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任務へ向かう前に

 フェニアがS級に加入したことを伝えると、ほんの一時間足らずで制服が届いた。

 サフィーとフェニアはすっかり打ち解け、今はサフィーの部屋でお茶を飲んでいる。

 魔人討伐に向かうまであと二日。談話室で教科書を読んでいたアルフェンは思い出す。


「あ、そういえば……フェニアに魔人のこと言ってないな」


 魔人討伐。

 全七体確認されている魔人は神出鬼没で、いきなり現れては村や町を破壊したり、魔獣を引き連れては大暴れするそうだ。

 討伐にA級召喚士がB~D級召喚士の軍隊を連れて向かったが、あっさり返り討ちにあったとか。

 だが、アルフェンは思う。なぜ特A級……王国最強で歴戦の英雄である二十一人は動かないのか。

 それに、いくら強力な召喚獣を宿しているとはいえ、アルフェンはまだ十五歳だ。こんな子供に大の大人が討伐を頼むのは、よく考えるとおかしい。


「……まぁいい。俺は戦うだけだ。な、モグ」


 右腕に話しかけても返事はない。

 モグとの約束───魔人を倒す。それは、アベルだけではない。アルフェンがこの世界で生きるために、残り六人の魔人を全て倒さなければならない。

 アルフェンは、戦う覚悟を決めていた。

 すると、寮の入口のドアが開く。


「……お前だけか」

「おう、ウィル。どこ行ってたんだ?」

「町で飲んでた。明日出発だし、しばらく酒は飲めないからな」

「おま、酒かよ……ってか、お前いくつだ?」

「十七。もう成人してるんだよ、ガキ」

「二個上……年上だとは思ってたけど」


 この世界では十六歳で成人。酒も飲める年齢だ。

 ウィルは帽子を脱ぎ、壁にかけた。

 冷蔵庫から水の瓶を取り出し飲み干し、もう一本取り出してアルフェンの向かい側に座る。

 

「『傲慢』の魔人か……『色欲』の前の準備運動だな」

「お前、魔人を舐めない方がいいぞ。二十一人の召喚士でも勝てなかったんだから」

「知るか。その二十一人とやらは魔人が出ても戦わず、オレらに任せっきりじゃねぇか。お前、その辺はどう考えてんだよ?」

「……なにか理由があるんだろ」


 メテオールやガーネットは言った。『制約』と。

 それが何を意味するのかアルフェンにはわからない。

 とりあえず、ガーネットの教科書を読む……すると、魔人について書かれていた。


「魔人。『暴食』、『色欲』、『傲慢』、『憤怒』、『怠惰』、『強欲』、『嫉妬』の名を冠する七人のヒト型召喚獣。魔帝が召喚した最悪の災厄で、二十一人の召喚士でも倒すことができなかった、か……」

「お前、『暴食』をぶっ殺したんじゃねえの? オレより弱いお前でも倒せたんだ。大したことねぇだろ」

「…………」


 アベルは確かに弱かった。

 大きな口のバケモノ。アルフェンが『硬化』を使い難なく倒せた。

 でも、他の六人が弱いとは限らない。


「油断はできない。ウィル、今のうちにいろいろ決めておこうぜ」

「…………まぁ、聞いてやってもいい」


 その後、フェニアとサフィーが部屋から出てきたので、ウィルにフェニアを紹介した。

 四人で召喚獣の能力や技を打ち明け、連携できるような技もいくつか考える。

 夜は、ウィルが手料理を振舞い、フェニアが驚いていた。

 風呂に入り、あとは寝るだけ……その時だった。寮の玄関ドアがノックされた。

 たまたま近くにいたアルフェンがドアを開けると、若い騎士風の男がいた。


「あなたは、確か……アルノーさん?」


 二十歳くらいの若い騎士が、アルフェンに言う。


「明日、S級校舎前の広場に集合と、ダモクレス隊長から命令だ」

「校舎前?」

「そうだ。全員……新しく入った少女も含めて、必ず来るようにと」

「わかりました」


 アルノーは小さく頷くと、何も言わず立ち去った。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 出発の前日。

 アルフェンたち四人は、S級校舎前に集まった。

 校舎前にはダモクレス、ガーネット、そしてアルノーの三人がいた。

 ガーネットは、四人を順にみる。


「明日、魔人討伐に行ってもらうお前たちに、いろいろ教えておかないとねぇ。そっちの新入り、聞いたと思うけど、S級初の任務だ。気合入れな」

「は、はい!」


 停学中は学業はお休み、学園の施設は使えない。

 だが、任務……王国からの依頼を聞くことはできる。ちなみにこの魔人討伐依頼は、メテオールが取ってきたものだった。

 ガーネットは、こほんと咳払い。


「魔人ヒュブリス。このアースガルズ王国から数日進んだところにある集落を根城にしていると情報があった。そこの住民たちの間では神様扱いを受けているようだねぇ……なんでも、金銀財宝を集落にばらまいて、人々を肥やしたみたいだ」


 ガーネットは煙管を取り出す。

 アルフェンたちは、黙って聞いていた。


「その集落から近いところにある集落で、奴隷売買も始まったって話もある。肥えた集落の連中が金にモノを言わせていろいろやってるみたいだねぇ……しがない農民だったのに、大金持って変わっちまったようだ。恐ろしいのは、大人も子供も老人も皆、平等に肥えさせているってところか」

「俺たちはどうすれば……?」

「真正面から行けば住民の妨害に合う可能性が高いね。住民は傭兵団を大量に雇い、集落……いや、もう豪邸だらけの町になってるのか……そこを守らせている。傭兵団は少なくともB級レベルの召喚士が揃ってる。お前たちだけじゃ厳しいね」


