停学処分
「停学処分ねぇ……」
S級寮の談話室で、ガーネットがしみじみ呟いた。
アルフェンはムスッとし、サフィーはどんより、ウィリアムは大あくびをしていた。
特に、アルフェンの機嫌が悪い。
「なにが停学だよ。最初に向かって来たのはあっちじゃないか……!!」
「甘いね。あっちは生徒会役員で、正式な手順でお前を呼び出した。お前が風紀委員を侮辱したことで風紀委員長が『制裁権限』を発動、それをお前は受け入れず返り討ち……それを見ていた生徒会長が見かねて『停学処分』を下した。妥当なところさね」
「なにが妥当だよ。そもそも、あっちが『S級なんてやめろ』とか言うから」
「証拠がない。風紀委員は揃って、お前が風紀委員会を侮辱したって話している」
「嘘だ!!」
「ああ、嘘だ。だが生徒会長やB級生徒たちがそれを認めない」
アルフェンは黙ってしまう。
さらにガーネットは続けた。
「問題なのは、この件で『S級は危険、自分勝手で学園の輪を乱す』って言いだす奴が絶対にいるってことさ。王国のクソ老害共は等級至上主義連中が多い。メテオールが苦労してこぎつけたS級制度が白紙になる可能性もあるねぇ……」
「…………」
「さて、どうする?」
ガーネットは、煙管を取り出し……少し考えて懐に戻した。学生寮で吸うわけにはいかないと思いとどまったようだ。
すると、ウィリアムが言う。
「オレだったら、舐めた話をする生徒会長とやらを血祭りにあげるけどな」
「あ、良い考えだ」
「馬鹿たれ。退学、んで逮捕収監死刑だ。A級ってのは国の宝みたいなモンだからねぇ」
「ならどうすんだよ、クソ教師」
「……口の利き方がなってないガキだねぇ」
怖い物知らずのウィリアムだった。
ガーネットは大きくため息を吐く。
「仕方ない、答えをくれてやるよ。それに停学はちょうどいい……」
「へ? ちょうどいいって?」
「停学ってことは謹慎。時間があるってこった」
「回りくどいな。さっさと言えよ」
「簡単さね。誰もが認める『実績』を作ればいい。S級召喚士にしかできない実績……例えば、魔人討伐とかねぇ」
ゾワリと、ウィリアムの気配が変わった。
アルフェンですら息を飲む殺気だ。ウィリアムは左手の銃口をガーネットに向ける。
「───何か掴んだのか」
「無礼なガキ、その手を下ろしな。いいかげん、あたしも堪忍袋の緒が切れるよ?」
「ふん……もったいぶらねぇで言え」
ウィリアムは左手を下ろした。
ガーネットはにんまり笑い、我慢できなくなったのか煙管を取り出す。
煙草に火をつけ、大きく吸って煙を吐きだした。
「ふぅ~……アースガルズ王国の郊外で、『傲慢』の魔人が現れた」
「チッ……」
「傲慢……」
ウィリアムは舌打ち、アルフェンは疑問だった。
「傲慢の魔人ヒュブリス。十年ぶりに姿を現した……おそらく、暴食の魔人アベルの死がきっかけだろう……奴は魔人として一部から崇拝されている。理由はわかるか?」
アルフェンとウィリアムは沈黙した───わかるわけがない。
「奴は、一つの村を徹底的に『裕福』にする。金を、宝石を、権力を与え、人間を徹底的に貪欲にする。そして、自らが貪欲にした人間が他者を見下し、傲慢さを見せつける瞬間に恍惚を覚える変態だ。奴に毒された人間はもう元に戻らん……最後には必ず破滅するからな。老若男女問わず、ヒュブリスに関わった人間は全員破滅している」
「……そいつを倒せばいいんですね?」
「ああ。だが……ヒュブリス自体、相当な使い手だ。かつてあたしたちも挑んだが、勝てなかった」
「ふん。そいつなら『色欲』の居場所も知ってるかもな」
「かもねぇ……どうだい、やる気はでたかい?」
「ああ。おかげさまでな」
ウィリアムは首をコキっと鳴らす。
ガーネットは、吸い終わった煙管をしまう。
「魔人討伐。これとない実績だ。寄生型召喚獣を持つお前たちならあるいは……」
「……あの、なんで二十一人の召喚士は動けないんですか?」
「そういう制約だから。それだけ覚えておきな」
「は、はぁ……」
「それと……サフィー!! いつまでも停学ごときでウジウジしてんじゃないよ!!」
「ひゃうぅっ!? はは、はいぃぃっ!!」
ガーネットに怒鳴られ、サフィーはビクッと震えあがった。
こうして、アルフェンたちは停学処分になり……魔人討伐を行うことになった。