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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第三章

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参戦

 グリフォンの背に乗ったフェニアたちは、楽園から少し離れた洞窟に身を隠す。

 さっそく、フェニアたちはアルノーの手当てをした。

 手当の道具がないので、アルノーの肌着を破り、包帯代わりにする。


「骨、折れてないよね!? あの、痛いですか!?」

「ああ……大丈夫。アバラだけだ。っぐ……応急処置だけでいい」

「フェニア、そっちを押さえて!!」

「う、うん」


 フェニアとサフィーはアルノーの手当てをなんとか終わらせた。

 これからどうするか……フェニアは立ち上がる。


「あたし、戻る……アルフェンたちが戦ってる」

「私も行きます!!……と言いたいのですが」


 怪我をしたアルノーを置いていくわけにはいかない。

 だが、アルノーは言う。


「無茶だ……魔人、あれほどとは……戦って分かったが、身体能力が違いすぎる。人間ではたとえ《強化》に特化した召喚獣でも、対処は難しいだろう……っぐ」


 魔人ヒュブリスは、人間を遥かに越えた身体能力を持っている。

 いくら『相棒型』の召喚獣が強くても、召喚士が死んだら召喚獣は消える。『装備型』の召喚獣で召喚士の自力を上げても、それ以上の力をヒュブリスは持っている。


「召喚獣による身体強化の限度は約三倍……それ以上の『強化』は今のところ確認されていない。だが、魔人ヒュブリスの身体能力は、『強化』を遥かに越えた力を普段から出している。さらに『能力』も、『魔法』もある……くそ、国家レベルの武力が必要だ」

「でも!! アルフェンたちは戦ってます!!」

「わかっている。一応、ウィルには事前に伝えておいた……『無理なら撤退しろ』とな」

「で、でも……それでは、どうなるのです?」


 もし、アルフェンたちが撤退すれば。

 魔人ヒュブリスは撤退し姿を消す。それとも、報復のために楽園の人間を全員始末し、近場の町や村を襲撃するかもしれない。

 いくらヒュブリスによって『裕福』にさせられても、元は罪のない人間だ。


「───あ、あの」


 そんな中、アネルが言う。


「あ、アタシにできること、あれば……」

「……きみは訓練を受けたわけでも、戦う理由もない。休んでいなさい」


 アルノーはあっさり切り捨てた。

 フェニアとサフィーは互いに頷きあう。


「アルノーさん、最初の予定では、あたしとサフィーは援護でしたよね?」

「予定変更だ。ヒトにどうこうできる相手じゃない。ウィルたちが戻るまで待機、その後アネル嬢を保護し離脱……魔人対策を練らねば。S級の功績云々ではない」

「えいっ!」

「え」


 サフィーは、アルノーの首に針を刺した。

 途端に気を失うアルノー。


「すみません。これ、麻酔針ですよね? 運んでいるときに見えてしまって……」


 アルノーの懐には、『麻酔各種』と書かれた箱があった。

 手当の時に服を脱がしたおかげで見えたのだ。サフィーはその針を一本、アルノーの首に刺した。

 アルノーは、すやすやと眠っている。


「フェニア、アルノーさんを洞窟に隠しましょう」

「……は、はい」

「アネルもお手伝いしてくださる?」

「は、はいっ!!」


 いきなりすぎるサフィーは少し怖かった。

 洞窟の隅にアルノーを移動させ、乾いた葉っぱで顔以外を埋めて隠した。

 一仕事終えたサフィーは「ふー」と息を吐き、アネルに言う。


「アネル。私とフェニアはこれからアルフェンたちの元へ向かいます。あなたはどうしますか?」

「え、あ、アタシは……」

「戦え、とは言いません。ここに残るもよし、一緒に来るのもいいです。でも……これから私とフェニアが向かうのは、戦場です。どうしますか?」

「…………」


 アネルは答えられない。

 そもそも、なぜ自分から「何か手伝いますか」なんて言ったのかさえわからなかった。

 戦う意志なんてない。家事手伝いしかしたことがないアネルにとって『戦い』は物語の世界でしかない。

 でも、なぜだろうか。

 アネルの両足が、熱く燃えるような気がしたのだ。


「アタシ、戦いなんてできない……でも、なんでだろう。このままここに残って待つなんてできない。アタシが行ったところで隠れてるくらいしかできないけど、行かなきゃいけない気がする……さっきの右手の人、戦ってるんだよね?」

「うん。戦ってる……あいつも、平穏のために」

「……行く。行こう!!」

「はい!! では参りましょうか」

「よーし!! はばたけ『グリフォン』!!」


 グリフォンが、エメラルドグリーンの風と共に姿を現した。

 フェニア、サフィー、アネルが乗り、上空へ舞う。


「よし!! S級召喚士で魔人を討伐するわよ!!」

「はい!!」

「え、えす級?……」


 三人は、大空へと羽ばたいた。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンとウィルはかつてない苦戦を強いられていた。

 

