、姉上の『玩具』であったか。復讐心に囚われているな。姉上の思うつぼであるぞ?」

「どこにいるって聞いてんだ!!」


 ウィルはヘッズマンを乱射。ヒュブリスの顔近くの地面に穴が空いた。

 だが、ヒュブリスは全く動じていない。


「姉上は神出鬼没だ。我ですら位置を把握できん……だが、その居場所をしっている者ならわかる」

「どこだ……そいつは誰だ?」

「我が兄と姉だ。きみたち人間の付けた名称で言えば、『嫉妬』と『怠惰』の魔人である。七人の兄弟で唯一の双子……我らの伝令役でもある双子なら、あるいは」

「二人か……で、そいつらはどこだ?」

「身内を売る約束はできない。我が教えるのはここまで……だが、我の死はすぐに兄弟たちに伝わる。いずれ必ず会えるであろう」

「このっ……」


 ウィルはヘッズマンを撃とうとしたが、アルフェンは止めた。

 そして、アネルが前に出る。


「家族の仇……!!」

「残念だが、仇は取れそうもない。もう時間だ……」


 ヒュブリスの身体が、徐々に崩れていく。

 そして───ヒュブリスは最後に、アルフェンを見た。


「ああ───最後に頼む。その目を見せてくれ……ああ、美しい……あのお方(・・・・)の眼……また、見れた……やはり、あなたは……人と……」


 最後まで語ることなく、『傲慢』の魔人ヒュブリスは崩れて消えた。

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