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ばいばい、そして

『おい、起きろ』

『アルフェン、おい』

『アルフェン……』

『アルフェンくん、起きて』


 アルフェンは、どこからかそんな声を聴いた。

 ゆっくり目を開けるとそこには……大事な、初めてできた友達がいた。

 

「ラッツ……ハウル……マーロン……レイチェル」


 その背後には、クラスメイトたちがいた。

 全員、名前を憶えている。あまりしゃべったことはないが、同じクラスの友人だ。

 アルフェンは、ゆっくり立ち上がる。

 周囲を見渡すと、何もなかった。真っ白な空間に座っていたようだ。

 

「みんな……俺たち、どうなったんだ?」


 そう話しかけるが、誰も答えない。

 全員、柔らかな微笑を浮かべているだけだ。

 そして───アルフェンの背後に、誰かがいることに気付く。


『アルフェンくん……』

「ラビィ……ここは」


 ラビィはアルフェンにそっと近づき、アルフェンの口を人差し指で押さえた。


『わたしたち、行くね』

「え……どこに? 俺も」

『だめ。あなたは……まだ行けない』

「な、なんで……?」


 ラビィは、アルフェンの胸にそっと触れ、柔らかく微笑んだ。


『あなたは、特別だから……だから、生きて』

「な、なに言って……おい、ラビィ!!」


 ラビィは、アルフェンの傍を通り過ぎ、ラッツたちに合流した。

 アルフェンも傍に行こうとするが、見えない壁に阻まれて進めない。


「ラッツ……!!」

『じゃーな、アルフェン。あ、あのクソ野郎ブッ倒せよ。それとその……寮のベッド下にある秘密の本、おめーにくれてやるよ』

「いらねぇし! おい、待てって……おい!!」

『へへ。じゃーな……元気でやれよ』


 ラッツは消えた。

 

