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傲慢なる紳士

 時は少し巻き戻る。

 アルノーとウィルが黄金のドームに向かった頃。

 見張りや奴隷を上手く掻い潜り、ドーム傍まで来た。

 ドームの周辺は何もない。木々も、置物も、身を隠せるような場所がなかった。

 入口は、兵士が守る黄金のドアが一つ。窓もない。あまりにも不自然な建物だ。


「なんだここ……宝物庫か?」

「宝物庫なら、もっと目立たない場所に建てるだろう。それに、このドーム状の建物……あまりにも不自然だ。入口は一つだけ、周囲に身を隠せる場所もない……容易く侵入できるが、それが罠にも」

「もういい。で……どうする、行くか?」

「ここまで来てその質問か? 行くしかないだろう」

「うし……見張りはどうする?」

「任せろ」


 アルノーは『ガラハド』を構え集中する。


「跳躍……」


 ウィルの背後にいたアルノーは消え、ドームの入口ドア、見張り兵士二人の背後へ一瞬で回った。

 そして、懐から取り出した二本の針を見張りの首に刺すと、見張りは一瞬だけビクンと震え、すぐに動かなくなった。

 ウィルは、アルノーが手招きしているのを確認して近づく。


「お前、何を刺した?」

「麻酔針さ。それと弛緩剤も付与してある。これなら眠らせたまま筋肉を硬直させることができるから、立たせたまま眠らせられる。おかげで怪しまれない」

「……お前、騎士辞めて暗殺者にでもなれよ。怖すぎるぞ」

「ははは。冗談を言うな」

「けっこう真面目だけどな……」


 ウィルは、左腕を翡翠の集合体のような腕、『ヘッズマン』に変える。

 アルフェンと違い、左腕だけが変わる。人差し指は銃口に、親指を照準器に。

 

「さて、行くぞ……気ぃ引き締めろ」

「それはこっちのセリフだ。ウィル、いきなり突撃せず、可能なら暗殺でいくぞ」

「へいへい……じゃあ、行くぜ」


 ウィルは左腕を構え、アルノーがそっとドアを開け───銃を構えた。

 中は蝋燭の火が灯るだけの通路があった。

 二人は頷き、ゆっくり進んでいく。


 ◇◇◇◇◇◇


 通路の奥に、扉があった。

 ウィルとアルノーは気配を殺し、ゆるりとドアに近付き、ドアノブを掴む。

 そして、ほんの少し……ほんの少しだけ、ドアノブをゆっくりひねっていく。

 カキン───虫の羽音ほどの音がし、ドアが開いた。

 ゆっくりと、少しだけ見えるようにドアを開ける……そこには。


「ヒュブリス様、今月の私は金貨八千枚、白金貨四十枚を消費しました。くふふ……召喚獣ギルドに代わる新しい組織を立ち上げると言ったら、ギルドの連中、真っ青になっていましたわい。金貨を床にばら撒いて、ギルドの連中に拾わせる遊びはたまらんのぉ……ぶひゃっはっは!!」

「うんうん!! いい、実にいい顔だ。まるで豚……いや、豚以上、人未満!! 貴様は傲慢な、素晴らしいブタだ!!」

「ぶひぃぃぃ!! ありがたき幸せぇぇぇぇ~~~!!」


 その部屋には、大量の『豚』がいた。

 黄金の玉座に座るのは、褐色肌に白髪、ツノの生えた四十代ほどの男……魔人ヒュブリス。

 そして、跪いているのは……豚、いや……全裸の人間だった。

 だが、その人間の男女たちは醜く肥え太り、羞恥で顔を歪ませるどころか恍惚の表情を浮かべている。

 現在、ヒュブリスと話しているのは、アルフェンたちを買った貴族、ブーバッキーだった。


「では貴様たち……褒美の時間だ」

「「「「「ぶふぉぉぉぉぉぉ~~~んっ!!」」」」」


 ヒュブリスが手を上に向けると、じゃらじゃらと宝石が手のひらから現れた。

 宝石だけではない。金貨、銀貨、白金貨と、お金がじゃらじゃらとあふれ出てきたのだ。

 しかも、ヒュブリスの手から出てくる財宝は止まらない。全裸の豚人間たちが床に散らばったお金を必死に拾い集める姿を見て、ヒュブリスの顔がプルプルと歪んでいく。


「はぁぁ~~~ッ!! いい、実にいい!! 他者を見下す傲慢な豚!! 痩せ細った農民がこうも醜いブタになるなんて!! 慎ましく一日一食だけで暮らしていた謙虚さは消え、飽きるほど肉を喰い肥え太った姿は最高だ!! こんな醜いブタが、豚が……かつての自分たちと同じ農民を見下し、金にモノを言わせて買い、家畜のように飼うのだぞ!? ああ、どこまで傲慢なんだこの豚どもは!! はぁ、はぁ、はぁ……ああ、最高すぎるぅぅぅぅぅっ!! キモチいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 ヒュブリスは、金貨を拾い集めるブタを見ながら叫んでいた。

