ともだち
「う、ぐ……」
アルフェンは、もの凄い衝撃を受けて壁に叩きつけられ、そのまま何回か全身に衝撃を受けた。
気が付くと、全身に猛烈な痛みを感じて目が覚め、目を開けると理解できない光景が広がっていた。
「…………???」
校舎が、半壊していた。
横長の木造校舎が半分ほどなくなり、木々や草木も吹っ飛んで更地になっていた。
まるで、もの凄い衝撃を受けて全て吹っ飛んだような。
「な、に……っぎ、あぁぁ……っ!?」
起き上がろうとしたら、右腕に猛烈な痛みが走った。
恐る恐る首を動かして右腕を見ると……アルフェンの右腕は、木の破片が突き刺さり変な方向に曲がっていた。
アルフェンは青ざめ、ガタガタ震える。
「い、っづ……あ、ぁぁぁ……なにが、なにが」
右腕が動かない。
そして、背中が痛み左足も痛む。
よく見ると、全身ボロボロだった。制服が千切れて血がにじんでいる。
「……えっ」
そして、気が付いた。
アルフェンの周りに、何人ものクラスメイトが転がっていた。
アルフェンは震えた……なぜなら、どう見ても……死───。
「アルフェン……」
「っ……ハウル……ハウル?」
「よ、よぉ……」
「ハウル!!」
アルフェンのすぐ近くに、ハウルがいた。
だが、両足が折れて曲がっており、全身血まみれだ。
アルフェンは身体を引きずり、ハウルの元へ。
「おい、なにが……おい」
「デカい声出すな……身体に響く……落ち着け、落ち着け」
ハウルは、アルフェンに言いつつ自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
大きく深呼吸をし、血まみれの顔を上げる。
「見ろ……校舎、半壊してる……たぶん……なにか、デカいのが落ちてきた……」
「しゃ、喋んな……っぐ、くそ、今助けを」
「ああ……ラッツ、マーロン……レイチェル、は?」
「……探す。お前は動くな……」
アルフェンは、自分の身体を確認する。
血は出てボロボロだが、右腕以外は動く。
不思議と、痛みが少なくなっていた。右腕の怪我も受け入れ、アルフェンの身体に力が入っていく。
立ち上がり、もう一度教室内を確認……そして、絶望した。
「…………ぅ」
ひどい、本当にひどい有様だった。
校舎は半壊。血の匂いと呻き声があちこちから聞こえる。
衝撃に巻き込まれた生徒が、何人もいる。中には……もう、死んだ者もいた。
「…………」
アルフェンの眼に、涙が溜まった。
だが、左腕で目をこする。
「みんな……動ける人、いるか? みんな……!!」
動けると言っても、かろうじてだ。
大声を出すと右腕に電気が流れたような衝撃が走る。
すると、何人かの生徒がヨロヨロと立ち上がる。
その中には、ラッツがいた。
「アルフェン……」
「ラッツ、無事だったか……よかった」
「無事じゃねーよ……全身いてぇよ」
ラッツは、背中が酷く裂けていた。
そして、ほぼ無傷のレイチェルがラッツを支えている。
「……私をかばったの」
「へ、気まぐれだし……気にすんな」
「お前……かっこいいな」
「へ、うるせ」
二人は大丈夫そうだ。
アルフェンは、爆発前に近くにいたマーロンを探す。
そして、見つけた。
「ま、マーロン!!」
「ぁ……」
マーロンは、腹に材木が突き刺さった状態で壁に座りこんでいた。
下手に動かせない。アルフェンは歯ぎしりをする。
すると、レイチェルが叫ぶ。
「みんな!! 動ける人は集まって!! 怪我人の救助と助けを呼びに行く!!」
レイチェルの指示で、動ける男子一人に助けを呼びに行かせた。
残りの動ける人は、怪我人を校舎の外へ運び、下手に動かさないでおく。
中には……死者もいた。レイチェルが涙を流しながら運び、アルフェンも歯を食いしばる。
そして、大体の救助を終え、救援を待つことになった。
アルフェンは、マーロンの傍にいた。
「マーロン、しっかりするんだ」
「ぁ……ぅ、ん」
「大丈夫。きっと助かるから……怪我治ったらメシいっぱい食おうぜ。ラビィに肉頼んでさ」
「あ……うん」
マーロンは、弱々しく頷く。
顔色が悪く、呼吸も弱々しい。早くしないと命が危険だ。
ラッツとハウルも、マーロンの傍にいた。
「あーくそ……おいマーロン、死ぬなよ」
「ラッツ、変なこと言うな……おいアルフェン、おめーも無理すんな」
「大丈夫……っぐ」
アルフェンは、右腕を押さえた。
適当に添木をして、制服を破って腕に巻く。
あとは、救助を待つだけ───。
「おー? おうおう、人間いっぱいいるなー……あーあ、なんかよわっちい匂いしかねーや」
そんな声が、聞こえてきた。
声の方を見ると……妙な男がいた。
黒い肌、白い髪……そして、頭にはツノが生えている。
にんまりと口を開けて笑い、見えた歯がギザギザしていた。
意味が分からなかった。なぜ、こんなところに部外者が……?
