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融合召喚獣ダモクレス・タイタン

 アルフェンは、恐怖を押し殺し走り出す。

 タイタンと融合したダモクレスは、怖いくらいの笑みを浮かべていた。


「恐れず向かう勇気よし!! アルフェンよ……死ぬなよ!!」

「───ッ!!」


 隻腕だったダモクレスは、召喚獣タイタンと融合したことで右腕が復活している。

 しかも、その右腕の大きさたるや……左腕の三倍は膨張していた。

 もし、生身の人間が殴られれば木端微塵。肉片が飛び散る大惨事だろう。

 間違いなく、アベルより格上……いや、比べるのすら馬鹿らしい実力差だった。


 ダモクレスは、巨腕となった右腕を振りかぶる。

 拳が握られる。アルフェンは一瞬だけ考える。

 避けるか、受けるか。

 魔人クラスの強さを持つダモクレス相手に、どうするか。


「ほう!! 受けるか!!」

「来ぉぉぉぉぉぉいっ!!」


 アルフェンは右腕を限界まで巨大化。腕を伸ばし身体に巻き付け『硬化』する。

 両足をパワー全開で踏ん張り、右手を開いてダモクレスの拳を真正面から受ける。

 

「ドォォォォォォォッ!!」

「ガァァァァァァーーーーーーッ!!」


 アルフェンは吠えた。

 右の掌にこれまで感じたことのない衝撃が走る。

 『硬化』を使っているのは間違いない。右腕にダメージはないが、衝撃がアルフェンの身体を叩き潰す。

 

「ぐ、えぇぇっが……ッ!! ギギギッ!!」


 吐血した。

 だが、引かない。世界最強の一撃を身体に刻み込む。

 両足の感覚が消えかけていた。だが気合で踏ん張る。

 ダモクレスは───笑っていた。


「ワシの一撃を真正面から受けるとは!! 久しぶりに……血沸き肉躍る!!」

「───ダモクレス!!」


 ガーネットが叫ぶ。

 だが、ダモクレスに聞こえていない。

 アルフェンは、ダモクレスの一撃を辛うじて耐えた。

 意識が消えかけている。だが、ダモクレスは右腕をグルグル回転させ、威力を高めているように見えた。

 

「───ぁ」


 死ぬ。

 このままあの一撃を喰らえば、間違いなく砕け散る。

 『硬化』が消えた。右腕が元の大きさに戻り、アルフェンの脚も震えた。

 ガーネットが動いたような気がした───だが、ダモクレスは止まらない。

 

「───」


 ふと、右目が疼いた。

 ジワリと、熱くなった。

 世界が切り替わる───セピア色の、どこか寂しい世界に。


「ダモクレス!! 殺す気かい!?」

「───しまっ」


 ようやくガーネットの声が聞こえたようだ。

 だが……もう、拳は止まらない。

 ウィルがようやく左手をダモクレスに向ける。フェニアとサフィーも動く。

 アルフェンは、セピア色の世界で、ダモクレスの拳が迫るのを見た。


「───あれ?」


 そして、気付いた。

 ダモクレスの拳から『経絡糸』が伸びていることに。

 だが、サフィーの時のような感じはしない。拳から伸びた『経絡糸』が、生気を噴出していた。

 まるで、推進力に変えているように。


「───あ」


 もしかして。

 アルフェンは、右腕を伸ばした。

 ダモクレスの拳から出ている経絡糸はとても長い。まるで動物の髭のようにも見える。

 そして……経絡糸を掴み、思いきり右に引っ張った。


「ぬぉ!?」


 ダモクレスの拳の軌道が変わり、ダモクレスの体勢が崩れた。

 これが、アルフェンの最初で最後の勝機。

 残りの力を全て注ぎ込み地面を蹴り───叫ぶ。


「だぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 右腕を振りかぶり───ダモクレスの顔に叩き付けた。

 