 アルノーとウィルは気付いた……ヒュブリスの一部が、ズボンを押し上げていることに。

 

「気持ち悪い……おい、今なら殺せるか?」

「……暗殺だ。ウィル、お前の能力ならいけるだろう?」

「ああ。やってやるぜ」


 ウィルの能力は『貫通』で、どんな物でも貫く銃弾を放てる。

 能力を乗せずに弾丸を撃てるが、威力はやはり低い。

 主な形態は現在三つ。

 人差し指から放つ『拳銃』と、狙撃用の『狙撃銃』、そしてもう一つある。

 ウィルは、拳銃形態のまま弾丸に能力を込め、ドアの隙間から指をねじ込んだ。

 狙いはヒュブリスの脳天。

 アルフェンたちの出番はない。ウィルはそう思い、心の中で引金を引いた。


「───」


 そして、見た。

 ウィルは、ヒュブリスと目が合った。

 気付いた時にはもう遅い。ヒュブリスは少しだけ首を傾け、『貫通』を込めた銃弾を躱した。

 弾丸はヒュブリスの背後に命中。黄金の壁を貫通し、飛んでいった。


「招かれざる客か。せっかくいい気分だったのが台無しだ」


 豚たちが、ギョロっとした眼で入口ドアに振り返る。

 もう、逃げられなかった。

 ウィルはドアを蹴り開け、左腕をヒュブリスに向ける。


「『機関銃(マシンガン)』!!」


 第三の形状変化。

 左腕が巨大化。銃身が伸びる。

 狙撃銃とは違うフォルムに変化し、銃口から火を噴いた。


「喰らいやがれぁぁぁぁーーーーーーッ!!」


 ボボボボボボボボボッ!! と、通常とは違い弾丸の発射音がする。

 豚たちは恐怖で身をかがめ、ヒュブリスは楽し気に弾丸を回避した。

 ちなみに、豚たちは金貨を抱えて逃げ出した。


「ホホホホホッ!! 召喚獣と一体化……いや、寄生されているのか。そしてこの弾丸!! 我の『黄金壁』を貫通するとは!! 我でも喰らうのはまずそうだ」


 ヒュブリスは円を描くように走り出す。

 狙いはウィル。ウィルは機関銃を解除、拳銃形態に戻し、迫るヒュブリスに向ける。


「───跳躍」

「ほう?」


 ヒュブリスの背後に現れたアルノーが、ガラハドを横薙ぎに振るう。

 だが、ヒュブリスは身体を反って回避。しかも、アルノーに向かってウィンクまでした。

 そして、強烈な回し蹴りをアルノーに食らわせる。信じられない体勢からの蹴りに、さすがのアルノーも回避できなかった。


「ガッはぁぁぁっ!? げっほ、ゲッフォ……」

「おい!? くっそ、この野郎!!」

「はははははっ! 久しぶりにいい運動になりそうだ!! さぁさぁ、左腕の少年よ、楽しませてくれ!! 我はまだ能力も使っていないぞ!!」

「……上等だ!!」


 ウィルは青筋を浮かべ、ヘッズマンをヒュブリスへ向ける。

 そして、小声でつぶやいた。


「おい、生きてるか」

「あ、ああ……すまん、役に立てなかった」

「まだできることはある。あいつを連れてこい……あの右腕馬鹿をよ」

「……わかった。死ぬなよ」

「ああ。終わったら酒奢れよ」


 アルノーは血塗れの顔で笑い、跳躍した。

 ヒュブリスは、両腕を広げてウィルを迎えるように挑発する。


「さて少年、この我に戦いを挑む勇気は認めよう。だが……無謀ではないかね?」

「やかましい。それと……お前に聞きたいことがある」

「ほう?」

「『色欲』……そいつの居場所を教えろ」

「ほう、姉上を? フム……つい最近アベルが死んだと聞いたが、何か関係があるのかね?」

「大ありだね。いいから……さっさと吐け」

「ははは。若い若い……最近運動不足でね。質問の答えは遊んでからかな?」

「───ぶっ殺す」


 ウィルのヘッズマンが弾丸を放つ。

 ヒュブリスとウィルの戦いが始まった。

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