表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/178

それは突然の

 アルフェンはいつもと同じように起床。顔を洗い、髪を整え、食事当番だったのでF級寮生の朝食を作る。

 今日はマーロンとラビィの三人だ。スープを作り、パンを焼き、野菜を炒める。それをパンに挟んで出すだけの野菜サンドは、もはやおなじみだ。

 料理にもすっかり慣れたアルフェンたちだが……今日は、ラビィの様子がおかしかった。


「ラビィ、どうしたんだ?」

「あ……えっと」


 アルフェンは、焼けたパンに切り込みを入れながら質問した。

 ラビィは少しうつむき、なぜか悲しげに言う。


「実は……E級の昇格が決まったの」

「お、そうなのか? 昇格試験、俺ら全然ダメだったもんなー」

「あはは。ボクも自信なくって……」


 マーロンに言うと、足元にいたミニブタのピッグがブヒーと鳴いた。

 モグも、ウサギのモモちゃんと戯れている。

 だが、やはりラビィは悲し気だ。


「わたし……ここにいたいな」

「ここって……F級か?」

「うん。みんな優しいし……わたし、召喚士になんて興味ない。モモちゃんと一緒に、この国じゃない別の場所で暮らせればそれで……」

「はは、俺と似てるな」

「え……?」

「俺も、召喚士になんて興味ない。モグと一緒に、ここじゃない国で畑でも耕しながら暮らしたい。それに……このクラスは好きだ。友達、いっぱいできたからな。なぁマーロン」

「え、えへへ……なんか恥ずかしい」


 マーロンは、でっぷりした顔を赤らめ笑った。

 アルフェンは、本心を告げる。


「ラビィ、昇格してもお前は俺たちの仲間だ。等級が上がっても、必ず召喚士にならなきゃいけないってわけじゃない。そうだ! E級になると学食使えるし、寮に食堂や売店もあるんだろ? そこで肉持ってきてくれよ!」

「あ、それいいかも!」


 アルフェンとマーロンはラビィに期待を込めた眼差しを送る。

 それを見て、ラビィはクスっと笑った。


「ありがとう、二人とも」

「おう。E級でも頑張れよ」

「あ、あれ……? 今の、冗談なの?」


 アルフェンとラビィは、仲良く笑い声をあげた。


 ◇◇◇◇◇◇


 F級の生徒たちが授業を受けている間、本校舎の方では騒ぎになっていた。

 アースガルズ召喚学園の遥か上空で、魔人の反応が確認されたのだ。

 職員室にいた教師の一人、ファルオ教師が言う。


「魔獣かと思いきや魔人とは……この反応、大きい……!!」


 ファルオ教師の肩には、一羽のフクロウがとまっている。

 感知を主な能力とする『ホルス』が、ガタガタ震えていたのだ。


「我がホルスがここまで怯えるとは。ええい、こんな時に限って校長も教頭もいないとは」


 職員室には、三十名ほどの教師がいる。

 だが、戦闘系の召喚獣を操る教師は五人しかいない。残りの教師は現在、戦闘系召喚獣を持つ生徒たちを連れ、アースガルズ王国の敷地の外で演習を行っているのだ。

 すでに、教師の一人が伝令に走った。だが、上空にいる魔人が暴れ出したら止められない。

 ファルオは、教師たちに言う。


「やむを得ませんな。戦闘職の教師を中心に魔人迎撃の布陣を敷きましょうぞ!」

 

 すると、意見が出る。


「だが、我々だけでは」

「時間稼ぎ程度にしかならん。校長に連絡を!」

「戦闘系召喚獣を持つ生徒も参加させるべきだ!」

「まて、いくら高い等級だろうと実戦経験がなくては」

「上級生は演習か……こんなときに!!」

「その前に、生徒の避難を!!」


 職員室内が騒がしくなる。

 戦うべきか、守るべきか、避難するべきか。

 様々な意見が飛び交い、もはや混乱寸前だった。魔人の襲来など、この辺りではもう何年も起きていない事件なのだ。

 すると、ファルオ───ではなく、オズワルドが叫ぶ。


「静粛に!!」


 静かで、威厳に満ちた声だった。

 職員室内が静まり返り、オズワルドはファルオに聞く。


「ファルオ先生。魔人の様子は?」

「え、ええっと……現在、睡眠中ですな」

「では、生徒たちは?」

「は、はぁ。上級生の七割が野外演習、下級生のB級以上も同行し、C級・D級の生徒は演習場にて待機中」

「つまり、E級とF級は残っている。ということですね?」

「…………そう、です」


 ファルオは、猛烈に嫌な予感がした。


「では、校内に残っている見込みのある生徒だけ避難誘導を。それ以外の生徒は教室内で待機」

「ま、まさか……お、オズワルド先生、あなたは……」

「こうしている間にも魔人は目を覚ますやもしれぬ。至急、生徒を避難させろ。避難が済んだら我らも演習場へ!!」


 ファルオは、一気に青ざめた。ほかの教師も同様だが、オズワルドに意見する胆力のある教師はいなかったのだ。

 青ざめたファルオに、オズワルドは淡々と言う。


「必要ないものは切り捨てる。どうせ見込みのないガキだ。死んだところで親も悲しまない」

「…………」


 ファルオの身体は、カタカタと震え出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンたちF級の生徒は、ぼろ校舎の中で教科書を読んでいた。

 オズワルドは来ない。いつも遅れてくるが、今日はやけに遅かった。


「はぁ~、おっせぇなぁ……まぁ来なくていいけど」


 ラッツは、教科書を放り投げて机に突っ伏している。

 レイチェルが何度か咎めたが、すでに諦めていた。

 すると、教室のドアが開かれオズワルドが入ってくる。


「───ラビィ、来なさい」

「え?」

「きみに用がある。私と一緒に来なさい」

「あ、はい……」

「ほかの生徒は自習を続けなさい」


 それだけ言って、ラビィとオズワルドは退室した。


「なんだぁ?」

「さーな。それよかアルフェン、マーロン、カードでもやろうぜ」

「お、いいね。授業サボってやる背徳感、たまにはいいよな」

「ぼ、ボク弱いよ……?」

「おいハウル、オレも誘えよ!」

「パス。だってお前弱いしすぐ顔に出るからつまんねーんだもん」

「んだと!?」

「ちょっとそこ、静かにしなさい!」


 レイチェルに叱られ、アルフェンたちはけらけら笑う。

 ハウルはカードを起用に捌き、レイチェルに言った。


「レイチェルみたいなタイプが強いんだよ。なぁ、勝負しないか?」

「…………」


 周りを見ると、すでに自習している生徒はいない。

 レイチェルは苦笑し、ハウルの向かいに座った。


「お、いいね」

「……まぁ、たまにはね」

「よし! みんなでやるか」

「おい、オレも入れろよ!」

「あはは。楽しいね」


 ハウルがカードを切り、一枚目を配ろうとした瞬間───。




「いぃぃぃやっはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




 恐るべき衝撃が地面を揺らし、アルフェンたちのいた校舎の半分を吹き飛ばした。

 

「あーよく寝た。さぁぁ~て……飯の時間だ!!」


 『暴食』の魔人アベルが、空から降ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