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町へ到着

 二日後。

 アルフェンたちの馬車は、アースガルズ領にある小さな町に到着した。

 ここから馬車を乗り換え、着替えをして奴隷に扮し、奴隷オークションが行われている村へ向かう。

 まずは、宿に向かい準備をすることに。

 宿へ向かう途中。アルノーは退屈そうに座るウィルに言う。


「ガーネット様が手配した奴隷運搬用の馬車がある。そこで奴隷商人に扮するぞ」

「あいよ。で、オレはあんたの補佐か。揉み手の練習でもしておこうか?」

「お前の役目は私の指示に従うことだ。いいか、奴隷オークションが開催される村では、アースガルズ領土以外から来る奴隷商人も多く集まる。決してもめ事を起こすなよ」

「へいへい。オレはあんたの部下。馬車馬みたいに働きますよ、っと」

「ふ……」


 アルノーは手綱を握る力を強くし、絞り出すように言う。


「……おそらく、違法な奴隷商人も多く集まるはずだ。くそ……検挙できないのが悔しいところだ」

「奴隷ねぇ……」


 アースガルズ王国領土内では、奴隷は違法ではない。

 だが、認められているのは『犯罪奴隷』と『職務奴隷』だけだ。

 犯罪奴隷は、そのままの意味で犯罪を起こした者が罰として奴隷に落ちること。

 職務奴隷は、やむを得ず自らを売りに出し奴隷となる者だ。職務奴隷の場合期間が定められており、年数に応じて支払われる金額が違う。職務奴隷の多くは、食い扶持に困った一家が、やむを得ず子供を売りに出すという苦肉の策だ。職務奴隷は性的なことを強要することができない。


「違法奴隷か……ガキが多いって聞くな」

「ああ。性的奉仕込みで売買される。腐った貴族や金持ちの慰み者としてな……!!」


 アルノーは、今までにない怒りの表情を見せた。

 ウィルは大きな欠伸をする。


「……じゃあ、顔を覚えておこうぜ。魔人ぶっ殺したらまとめて成敗すればいい」

「……ふ、そうだな」

「騎士さんよ。オレらにあーだこーだ言うのはいいけどな……あんたみたいな正義感の塊が、違法奴隷ばかりのオークションに耐えられるのか?」

「……正直、自信がない。と言えばいいのか?」

「はは、わかってんならいい」

「ふ、見くびらないでもらおう。まずは魔人、そして次が違法奴隷商人だ」


 アルノーの握る手綱が、少しだけ緩んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿屋に到着し、男女別で二室部屋を取り、荷物を置いて男子部屋に集合した。

 執事の娘であるフェニアが全員にお茶を淹れようとすると、ドアがノックされる。

 アルノーが、ドア越しに質問した。


「紅茶の差し入れか?」

「いえ、ワイン一本とエール二杯です」

「……入れ」


 合言葉だ。

 入ってきたのは男性。大きなカバンが二つ一緒だった。

 カバンを置くなり説明する。


「こちらが奴隷用の服。こっちが奴隷商人の衣装です。奴隷商人用の馬車はこの宿の厩舎に預けてあります。これを」

「ああ、助かる」


 アルノーは書類を入れるカバンを受け取り、中身をチェックする。

 確認を終えると小さく頷き、男性に言った。


「確認した。全て揃っているようだな」

「はい。では、あなた方が乗ってきた馬車は自分が乗っていきます。荷物も預かりますので、全て終わったらこの町で合流しましょう」

「ああ、わかった。それと助かった」

「いえ。では……」


 男性は音もなく去った。

 アルフェンたちは、口を挟む暇もなく、今のやり取りを見ていた。

 そして、ポットのお湯がすっかり冷めてしまったことに、フェニアはようやく気付く。

 アルノーはお茶を制し、さっそく説明を始めた。


「今のはガーネット様の私設部隊……と表現するしかないな。ガーネット様に忠誠を誓っている兵士だ。まぁ、ガーネット様が出資している孤児院出身の孤児だがな」

「聞いたことがあります。おばあ様、私財を投げうって、王国で孤児院を経営してるって」

「その通り。と、それよりも……いよいよ明日だ。奴隷オークション会場の村に乗り込む」


 アルフェンは挙手し、アルノーに質問した。


「あの、なんで辺鄙な村で奴隷オークションをやるんですか?」

「簡単だ。足が付きにくいからさ。小さな村の場合、住人全てが買収され、村の集会場などの地下に奴隷オークション会場を設営している。馬車ごと入れる洞窟などもあるな」

「なんと……」


 奴隷の闇に触れたアルフェンは何とも嫌な気分に。

 そして、アルノーは書類を取り出す。


「まず、これが奴隷売買許可証。私がこれを持つことで奴隷商人になる。そしてウィル、お前は私が経営する奴隷商館の従業員。アルフェンくん、サフィーくん、フェニアくんは、奴隷商館の商品だ。衣装もあるから、明日になったら着替えてくれ」

「「「はい」」」

「へいへい」


 ウィル以外は重い返事をした。

 いよいよなので、緊張しているようだ。


「奴隷オークション関係の話は私とウィルがする。きみたち三人はあくまでも『商品』だ。大人しくしてくれればいい。それと……奴隷は全て『召喚封じ』の首輪が付けられる。召喚獣は呼べなくなるから、気を付けてくれ」

「しょ、召喚封じ?」


 召喚封じ。

 その名の通り、召喚獣の召喚を封じる首輪だ。

 授業で習った内容は、捕虜の拷問などに使われたということだ。


「なに。心配いらないさ。商品である奴隷を傷つけるようなことはない。逃亡を計ったり、暴れたりする奴隷を押さえつけるためのものだ」

「わ、わかってます。でも、不安だな……」

「あ、あたしも……」

「あの、召喚獣を予め呼び出しておく、というのは……?」

「ダメだ。そんなことをしたら、召喚封じを嵌めただけで爆発する」

「ひっ……」

「とにかく。打ち合わせ通りに行こう……明日は朝食を食べたら着替えて出発。オークション会場の村まで馬車で二時間ほどだ」


 少し細かい話をして、アルノーの話は終わった。

 アルノーは、締めくくる。


「では、話はここまで。今日は外出せず、明日に備えてゆっくり休んでくれ。食事は部屋で取ること。以上!」


 この日、アルノーの言いつけ通り、アルフェンたちは外出せず過ごした。

 フェニアやサフィーも、外出せず部屋に戻る。二人も緊張しているようだ。

 ウィルは変わらず昼寝をし、アルノーは読書をしていた。ちなみにアルノーの読んでいる本は『奴隷商人になるには』というタイトルだった。

 アルフェンも、やることがないのでベッドに転がる。


「…………明日、か」


 傲慢の魔人ヒュブリス。

 七人の魔人、残り六人。

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