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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第三章

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黄金の町

 アルフェンたちを乗せた馬車は、魔人ヒュブリスのいる村に到着した。

 到着するなり、ウィルは顔をしかめる。


「……なんだありゃ。クソ悪趣味だな」


 村は、黄金の壁に守られていた。

 さらにこの黄金の壁。登り龍の彫刻が掘られていたり、魔獣をモチーフにした像が取り付けられていたりと悪趣味だ。正直、ウィルは近付きたくないと思っている。

 だが、アルノーは違った。


「ウィル。中で起こっている違法行為を全て覚えておいてくれ。アースガルズ王国騎士の証言はそのまま証拠になるからね」

「は、証言だけでいいのかよ? 騎士が悪事に手を染める場合だってあるんだぜ?」

「ああ。ダモクレス隊長の部下に不正をする騎士はいない。それに、騎士団の中に嘘を見破ることができる召喚獣を持つ者もいる」

「ほお、便利だな……わかったぜ。それと、後ろの連中に奴隷っぽくしてろと伝えてくれや」

「ふ、わかったよ」


 アルノーは御者席の真後ろにある窓を開けた。


「三人とも、到着したよ……気を引き締めてくれ」

「「「はい」」」


 三人は緊張気味に返事をした。

 そして、黄金の門の前に到着。屈強そうな男が四人、門を守っていた。

 四人とも装備が整っている。それに、装備している武器も立派だ。剣、槍、斧、弓。近中遠とバランスの取れた装備は、この四人がチームであることを物語っている。

 アルノーは、ブーバッキーからもらった書類を見せた。


「ガラハド奴隷商館です。ブーバッキー様がお買い上げになられた奴隷をお届けに上がりました」

「……よし。では中へどうぞ。ブーバッキー様専用の奴隷屋敷へご案内します。そちらで、報酬のお支払いをしますので」

「ありがとうございます」


 大きな黄金の門が開いた。

 中から出てきた案内人が馬車を誘導する。

 ウィルが手綱を握り、気付かれないように周囲を警戒していた。

 アルフェンたちも、窓から外を眺めていた。


「うわぁ……なんか気持ち悪いな」

「同感……」

「め、目が痛くなりますね……」


 町と表現すればいいのか。

 巨大な宮殿がいくつもあった。しかも全てが黄金に輝いている。道は丁寧に舗装された煉瓦道で、噴水や魔獣を模した彫像などがいくつも飾ってある。

 緑や植物が少なく、人の作った物ばかり溢れていた。


「確か、住人は元農民だっけ……?」

「うん。そう聞いてるけど……これを見ると、農民とは思えない暮らしね」

「それに、田畑があったなんて思えないくらい変わっちゃってます……」


 そして、馬車が到着したのは、立派な造りで頑丈そうな煉瓦造りの小屋だった。

 そこでアルフェンたちは降りる。

 小屋から、立派な服を着た女性が何人か出てきた。支払い関係らしい。

 ウィルが対応している間、アルノーはアルフェンたちの様子をチェックする風に見せかけ、小声で言う。


「私たちは支払いを終えたら一度外に出る。その後、ウィルが侵入し魔人に関する情報を得て、可能なら暗殺する。不可能になった場合、直接対決もありうる……その時は頼む」

「わかりました。あの、首輪のカギは……」

「私の『能力』で運ぶ。安心したまえ」


 アルノーの召喚獣の能力。アルノーは『装備型』で、剣の召喚獣ガラハドをもつ。どのような能力かはまだ知らない。

 すると、支払いを終え、大きな金貨袋を持ったウィルが戻ってきた。

 

「大金だぜ大金。へへへ、旦那よぉ、どこかデカい町で女でも買って一杯飲まねぇか?」

「……じゃ、行くぞ」


 どこまでが奴隷商人としての芝居なのか、ウィルは本気のようにも見えた。

 フェニアは「サイッテー……」と呟き、サフィーも「最低です……」と言っている。

 アルフェンは、そんな話より周囲を見ていた。


「……いないか」


 あの、アネルという少女だ。

 同じタイミングで出発したから、どこかにいるはずなのだが。

 

「じゃ、元気でな。ご主人様に奉仕しろよ!」

「では、失礼する」


 ニヤニヤするウィルと、ため息を吐くアルノーは、馬車に乗って出て行った。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンたちは、奴隷用の住居に入る。

 そこには、綺麗な服を着た男女が、優雅にお茶を啜っていた……まるで奴隷とは思えない雰囲気に、アルフェンたちは毒気を抜かれる。

 すると、ウィルと会計処理をしていた女性が言う。


「まずはシャワーを浴びて。次に採寸、そしてお着換えをしましょう。あなたたちの部屋には後ほど案内しますので」

「あ、あの……ど、奴隷、ですよね?」


 たまらずフェニアが質問した。

 すると女性はにっこり笑う。


「ええ。ですが、我らの主ブーバッキー様は、我々をこよなく愛し可愛がってくれます。ちなみに、この『魔人ヒュブリスの楽園』内の『寵愛者』の中でも、五指に入る寵愛をお受けしているんですよ」