「む……」


 だが、アルフェンは……すでに力尽きていた。

 拳が当たると同時に意識を失い、そのまま気を失った。


「……見事!!」


 ダモクレスの最後の言葉が、アルフェンには聞こえた気がした。


 ◇◇◇◇◇◇


 目を覚ますと、フェニアとサフィーがアルフェンを覗き込んでいた。


「うわっ!? ……な、なんだよ二人とも」

「よ、よかったぁ~……アルフェン、気を失っちゃって……よかったよぉ~」

「本当に心配したんですよ!! もう……」


 アルフェンは起き上がり、周囲を確認する。

 アルフェンが寝ていたのはソファの上で、S級寮の談話室のようだ。

 フェニアとサフィーは傍に、ウィルは近くに壁に寄り掛かっていた。


「ウィル……」

「……ふん」

「なぁ、あの後どうなったんだ?」


 アルフェンが質問すると、フェニアが答える。


「ダモクレス先生との戦いで気を失ったアルフェンを、ウィルがここまで運んだんです」

「ダモクレス先生、ガーネット先生にすごく怒られてたわね。やりすぎだーって」

「ガーネット先生は『話は終わり、今日はゆっくり休みな。あたしはダモクレスの馬鹿にお灸を据えなくちゃならないからね』って」

「なるほど……とにかく、これでわかった。ダモクレス先生もだけど、魔人がどのくらい強いのか」

「……おい」

「ん」


 ウィルは、なぜか悔し気な表情でアルフェンに質問した。


「お前、あのバケモノ相手になぜ怯まなかった。『融合(アドベント)』だと?……あんな馬鹿げた強さ、魔人を遥かに超えているぞ。お前、なんで向かって行けたんだ」

「……あー」


 フェニアもサフィーも同様だった。

 なぜ、アルフェンだけが動けたのか。


「確かに、お前の言う通り怖かったけど……モグがさ、『負けるな、強くなれ』って背中を押してくれた気がするんだ。俺は平穏のために魔人を倒すって覚悟を決めたから、あそこで引いちゃいけないって思えたんだ。それに……一人じゃない、お前たちもいるからな」

「……はっ」


 ウィルは帽子を深くかぶって鼻で笑う。

 だが、なぜか嬉しそうな声色だった。


「アルフェン……うん! あたしも強くなるから!」

「私もです! フェニア、頑張りましょうね!」

「うん!」


 女子二人もまた、気合を入れなおす。

 すると、寮の玄関ドアがノックされ───ガーネットとダモクレス、アルノーの三人が入ってきた。

 ガーネットはいつも通りだが、ダモクレスはボコボコに顔がはれ上がり、アルノーはなぜか青ざめている。


「アルフェン、悪かったね。こいつには落とし前を付けさせたから」

「がっはっは……はは、すまんかった!! ワシの拳を止める者など、生きててそう何人も会えんからのぉ……少し、昔の血が騒いでしまった」

「い、いや……あの、顔、大丈夫ですか?」

「問題ない!!」

「ほぉ……問題ない、ねぇ」

「いやいやいや!! 噓である、問題ありである!!」


 ガーネットの声色が変わった途端、ダモクレスは全力で首を振って否定した。

 アルノーも震えている……どうやら、ガーネットがダモクレスを殴る光景を見ていたようだ。

 緊張が緩んだかに見えた。だが、ウィルの質問で再び重くなる。


「いい加減に教えろ……あれほどの強さがあって、なぜお前たちは戦わない」

「……当然の疑問さね。いいだろう、教えてやる」

「ガーネット様、それは……」

「いいんだよアルノー、この子たちは知る権利がある」


 アルノーは黙り込み、ダモクレスは腕組みして目を伏せる。

 ガーネットは煙管を取り出し、煙草に火をつけた。


「簡単に言うと、あたしら二十一人の召喚士は、現アースガルズ王族との『契約』により、このアースガルズ王国外での召喚獣の使用ができないんだよ」

「……どういうことだ?」

「簡単さ。あたしら二十一人の召喚獣は、アースガルズ王国……いや、アースガルズ王族のみを守るためにしか使えない。王国の外じゃ召喚獣が使用できないんだよ。だから魔人はこの国を襲わない。あのアベルとかいうガキはそれを無視してきたようだがね」

「お、おばあ様……お、王族のみ、というのは」

「言葉のままさ。王族の連中は魔人を、魔帝を恐れている。だから自分の身を守るために、この世界を救った英雄たちを鎖で絡めとったのさ。はっきり言って、あたしらはわが身可愛さの道具みたいなもんさ」

「そんな……お、王族が」

「サフィー。一応言っておく……二十一の庇護下には公爵家も含まれている」

「え……」

「ま、気にしなさんな。とまぁ……これがあたしらが戦えない理由さ。あたしらは王国を出れば召喚獣を使えない。ま、呪いみたいなモンさね」


 ガーネットは淡々と言い、ダモクレスはウンウン唸る。

 これが、最強の二十一人が戦えない理由。王国の外ではほぼ無力だから。


「……気に喰わねぇな。この国の王族ってのは、自分たちさえよけりゃいいのかよ」

「そうさね。だからあたしらは下を鍛え育てるのさ」


 ウィルは歯ぎしりをし、ガーネットはそんなウィルに近づき、頬をそっと撫でた。


「ふふ、いい顔じゃないか。惚れちまいそうだよ」

「さ、触んじゃねぇよ……」

「おや、照れたのかい? 可愛いじゃないか」


 ウィルをからかうガーネットは、どこか楽し気に見えた。

 話は終わり、ガーネットが締めくくる。


「明日は早朝に出発だ。今日はさっさと寝なよ」

「おやすみなのである!!」

「明日、迎えにくる。支度を済ませておくように」


 ガーネット、ダモクレス、アルノーは帰った。

 アルフェンたちも解散し、アルフェンは自室のベッドにダイブした。


「明日か……」


 仰向けになり、右手を掲げる。


「……そういえば」


 右目が召喚獣の世界を捕らえた瞬間、ダモクレスの経絡糸を掴み拳の軌道を反らした。

 ダモクレスの拳だけでなく、全ての攻撃に通じるなら……もしかしたら、新しい戦術になるかもしれない。


「……よし!!」


 アルフェンは気合を入れなおし、明日に備えて眠りについた。

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