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お出かけしましょう

 アルフェンが寮に戻ると、サフィーは談話室で紅茶……ではなく、ホットミルクを飲んでいた。

 私服に着替えており、パジャマで猫のようにソファで丸まっていたのが嘘のようだ。髪も整え、表情もキリッとしている。さすが公爵家の令嬢だ。

 サフィーは、アルフェンを出迎えた。


「お帰りなさい。どちらへ行ってたのですか?」

「生徒会……まぁ、寝てたしな」


 行先は伝えたが、やはり聞いてなかったようだ。

 アルフェンはため息を吐き、ソファへ座る。


「……何かあったのですか?」

「ん、まぁ……その、生徒会に喧嘩売っちゃった」


 サフィーは「は?」みたいな顔になり、アルフェンの向かいに座る。

 ホットミルクはすでに空だった。


「あの、何をしてきたのですか?」

「呼び出された。んで、頭にくることばかり言うから、言いたいこと全部ぶちまけてきた」

「……生徒会ですよね?」

「ああ」

「……あの、アルフェン。生徒会がどのような場所だかご存じなのですか?」

「この学園、生徒たちの頂点だろ」

「そうです」


 アースガルズ召喚学園生徒会。

 この学園最強の八人。『アースガルズ・エイトラウンズ』は、教師と同等の権力を持っている。

 生徒会長リリーシャ

 男子副会長。

 女子副会長。

 生徒会書記。

 生徒会会計。

 生徒会庶務。

 生徒会広報

 生徒会風紀委員長ダオーム。

  

 この下に、生徒会補佐としてB級召喚士たちがいる。

 B級一期生、二期生、三期生、四期生から十人ずつ、成績上位から選ばれ所属するのが学園の決まりだ。

 アルフェンは、サフィーに聞く。


「そういえば、サフィーは一期生主席だろ? 生徒会補佐はいいのか?」

「私、入学式が終わってすぐに寝込んでたので……」

「あ、ああごめん。そうだった」


 ちょっと落ち込むサフィー。

 アルフェンは話を続ける。


「まぁ、俺たちはメテオール校長が決めて作った『S級』だ。生徒会だろうが何だろうが、俺たちの存在を認めないとか知ったことじゃない。言わせておけ」

「そうですね。権力差で私たちの勝ちですね!」

「お、おお……ちょっと意味わからんけど」


 サフィーはにっこり笑った。

 そして、思い出したように手をポンと合わせる。


「そうだ。今日の授業はお休みだそうです。おばあ様とダモクレス様、アースガルズ王城にご用があるみたいです」

「そっか。じゃあ寝るかな」

「待ってください!!」

「うおっ」


 サフィーはアルフェンに向かって右手を突き出した。

 いきなりだったので驚くアルフェン。


「あの、お暇でしたら、城下町に行きませんか? 私、城下町に出かけたことがあまりないので……」

「俺も殆どないぞ」

「え……で、でも、休日とか、お友達と出かけたり……」

「F級は十日に一度、五時間しか外出の許可が出ないんだよ。しかも私服外出は認められてないし、制服着用の上で、外出理由を学園に提出しないといけなかったからな」


 ちなみに、これだけ外出に縛りがあるのはF級だけ。まるで、学園の恥を外部に晒すのを拒むための規則のように感じられた。

 なので、基本的にF級の生徒は外出しなかった。お金もあまり持っていない生徒ばかりだったし、自室で本を読んだり、実家から持ってきたボードゲームやカードを使って寮で遊んでいた。

 

「じゃ、じゃあ!! 一緒にお出掛けしましょう!!」

「えー……」

「大丈夫です!! 私たちには強大なバックが付いています。書類とか許可とかすっ飛ばして外出しちゃいましょう!! 権力とは使える時に使うのです!!」

「お前黒いな……さすが公爵令嬢。裏の顔は真っ黒でした」

「ち、違います!! ああもう、町に行きましょう!!」

「わ、わかったよ」


 アルフェンは自室で私服に着替え、ポケットに財布を入れた。ちなみに、魔人討伐の報奨金という名目で、メテオール校長から少なくない金一封をもらった。

 寮の外には、すでにサフィーが待っていた。


「では参りましょう!! 馬車の手配を……」

「いや、歩きでいいだろ。お前も元気になったんだろ? 身体使え身体」

「なるほど……わかりました!! 歩きで行きましょう……ふふ、なんだかこういうの初めてでワクワクします!!」


 サフィーのテンションがいつもより高く、なんとなく疲れる予感がしたアルフェンだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 学園の門で、少しもめた。

 学園の正門には守衛がいるのだが、外出許可証を求められたのだ。

 もちろん、そんなものはない。

 そして、サフィーのキャラが変わった。


「外出許可証がない者を通すわけにはいかん」

「あら、そんなこと言っていいのかしら? 私と彼を知らないの?」

「何……?」

「|剛(ストレングス)』メテオール校長が設立したS級召喚士を知らないのかしら? そして、私と彼は『女教皇(ハイプリエステス)』ガーネット、『戦車(チャリオッツ)』ダモクレスの教え子よ? この国で最も偉大なる二十一人の教え子に、そんな態度でいいのかしら……? あなたの名前、あと守衛の責任者はいるかしら?」