 情報は武器、アルノーは言っていた。

 ここは『魔人ヒュブリスの楽園』という場所で、農村だったころの住人は『寵愛者』と呼ばれている。さらにブーバッキーは寵愛者の中でも相当な地位にいる者だ。

 アルフェンは同い年くらいの少年に、フェニアたちも別の女性に連れられシャワー室へ。

 服を脱ぎ、シャワーを浴びる。


「黄金のシャワーヘッド、高級石鹸にシャンプー……すごいな」


 アルフェンは遠慮なくシャワーを浴び、与えられた服に着替えた。

 ゆったりとした黒い上下で、アルフェンによく似合っている。

 シャワーを終えると、広い部屋に案内され、柔らかそうなソファに座るよう言われた。

 それから数分後……ドアがノックされ、フェニアたちが来た。


「お、来たか……うぉぉ」


 二人はドレスを着ていた。

 二人の髪色によく合うドレスだ。スカートは短く、素足が綺麗に見えた。

 アルフェンは、思わず魅入ってしまう。


「や、やっほー……な、なんかすごいのよ」

「わ、私も、こんな服着たことありません……」

「ああ、その……似合ってんじゃね?」

「は? な、なによそれ」

「もう、褒めるならちゃんと褒めてください!」

「い、いや……ごほん。ほら座れって」


 アルフェンの右にフェニア、左にサフィーが座った。 

 すると、先程案内した女性が部屋に入ってきた。アルフェンたちの正面に座る。


「では、ここに住む上での注意事項をご説明いたします」

「「「は、はい」」」

「一つ。主ブーバッキー様の命令は絶対です。ブーバッキー様の命令は全てにおいて優先されます。二つ、奴隷同士の性行為は厳禁です。我々の身体は全てブーバッキー様のもの。三つ、奴隷同士の争いも厳禁です。これがブーバッキー様の奴隷として守るルール。そのルールを守るのでしたら、それ以外は何をしてもかまいません。お茶を飲むのも、ブーバッキー様の与えられた敷地内で遊ぶのも、本を読むのも勉強をするのも自由です。それと、食事の時間は朝昼晩と決まった時間に食べられます。シャワーはいつでも使えるので、ご自由にどうぞ」

「……すごい待遇だな」


 アルフェンは思う。これ、奴隷なのか? ……と。

 だが、目の前の女性は真面目に言う。


「ブーバッキー様はお優しい方です。あと数時間後にお戻りになられますので、まずはあなたたち三人……いえ、先程入った方も合わせて四名ですね。まずは四人でご挨拶をします」