「はぁ、はぁ……クソ、こいつ強い!!」

「チッ……このままじゃジリ貧だな」


 周囲の地形が変わっていた。

 ドームは完全に崩壊し、周囲の宮殿も軒並み崩れている。

 それだけではない。黄金の柱や宝石が付いた武器がそこら中に散らばっていた。


「さぁさぁどうした? 我はようやく温まってきた!! 少々本気でお相手しよう!! 『ゴールデン・ドーン』!!」

「「───!?」」


 突如、地面から巨大な円柱がせり上がってきた。

 しかも一本ではない。太さも長さもバラバラで、宮殿の真下から生えてきたおかげで周囲の建物で無事な物はなくなった。


「な、おい!! ここ、お前が作った村じゃないのかよ!? 壊れちまうぞ!!」


 アルフェンが叫ぶ。やや論点がズレた叫びだが、ヒュブリスは答えた。


「ははは。こんなところまた作ればいい。欲に飢えた豚など吐いて捨てるほどいるからね!! それよりも今はきみたちに夢中さ!! 『ゴールデン・バランス』!!」


 すると、巨大な黄金の天秤が地面からせりあがってきた。

 大きさが半端じゃない。数十メートルの高さに、秤部分だけで村一つ掬えそうな大きさだった。

 そんな秤がユラユラ揺れ、受け皿から宝剣や巨大な宝石、肖像画や彫像がバラバラと雨のように降ってくる。滅茶苦茶な光景だった。


「おい、あの受け皿止めろ!!」

「わかってるよ!! 『停止世界(パンドラ)』!!」


 アルフェンは受け皿に向かって右手を伸ばす───が、真横にヒュブリスが現れた。


「きみの弱点がもう一つ───能力を行使すると酷く無防備だ」

「───」


 ヒュブリスの手が、手刀のようになっていた。

 ウィルはヘッズマンを向ける。

 だが、ヒュブリスが速い。

 アルフェンの心臓を狙った突きが、目の前に。


「マルコシアス、『アイスブレッド』!!」

「ぬっ」


 ガツン!!と、氷の塊がヒュブリスの頭に命中した。

 アルフェンは慌てて距離を取る。


「遅くなりました!!」

「ここから挽回よ!!」


 上空にフェニア、マルコシアスに乗ったサフィーがいた。

 さらに驚いたことに、マルコシアスにはアネルが乗っている。


「アタシにできることがあれば手伝うから!!」

「……ああ、わかった!! ウィル、いけるか?」

「おう。へへ……なんだぁ? S級の大集合じゃねぇか」


 ウィルは再びヘッズマンをヒュブリスに向ける。

 マルコシアスの周囲に氷の剣が何本も浮かび、グリフォンの周囲にエメラルドグリーンの竜巻が何本も巻き起こる。

 アルフェンは再び右腕を構え、ヒュブリスに言った。


「ここからは、本気で行くぞ!!」


 『傲慢』の魔人ヒュブリスは狂ったような笑みを浮かべた。


「な、なんという傲慢……雑魚が増えただけで、我に勝てると、そんな顔を我に向ける……す、素晴らしいぞ、素晴らしい傲慢さだ!! ああ、こんな豚連中とは違う。きみたちの傲慢さが素晴らしいィィィィィィィィィッ!! 育てがいがある。実にいい!!」


 天秤が再び動きだし、財宝の雨が降ってきた。

 ヒュブリスは狂ったような笑みを浮かべ、泣き、よだれを垂らす。


「あぁぁぁ~~~我慢できん!! き、きみたち、最高だ!! なんでも欲しい物を与えよう。きみたちを徹底的に至福にしてやる!! スパイスに少し恐怖を与え……完成だ!!」


 意味が分からなかった。

 支離滅裂。表情もグニャグニャ歪んでいる。


「は、恐怖だと? オレらをビビらせようってか?」

「そうだ。真の至福を得るには適度なスパイスとして恐怖が必要なのだよ。ここの豚を育てるのにも使った……金を与え、娯楽を与え、そして少しだけ恐怖を与えた。ここの連中に与えたのはミノタウロスの大群(・・・・・・・・・)が迫るという恐怖(・・・・・・・・)だがね」

「───え?」

 

 ここで、アネルが反応した。

 ミノタウロスの大群。アネルは妙に気になった。

 アネルはポツリと呟いたが、ヒュブリスには聞こえていた。


「ミノタウロスの、大群……?」

「ああ!! 我の魔法で遠方から呼び寄せたのだよ!! ここがミノタウロスの大群に襲われると豚共を煽り恐怖を与え……ギリギリまで怯えさせ安心させる。恐怖により醜く心が歪み」

「それ、いつ?」

「───む、我の話を遮るとは。まぁいい。つい最近だよ。ははは。二千の軍勢を遠方から呼び寄せたのだ。いやぁ苦労したぞ。移動の際にいくつか村が消滅(・・・・・・・・)したみたいだが(・・・・・・・)───」


 と、ヒュブリスが言えたのはここまでだった。

 ゆるりと、アネルがマルコシアスから降りたのだ。

 同時に、アネルの両足が真紅の『脚鎧』となる。


 ブシュゥゥゥゥーーー……と、アネルの両足から蒸気が噴き出した。


「村が、いくつか、消滅、した……?」


 アネルの両足は、生身ではなかった。

 鉄の芯、細長いコード、バネ、歯車がキュルキュル噛み合い回転している。

 鎧の装甲が開き、噴射口のようなモノが形成された。

 ガシャガシャと、鉄と鉄が噛みあう音が響く。あまりの異質さに、アルフェンたちは動けなかった。


「あ、んたが……アタシの……家族、を……?」

「おお、なんだねその足は? ふむ?」


 アネルの中に、どす黒い感情が沸き上がる。

 怒り、悲しみ、復讐心。目の前にいる魔人を殺してやりたかった。

 その感情に呼応するように、アネルの両足がガシャガシャ音を立てる。


「許さない……!!」

「ふふ、きみも戦うのかね? いいぞ、相手になろう!! かかtt───」


 ヒュブリスは最後まで言えなかった。

 一瞬。光並みの速度でヒュブリスの正面に移動したアネルの蹴りが、ヒュブリスの顔面に突き刺さった。

 爆音がして、ヒュブリスは音速並みの速度で吹っ飛び、巨大天秤に激突した。

 天秤が砕け、ガラガラと崩れていく。


「……マジか」

「とんでもねぇ……」

「い、一撃……」

「まぁ……」


 アルフェンたちは、唖然としたまま動けなかった。

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