「ちょちょ、ま、待った。待ってください!!」

「待つ……? 私と彼の外出を邪魔しなければ済むだけなのに、待つ?」

「わわ、わかりました!! お通りください!!」

「ふふ、ありがとう」


 サフィーはにっこり笑い、アルフェンは守衛に気の毒な視線を送り学園の敷地外へ。

 しばらく歩き、アルフェンは言う。


「腹黒だな」

「何のことでしょう?」


 サフィーはいたずらっぽく微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 二人が向かったのは、城下町のメインストリートだ。

 様々な店が数多く並ぶ通りで、飲食店から召喚獣に着せる服まで何でも売っている。かなりの広さを誇る通りで、まともに回ると一日ではとても足りない。

 

「とりあえず、飯食おうぜ」

「はい。甘い物のお店ですね!」

「いや、飯って甘い物なのか……?」


 サフィーは、病気が治ってから元気になった。こちらが真の姿なのだろう。

 とりあえず、アルフェンはサフィーにしたいようにさせることにした。快気祝いということにして、一日付き合ってもいいかと思うアルフェン。


「美味しいケーキのお店を探しましょう。あと、お土産にも買いますよ!」

「だな。冷蔵庫を補充してくれるのは助かるけど、甘い物とか入れてくれないもんな」


 アルフェンとサフィーが授業に出ている間、メテオール校長が手配した業者が冷蔵庫に食材を入れてくれる。そして、最近は最低限の掃除などもしてくれる業者も入るようになった。


「ふふ。私……誰かとこうして出かけるの、初めてなんです」

「そうなのか?」

「はい! 同い年の、しかも男の子と……」


 アルフェンは、ようやく気が付いた。

 これは、俗に言う……『デート』なのでは、と。


 ◇◇◇◇◇◇


 とある飲食店。

 一人の少年が、串焼きを数本買って齧っていた。

 濃い緑色の髪は中途半端に長く、紐で括っている。

 串焼きを齧り、近くのベンチに座った。


「…………」


 ベンチには、古ぼけた新聞が。

 見出しには『召喚学園、魔人に襲われる! 魔人を討伐したのは一体誰なのか!』という文字が書かれており、それを見た少年はギリリと歯を食いしばる。

 

「魔人……」


 少年は、怒りに震えていた。

 そして、荒くなった呼吸を整える。

 少年には目的があった。そのためには、やるべきことがたくさんある。


「……待っていろ」


 少年は、自分自身に言い聞かせた。

 必ず、なさねばならないことを胸に刻み、左手を胸に当てる。

 そんな時だった。少年の隣のベンチに誰か座ったのだ。


「あ!! お休みのことですっかり忘れてました!! アルフェン、校長先生が今日の夜、お話があるそうです!!」

「いや、それ大事だろ。用事って?」

「はい。アルフェンのお話を聞きたいそうです」


 少年と同世代くらいのカップルだった。

 校長という単語から、二人は召喚学園の生徒。


アルフェンが(・・・・・・)倒した魔人(・・・・・)について(・・・・)話を聞かせてほしい(・・・・・・・・・)そうです(・・・・)


 少年の呼吸が、ピタリと止まった。

 魔人を、倒した?

 少年は、ゆっくりと隣を見た。


「───」


 黒髪、赤目の少年───アルフェンだった。

 同世代。魔人を倒した……少年の心に、火が付いた。

 そして……少年は言った。


「おい、お前……魔人を倒したの、お前なのか?」

「え、あ……おいサフィー、バレたぞ」

「き、機密でしたよね……あの、申し訳ありません。このことは内緒で……」

「お前が魔人を……そうか、じゃあ……聞かせてもらおうか」

「「え?」」


 少年は立ち上がり、アルフェンに左手を向けた。

 親指を立てて、人差し指を向ける。まるで銃のように。

 アルフェンの眼が、目の前にいる少年の《何か》を捕らえた瞬間だった。


「───っ!! サフィー、逃げろ!!」

「え?」

 

 アルフェンは見た。

 隣に座っていた少年の左腕(・・)が、変わっていくのを。

 少年の左腕は、ビキビキと鮫肌のように盛り上がっていく。色は濃い緑で、人差し指が大きくなり筒状へ───まるで『銃』のように。

 アルフェンは瞬間的に察した。

 

「まさか───『寄生型』!?」


 さらに、この『左手』は───何かを『発射』する力だ。

 アルフェンは右腕を変化させ、サフィーを突き飛ばし、右腕で自分の身体を隠す。

 衝撃がきた。


「ぐぅぅっ!?」

「なに……? お前、その右腕……は、オレと同類かよ」


 少年は、かぶっていた帽子を投げ捨てた。

 そして、変化した左腕をアルフェンに突きつける。


「なんだ、お前……その左腕」

「はっ、お前が魔人を殺った召喚士か。聞かせてもらうぜ……テメェがやった魔人の話をなぁ!!」

「……!?」


 ビキビキと、少年の左腕が脈動する。

 アルフェンは、戦いが避けられないと感じ構え、傍ですでにマルコシアスを召喚したサフィーに言う。


「サフィー、いけるか」

「は、はい!! よくわかりませんが……この方、正気じゃありません。鎮圧しないと!!」

「お、おお。なんかお前、強くなったな」

「さぁ、いきますよ!!……の、前に。あなた、何者ですか?」


 少年は、左腕を構えて名乗った。


「オレの名はウィリアム。魔人を殺すために来た!! テメェ、オレの魔人を勝手に殺しやがって……代わりにテメェをブチのめして、洗いざらい話してもらうぜ!!」

「…………よくわかんねーけど、やるなら相手してやる」


 アルフェンの右腕、ウィリアムの左腕が、今まさに激突しようとしていた。

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