「四人……もしかして、赤い髪の」

「ええ。ご存じなのですか?」

「え、あっと……その、同じ奴隷オークションで、ブーバッキー様に落札していただいたので」

「なるほど。では、せっかくなのでその子をお任せしてよろしいでしょうか? 一言も話さないし、シャワーや着替えすら一人でできない子で……」

「あー……わ、わかりました。な、いいよな?」

「え、ええ」

「は、はい!」

「では、話はこれでおしまいです。赤髪の子は自室にいますので」

「わかりました」


 女性はアネルの部屋の場所を教え、部屋を出た。

 アルフェンたちも部屋を出る。


「よし、アネルって子のところに行ってみよう」

「……大丈夫かな。話、聞いてくれると思う?」

「でも、行かないと始まりません!」

「サフィーの言う通りだ。ウィルやアルノーさんが情報を集めている間、俺たちはできることをやるぞ」

「うん! それにしても、こんなに待遇いいとは思わなかったわ……もしかしてあのミノタウロスみたいな、ブーバッキーだっけ? いい奴なのかも」


 ドレスのスカートをちょんと持ち上げるフェニア。

 確かに、アルフェンたちが思っていた奴隷待遇とは違う。かなり居心地のいい空間だった。

 だが、一つだけ。


「で、でも……その、せ、性行為って……」

「あたし、絶対嫌。もし襲ってきたら舌噛んで死ぬ」

「わ、私もその……お相手は人間の方がいいです」

「いや、人間だからな? つーか、そんなことさせないって。ウィルやアルノーさんを信じよう」


 アルフェンたちは互いに頷き、アネルのいる部屋へ向かって歩き出した。

 歩きながら建物を見たが、ここはどうやら学生寮みたいな造りだ。男女しっかり分かれ、各部屋の行き来は自由になっている。

 奴隷同士の恋愛、性交は禁止というわりにガードは甘い。

 アネルの部屋の前で、アルフェンは言う。


「えっと、女の子の部屋だよな……俺、入って大丈夫か?」

「……あんた、先頭きって歩いてたのに」

「う……サフィー、頼む」

「お任せください! ……では」


 サフィーはドアをノック……反応がない。

 もう一度ノック……反応がない。さらにノック、ノック……反応なし。


「いないみたいです」

「おかしいな……」

「んー……ちょっとだけ失礼して、っと……あ!」


 フェニアが少しドアを開け中を見ると、ベッドにうずくまる赤髪の少女がいた。

 まるで置物のように動かない。フェニアはドアを軽くノックする。


「その、入るね……お邪魔しま~す」

「失礼いたします」

「……お、お邪魔します」


 アルフェンが最後に入り、ドアを閉めた。

 アネルは、アルフェンたちが入ってきたのにピクリとも反応しない。

 そして、ゆるゆると顔を向ける。


「……」


 長い沈黙。

 シャワーを浴びたのかシャンプーの匂いがした。服もフェニアたちと似たワインレッドを基調にしたドレスで、長い赤髪は波打ち、ポニーテールにまとめられている。

 かなりの美少女だ。だが……濁った眼が、全てを台無しにしていた。

 アルフェンは、意を決して聞いた。


「きみのこと、あの奴隷商人から聞いた……その、大変だったな」

「…………」

「全部、失ったんだな」

「…………」


 アネルは、ゆるりとした首の動きでアルフェンを見た。

 その眼は、どこまでも濁っている……まるで、泥沼に浸かっているような眼だった。

 

「その、きみの召喚獣が、きみを守ったって聞いてさ。俺と同じなんだ……俺も死にかけて、召喚獣が守ってくれた……新しい右腕になって」

「…………ぃ」

「え?」


 アネルは小さな口を動かし、何かを呟いた。

 フェニアとサフィーは顔を見合わせ、少しだけ近づく。

 アルフェンも、アネルの変化を見逃さないように近づき、聞いた。


「───死にたい」


 ポツリと、アネルの眼から涙がこぼれた。


 ◇◇◇◇◇◇


「───っと」


 ウィルは一人、『魔人ヒュブリスの楽園』に戻ってきた。

 黄金の塀を跳躍で上がるくらい、寄生型召喚獣を持つ身なら朝飯前だ。

 ウィルはすでに奴隷商人の服を脱ぎ、アースガルズ召喚学園の制服を着ている。この制服には防刃、多少の衝撃吸収機能が備わっており、戦闘服にもなるのだ。

 B級以上の生徒になると、専用スーツを作ってもらえることもあるが……発足したばかりのS級では、この制服だけで精一杯だった。

 ウィルは塀の上で身をかがめ、ヒュブリスの楽園を観察する。


「……宮殿が十以上、兵士が山ほど、んで……奴隷も山ほどいるな。ってか、奴隷のくせにいい服着てやがる。それに……なんだ? あの奴隷たち、遊んでんのか?」


 ウィルのいる場所から見える宮殿の中庭で、奴隷らしき少年たちがボールを蹴って遊んでいたのだ。

 それだけじゃない。宮殿の庭にある東屋では、少女たちが談笑しながらお茶を飲んでいる。

 平和な光景に、ウィルは逆に不気味さを感じた。


「……元、農村に合わない不意釣り合いな光景……は、歪んでやがる」


 つまらなそうに吐き捨て、ウィルは塀の上をゆっくり移動する。

 塀の上から見える宮殿の一つに目を付ける。


「……楽園の中心。あそこが怪しいな」


 ヒュブリスの楽園の中央に、巨大な宮殿があった。

 黄金のドーム、という表現が相応しいかもしれない。ほかの宮殿は人が住むような形をしているが、その中央のドームだけ窓もなく、入口が一つしかない。


「……あそこだな。よし、『いいぞ』」


 ウィルが呟くと、ウィルの隣の空間が歪んだ。

 そして、歪んだ空間が消えると同時に、アルノーが現れた。


「便利な能力だな。『空間跳躍』だっけ?」

「ああ。我が召喚獣『ガラハド』の能力だ。だが、跳躍できる距離は最大五百メートルで、その地形を把握していなければならない。建物の内部など、情報が頭の中になければ使えないがね」

「それ、剣だろ? 斬り合いしてる最中に真後ろに『跳躍』すれば一発で勝ちだな。それか、一対一の戦いに割り込むとか」

「私は騎士だ。そういう使い方はしない」

「硬いねぇ……まぁいい。あそこのドームが怪しい、行くぞ」

「ああ」


 ウィルとアルノーは、見張りの兵士がいない場所を選んで飛び降りた。

 塀は高いが、アルノーは何の迷いもなく飛び降り着地。


「へぇ、やるな」

「ダモクレス隊長に鍛えられている。召喚獣だけでなく、己こそ真の武器だとな」

「あのオヤジらしいぜ。っと……おい、見つかるなよ」

「安心しろ。斥候(スカウト)の訓練も受けている。仲間内では最も優秀だった」

「あんた、暗殺者のが向いてんじゃね?」


 二人は木陰に隠れ、巡回の兵士をやり過ごそうとする。だが、兵士は注意深く、なかなか去らない。

 ウィルは左腕を銃に変える。


「おい、なにを」

「いいから見てろ」


 ウィルは銃口を兵士がいる反対側の藪に打ち込む。

 藪がガサガサっと揺れ、兵士は剣を抜き藪を注視……ゆっくりと近づいた。


「行くぞ」

「ああ。やるな」

「へ、ありがとよ」


 その隙に───ウィルとアルノーは音もなくドームへ向かった。

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