 フェニアは首を傾げる。


「じゃあどうすれば?」

「考えな。お前ならどうする?」

「んー……おびき寄せる!」

「どこに? どうやって?」

「…………あはは」


 フェニアは敗北した。

 サフィーは考えこみ、ガーネットを見た。


「おばあ様。その集落、普通に入ることはできないのですか?」

「そうだね。買われた奴隷か奴隷商人くらいしか入れないよ。もう町ってか成金の集まりだからね」

「……なら、簡単ですね」

「「え?」」

「……なーるほどな」


 アルフェンとフェニアは「?」を浮かべ、ウィルはニヤッと笑う。


「答えはもう出てんだろ」

「いや、どういう……フェニア、わかるか?」

「わ、わかんない」

「……では、答え合わせを。おばあ様が言ったではありませんか。『奴隷商人か買われた奴隷』しか入れない……つまり、奴隷商人と商品に扮して、町に入るんです」


 サフィーは人差し指をぴんと立て、ドヤ顔で説明した。

 ウィルも同じ考えのようだ。

 ガーネットもニヤリと笑う……アルフェンは、サフィーのドヤ顔がガーネットそっくりだと思った。


「ま、正解だね。奴隷商人になるには奴隷売買許可証が必要だ。だが問題が一つ……奴隷売買許可証は、二十歳以上じゃないと取得できない」

「じゃあダメかぁ……残念」

「小娘、話は最後まで聞きな。なら、二十歳以上のやつを連れていけばいい」


 ここで、アルノーが一歩前へ。

 ガーネットはアルノーの肩に手を這わせた……なぜか手つきが嫌らしく見える。


「こいつはアルノー、ダモクレス直属の部下だ。B級上位の召喚騎士。こいつに奴隷商人となってもらい、アルフェン、フェニア、サフィーを商品として扱って町まで入る」

「おい、オレは?」

「お前はアルノーの補佐だ。お前みたいな凶暴な奴、奴隷の真似なんてできないだろう?」

「はっ、わかってんじゃねぇか」

「あの、俺も補佐が……」

「ダメだね。女二人、男一人が商品としてベストなんだ。一応、そういう趣味(・・・・・・)の奴もいるからね」

「……聞きたくなかった」


 猛烈に気分が悪くなるアルフェンだった。

 フェニアとサフィーは互いに顔を見合わせる。


「奴隷かぁ……なんか嫌だわ」

「私もです。でも……ここで功績を上げなきゃ! 頑張ります!」


 サフィーは意外にもやる気満々だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 方針が決まり、ガーネットの話は終わった。

 そして、ダモクレスが話を始める。


「さて、ワシの番か!! お前たちは魔人と戦いに行くわけだが……一つ、魔人がどの程度の強さなのか、肌で感じてもらおう!!」


 がっはっは!! と、ダモクレスは笑う。

 アルフェンたち四人は首を傾げると、ダモクレスは召喚獣タイタンを呼び出した。

 ウィルは、ふふんと笑う。


「おい、まさか戦うってのか? 魔人がどれくらい強いかなんて知らねーけど、こいつが一人で倒してるんだ。オレ一人でも十分なくらいだぜ」


 ウィルはアルフェンを指さす。

 それに、今回は四人いるのだ。いくら魔人相手でも、寄生型の二人とB級上位の二人、そしてアルノーもいる。負けるつもりはウィルにない。

 だが、ダモクレスは笑って言った。


「『暴食』は最も若く弱い魔人だ。残りの六人はとんでもないぞぉ!! ふふ、それでは四人とも、召喚獣を出すのだ!!」


 ダモクレスのただならぬ気配に、四人は従う。


「……わかりました。奪え、『ジャガーノート』!!」

「チッ……穿て、『ヘッズマン』」

「おいで、『グリフォン』!!」

「おいでなさい、『マルコシアス』!!」


 そして、四人は距離を取り構えた。

 ダモクレスは満足そうにうなずく。


「うむうむ。よく成長している!! 新入りの少女も中々だ!! では───見せてやろう。召喚獣、そして召喚士の真の力を……!!」


 タイタンが構え、ダモクレスも構えた。

 そして───ダモクレスは左手を突き上げる。


「───『融合(アドベント)』」


 次の瞬間、タイタンが光輝き、ダモクレスと一つになった。

 ダモクレスの体躯が三メートルを超え、皮膚が緑色になる。そして、失った右腕が生えてきた。

 顔つきも変わる。だが……ダモクレスの面影が残っている。

 右腕にはボロボロのプレートアーマーが装備された。


「なっ……ま、まさか……き、寄生型!?」


 ダモクレスが、タイタンと一つになった。

 右腕だけ、筋量があり得ないくらい肥大化した姿だ。

 ダモクレスは、先ほどと変わらぬ声で言う。


「違う違う。寄生型ではない!! これが召喚士の最終戦術、召喚獣と心身が一つになった究極の姿。その名も『融合形態(アドベントスタイル)』じゃ!! 二十一人の召喚士が最強と言われた所以が、この姿を持つからなのじゃ!! がーっはっはっは!!」


 あまりにも桁違いな重圧だった。

 ウィルですら大汗を流し、カタカタと手が震えている。

 フェニアも、サフィーも呑まれていた。

 それくらい、召喚獣と融合したダモクレスは強かった。


「さぁ、軽くやろうか!! かかってこぃぃ!!」

「───行きます!!」

「「「!?」」」


 アルフェンだけが動けた。

 右腕を巨大化させ、ダモクレスに向かって走り出した。

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