『楽しかったぜ、アルフェン』

「ハウル……ハウル!!」

『ったく、泣くんじゃねぇよ。ま……最後にお前を庇えてよかったぜ』

「なんだよ、それ……」

『ふん。あばよ』


 ハウルも、消えた。


『ありがとう、アルフェン……ぼく、友達でよかったよ』

「マーロン……」

『ご飯、ちゃんと食べてね……体調、気を付けてね』

「……」

『えへへ。あぁ~……お腹すいたぁ』


 マーロンも、消えた。


『そっちのことは任せるわ。こっちは……私に任せて』

「レイチェル……」

『ふふ、私ってうるさかったでしょ? でも……あなたたちのためなんだから』

「知ってるよ……」

『ならいいわ。じゃあ……元気で』


 レイチェルも、消えた。

 他の生徒たちも、アルフェンに挨拶をして消えていく。

 そして、最後に残ったのは……ラビィ。


『アルフェンくん、元気でね』

「ラビィ……」

『あなたは、死んでいない。あなたは特別だから……まだ、自分の本当の力に気付いていない』

「え……?」

『あなたは生きて。わたしたちの分まで……』

「なんだよ、それ……俺も」

『だめ。ふふ、みんなの分まで、がんばってね』

「……それ、辛すぎるって」

『大丈夫。アルフェンくんならきっと……』


 ラビィは、透明な壁のせいで近づけないアルフェンの傍へ。

 そして……壁越しに、アルフェンの口にそっとキスをした。


「な、おま……」

『えへへ。恥ずかしい……最後だから言うけど、わたし……あなたが初恋でした』

「え……」

『初恋って、叶わないね。でも……わたし、満足だった』


 ラビィの身体が透けていく。

 ラビィは、笑みを浮かべていた。


『ありがとう───……』

「あ……」


 ラビィの身体が消え、アルフェンの意識も消失した。


 ◇◇◇◇◇◇


「───あ」


 目が覚めると、アルフェンは座りこんでいた。

 ほんのりと冷たい感触がした。そして気付く……アルフェンの背に壁があり、近くには木や草が生えていることに。

 壁を見ると、どことなく見覚えがあった。


「あ……ここ、リグヴェータ家の裏庭だ」


 リグヴェータ家の裏庭だ。

 アルフェンは立ち上がる。久しぶりに、自分の好きな場所に来た。

 そして───。


『もぐ』

「あ、モグ……そっか、俺……死んだのか」


 足元に、小さな黒いモグラがいた。

 モグをそっと抱き上げ、抱きしめる。


「ごめんな……結局、何もできないまま死んじまった……お前と一緒に、静かな場所で暮らすって夢も果たせなかった」

『…………』

「でも、もうこれからは一緒だ。モグ……」


 アルフェンは、モグを強く抱きしめる。

 すると───。


『アルフェン。お前はまだ死んでいない』

「───え」


 声がした。

 そして、その声が……モグから聞こえた。


『アルフェン。私は……お前に生きて欲しい。命を散らせたお前の友人の分まで、生きて欲しい』

「モグ……お前、声」

『アルフェン。私は……お前の傍で、お前に抱かれるのが好きだった。お前が撫でてくれるのが気持ちよくて、つい甘えてしまった』

「…………」

このままの姿(・・・・・・)で、お前と人生を過ごすのも悪くない……そう思っていた』

「モグ……」

『アルフェン。私の真の力を解放する。そうすれば……お前は生きかえる。そして、同時に『力』を手にする……その『力』で、魔人を討て』

「え……」

『私の、真の名を呼ぶんだ。そうすれば……この仮初の姿に眠る真の力が、全てお前の物になる』

「それじゃ……お前はどうなるんだよ」

『消える。でも……私は後悔しない。姿や形が変わっても、お前を想う心は、お前と共にある』


 モグは、そのつぶらな瞳をアルフェンに向けたまま言う。

 真の力、真の姿……アルフェンは、そんなもの欲しくなかった。


「そんなのいらない!! 俺は」

『アルフェン。生きてくれ……お前を救った友人のためにも、お前に生きることを望んだ女の子のためにも、生きてくれ』

「モグ……」

『さぁ、私の真の名を呼ぶんだ───』

「───っ」


 アルフェンは、震える唇でその名を呼んだ。

 そして、モグの身体から一気に力が解放されていくのを感じた。

 モグの身体が透き通っていく。


『アルファン、私は……お前の召喚獣で幸せだった』

「モグ……モグぅ……俺、俺」

『泣くな……言っただろう? 私という存在は消えるが……心はずっと、お前の傍に。もちろん……お前の友人たちもだ』

「……うん」

『アルフェン。魔人を倒せ……平穏を守るために、戦うんだ───』

「ああ……わかった……っ!!」

『それと───今まで、ありがとう』

「───ああ」


 モグが消え───アルフェンの意識も消えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 リリーシャとアベルが衝突する寸前───二人は、圧倒的な『何か』を感じて止まった。

 リリーシャはアベルの後ろ、アベルは自分の背後から感じた『何か』を確かめるため、リリーシャに堂々と背を向ける。これほど隙を見せてもリリーシャは動かない……それほどの『何か』があった。


「なんだぁ? ……おいお前、死んだんじゃねぇの?」


 アベルが話しかけたのは……間違いなく殺したはずの少年、アルフェンだった。

 胸に大きな穴が開き、全身から血が流れている。

 だが、その眼だけは、ギラギラと光っていた。


「気持ち悪ぃなぁ……もう一回、死んどけやぁ!!」


 アベルの両手から放たれた白炎が、アルフェンを包み込もうとした。

 だが───そうはならなかった。なぜなら、アルフェンの立つ地面から、漆黒の『棒』がせりあがり、白炎をかき消してしまったからだ。


「あ、あぁ? おいおい、オレの炎を……なんだその棒?」

「…………」


 もはや、この場にいる全員がアルフェンに釘付けだった。

 生徒も、リリーシャも、ファルオの召喚獣越しに見ていた教師たちも……そして、報告を受けて飛んできた校長のメテオールもだ。

 アルフェンは、砕けて血濡れの右腕を水平に掲げる。

 動かしただけで軋み、血がボタボタ滴り落ちる。だが、アルフェンは全く気にしていない。

 そして───告げた。




「来い───モグ……いや……『ジャガーノート』!!」




 ジャガーノート。

 そう呼ばれた『棒』は、姿を変えた。

 漆黒の棒、ではなかった。棒は太くなり、先端が五つに割れた。

 割れたのではない。広がり、動いた。

 それは五指。五本の指だった。

 五指が、生物のように動き、アルフェンに向かって飛ぶ。そして……巨大な漆黒の『腕』が、アルフェンの右腕を握りつぶした。


「ぐぅぅぅあがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!?」


 黒い腕は、アルフェンの腕を喰らいつくした。

 同時に、消失したアルフェンの腕に取って代わるように姿を変える。

 ボコボコと脈動し、龍麟のような漆黒の皮膚になり、二の腕から先が籠手を着けたようなフォルムに変わる。

 全ての変化が終わり───アルフェンも変わった。

 異形の右腕を供え、首の皮膚が右半分だけ黒くなっていた。

 右目。白目の部分が赤くなり、瞳が黄金に変化───まるで、召喚獣のような眼だ。


「お、おいおい……へ、変身かよ?」

「───めぇは」

「あ?」

「……めぇ、は」


 アルフェンは、ブツブツと何かを言っている。

 アベルは聞き取ろうと、首を傾げ耳を向けた。

 そして───アルフェンが動いた。




「てめぇぇは絶対に許さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」




 飛び出したアルフェンの右拳が、アベルの顔面に突き刺さった。

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