すると、レイチェルが男性に近づいて言った。
「あの、あなた!!」
「んー?」
「外部の人ですよね? 申し訳ないけど、助けてください!!」
「ん、いいよー」
「よかった。あの、すぐ職員室に行って、先生たちに───」
ボジュ……と、水音がした。
「……え?」
「助けてやる。へへ、まずは前菜かな」
レイチェルの胸に大穴が空き、男の手には心臓が握られていた。
レイチェルの眼がぐるんと周り、そのまま倒れそうになる。だが、男が身体を掴み支える。
「んぁ~……む。むぐむぐ……んん、若い女の肉、うまぁ」
男は、レイチェルの心臓を食べた。
そして……口を開くと、あり得ないくらい巨大化した口が、レイチェルを丸呑みした。
「…………え、レイチェル?」
「うん。まぁ美味かった……でも、もっとうまい肉いっぱいありそうだ」
「レイチェル……レイチェル!!」
「ラッツ!!」
「てめぇぇぇーーーッ!!」
ラッツが立ち上がり、男に向かって走り出した。
男はラッツを見て下をペロッと出す。
「男はイラネ」
右手をラッツに向けると、白い光が発射された。
光はラッツを包み、半身を蒸発させる。
「ごぶっ……ぁ」
「ラッツゥゥゥゥゥッ!!」
半身を失ったラッツは、そのまま倒れた。
そして、男は周囲をキョロキョロする。そして、にんまり笑った。
「よし。女を食って男は殺そう。んで、メインディッシュといきますかぁ!」
男───アベルは、両手に光を纏わせ、近くの男子に向かって炎を放つ。
炎は一瞬で男子を包み込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「女の子いっただきま~す!」
「ひっ……いやぁぁぁっ!───っが」
女子は一瞬で首を刈り取られ、そのまま丸呑みにされた。
アルフェンは、ラッツに駈け寄る。
「ラッツ……ラッツ!!」
「ぁ……わ、りぃ……お、れ……ダメ、だ……わ」
「ラッツ……」
アルフェンは、涙が止まらなかった。
半身を失ったラッツから血が止まらない。内臓もごっそりえぐられた。
だが、ラッツは……笑っていた。
「アルフェン……楽し、かった……ぜ……」
そして、ラッツは息絶えた。
アルフェンは、残されたラッツの手を握りしめ泣いた。
そして───気付いた。
「───え?」
半壊した校舎の向こう側に───姉のリリーシャがいた。
リリーシャだけじゃない。兄のダオームとキリアスも、見覚えのあるB級の上級生たちも、全員が揃っていた。
なぜ、助けに来ない。
なぜ、こちらを見ているだけなのだ。
なぜ、今も襲われている生徒ではなく、アベルを見ているのか。
そして───アルフェンは気付いた。
「───あ、フェニア……」
「───っ」
フェニアが、アルフェンを見て……目を反らしたのだ。
助けに、来ない。
つまり……見捨てた。はなから助けるつもりなんて、ない。
幼馴染のフェニアが、アルフェンを見捨てた。
「ば、っか野郎……!!」
「っ!?」
アルフェンの身体が転がった。
横からの衝撃……すぐにそちらを見ると、ハウルが男の足にしがみつき、マーロンがアルフェンを突き飛ばしたとわかった。
「逃げろ、アルフェン!」
「ハウル!!」
「へへ、楽しかったぜ……ありがとよ!!」
「なんだこいつ? じゃま」
アベルは、ハウルの背中を踏みつぶした。
足が背中を貫通し、ハウルは息絶える。
そして、マーロンが。
「アルフェン……にげて」
「マーロン離せ!! お前も」
「ぼく、もうダメ……きみだけでも、にげて」
「マーロン!!」
アルフェンは、涙が止まらなかった。
マーロンが血を吐き、最後の力でアルフェンを突き飛ばした。
気が付くと……生き残ったのは、マーロンとアルフェンだけ。
そして───。
「あ、死んだ。じゃあお前で最後ね……おぉ? あっちにいっぱいいるじゃん……しかも、どれも美味そうな匂い!!」
アベルは、後方にいるリリーシャたちに気付いた。
事切れたマーロンを蹴り飛ばし、アルフェンに手をかざす。
「じゃ、死ね」
「……っ!!」
アルフェンは、アベルの手のひらを見て思った。
死ぬ。でも……なぜか怖くない。
すると、アルフェンの近くの地面から、黒いモグラが出てきた。そして、アベルの足にくっついて暴れる。
『もぐ!!』
「あん? なんだこれ」
『もぐーっ!!』
「モグ!! やめろ……やめろ!!」
「ったく、メシの邪魔すんなっての……」
『もぐ!?』
モグは踏み潰された。同時に、アルフェンも血を吐く。
召喚士と召喚獣は一心同体。どちらかが傷付けば片方も傷付く。
そして、今度こそアルフェンの命が───。
「じゃ、ばいばーい」
アベルの手が白く光り───。
「だめぇぇぇぇぇーーーッ!!」
アルフェンの前に、桃色の髪の少女が割り込んだ。
そして、白い光が桃色の……ラビィの胸を焼き尽くす。
「ご、ふ……っ」
「あーっ!? 女の子じゃん!! やっちまったぁ~……ったく、いきなり出てくんなよなぁ!!」
「…………え」
ラビィが崩れ落ち、しゃがみ込んだままのアルフェンに寄りかかった。
「…………ご、めんね」
「は……?」
「あ、はは……わた、し……あなたの、こと……」
「お、おい……おい?」
「…………」
ラビィは、静かに死んだ。
アルフェンをかばい、その命を落としたのだ。
「…………」
「ったく。もういいや。じゃーな」
「あ───」
一瞬だけ、胸が熱くなった。
そして───アルフェンの胸に大穴が空き、そのまま意識が消失した。
この日。たった一人の魔人の襲来で、F級の生徒が全滅した。