表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/178

エピローグ④/リグヴェータ・メモリー

 アースガルズ王国にあるリグヴェータ公爵邸に、リリーシャはいた。

 広い執務室に響くのは、書類を書く筆の音のみ。

 長い濡羽色の髪は丁寧にまとめられ、服装もドレスではなく召喚学園の制服だった。

 リリーシャは、女性で初めての公爵として、執務に追われていた。

 学園は長期休暇が始まったおかげで、仕事漬けの毎日だ。


「キリアス」

「はい、姉上」

「こちらをまとめておけ」

「はい」


 書類をキリアスに渡す。

 書類整理、誤字脱字チェック、計算。どれもキリアスの得意分野だった。おかげで、仕事が捗る。

 反対に、ダオームは書類仕事が全くできない。

 キリアスとダオームにはリグヴェータ家が管理することになった領地を任せることになっている。キリアスは全く心配ないが、ダオームに関しては不安だった。

 腕の良い文官を探す必要がある……と、リリーシャは思う。

 キリアスは、書類を確認しながら言う。


「姉上。父上と母上ですが……」

「あの二人にはリグヴェータ領地を任せた。もともと管理していた場所だし、問題ないだろう」

「……ははは」


 父アルバンと母サリー、この二人はすでに引退している。だが、リグヴェータ家が公爵に昇格したため、リリーシャだけでは仕事が回らない。なので領地の一つを任せたのだ。

 もともと、リグヴェータ家が男爵だったころに任されていた僻地を父母に任せた。

 なぜか両親ともに文句を言っていたが、リリーシャは知らないふりをしていた。

 だが、キリアスにはわかった。


「姉上なりの制裁ですか……」

「何か言ったか?」

「いえ、なんでも」


 アルフェンを都合のいい道具として扱おうとした報い。

 たぶん、そんなことだろうとキリアスは思った。まさか、家から除名されたアルフェンの評判を利用し、アースガルズ王国で自分たちの地盤を固めようとしていたなんて。実の両親にしても不謹慎だった。

 リリーシャは、そんな二人のために辺境地であるリグヴェータ領地の管理を任せた。恐らく、数年はアースガルズ王国には来れないだろう。


「ダオームはどうした?」

「あー……兄上はその、町にスカウトへ」

「……なに?」

「えっと。自分に任された領地に軍隊を作るとかで、召喚ギルドに行って優秀な召喚師をスカウトするとか」

「…………」


 思わず頭を抱えてしまう。

 軍隊を作るなぞ、謀反と取られても仕方ない。

 魔帝大戦が終わり、優秀な召喚士はかなり国に残った。ダオームのスカウトに応じる者もいるだろう。

 だが、それ以前に……ダオームはまだ卒業もしていない。

 

「……やはり、あいつに領地を任せるのは不安だな」

「あ、あはは……」


 ちなみに、キリアスとダオームは領主代行ということで準男爵の爵位を与えられている。念願の爵位にダオームは興奮していたが、アルフェンが男爵から侯爵へ昇格したのを聞いて歯ぎしりをしていた。

 リリーシャは、こほんと咳払いをした。


「……ところで、アルフェンはどうしている?」

「イザヴェル領地へ行ってます。あいつも、卒業したら自分の領地運営がありますからね。今のうちにいろいろ勉強をしているんじゃないですか?」

「イザヴェル領地か……『愚者』にして『世界』を救った英雄アルフェン・イザヴェルの領地。その恩恵にあやかろうと、移住希望が殺到しているとか」

「他国からの移住も増えているようです。街道整備も始まり、あそこは世界各国の流通拠点になるかもしれませんね」

「……ふむ。キリアス、手紙を書け」

「え?」

「アルフェン宛にな。公爵家として一度、挨拶しないとな」

「え、行くんですか?」

「視察の必要はあるだろう?」

「…………(素直じゃないなぁ)」

「何か言ったか?」


 リリーシャに睨まれたが、キリアスは苦笑した。

 魔帝大戦を終え、リリーシャは変わった。

 堅苦しい雰囲気は少しあるが、こういう冗談も言えるようになったのだ。

 すると、ドアが荒々しく開いた。


「姉上!! 聞いてくれ、姉上!!」

「騒々しい……なんだダオーム」

「聞いてくれ!! 町で強そうな召喚士をスカウトしたんだ!! その数実に四十!! わははははっ!! オレの軍隊だ。さっそく領地へ───」

「大馬鹿者!! まったく……そいつらを全員連れて演習場へ向かえ。私が直々に審査してやろう」

「え、審査って?」

「兄上……ただ声掛けして『行く』なんていう人、怪しすぎるじゃないですか」

「そうか? 話の合ういい連中だったが」

「…………」


 キリアスは頭を抱え、キレる寸前のリリーシャはダオームの『軍隊』をたった一人で叩きのめしたという。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夕方。

 ダオームの軍隊を叩きのめしたリリーシャは、屋敷へ戻ってきた。

 キリアス、ダオームも一緒だ。

 すると、夕食前に来客があった。

 名前を聞き、部屋に通す。


「ああ、ようやく会えた。リリーシャ!!」

「……殿下」


 サンバルトだった。

 王位継承権を返上したので、ただの王族だ。

 サンバルトは、しまらない顔で言う。


「リリーシャ!! ボクをキミの傍に置いてくれ。王位継承権を返上したが、キミへの想いは返上できなかった!!」

「…………」

「(おいキリアス、想いを返上ってどういうことだ)」

「(……さ、さぁ?)」


 今日は実に騒がしい……リリーシャはそう思った。

 そして、一つの案を思いつく。


「殿下。学園は?」

「ああ。卒業したよ。きみが公爵としていろいろ忙しくなると聞いてね。優秀な補佐が必要だと思ったんだ」

「なるほど……では、一つ仕事を頼まれていただけませんか?」

「なんでも!! なんでもやるよ」

「では、『ヘイムダル領地』に文官として行っていただけませんか?」

「え」


 ヘイムダル領地。 

 それは、ダオームが与えられた領地だ。

 岩石地帯で鉱物資源が豊富な領地で、大きな町がいくつかある。

 だが、鉱山が多いのでどうも男っぽいところのある領地だ。ダオームに相応しいと思い、与えたのだ。

 

「殿下の学園での成績は非常に優秀です。殿下なら文官として問題ないでしょう」

「え、あの」

「お前たち!! さっそく殿下を連れていけ!!」

「「「「「はい、姐さん!!」」」」」


 リリーシャにボコられたダオームの『軍隊』が現れ、サンバルトを連れて行った。

 ちなみに、軍隊は全員リリーシャに惚れて部下になった。


「リリーシャぁぁぁっ!!」

「殿下、よろしくお願いします」


 リリーシャは、笑ってサンバルトを見送った。

 キリアスは口元をヒクつかせながら言う。


「あ、姉上……さすがに王族相手にやりすぎじゃ」

「いや。メル王女殿下にも許可をもらっている。『サンバルト殿下が来たら好きにしろ』とな」

「むぅぅ? サンバルト殿下がオレの領地に……まぁヨシ!!」


 その後、サンバルトはヘイムダル領地の文官として優秀な働きをすることになり、その優秀さからアースガルズ王国に帰るに帰れないことに。

 結局、現地の女性と結婚し幸せな暮らしをすることになるのだが……それはまた別のお話。


 ◇◇◇◇◇◇


 夕食後。

 リリーシャ、ダオーム、キリアスは、食後のお茶を楽しんでいた。

 

「姉上。姉上は……結婚する予定はないのですか?」

「ない」


 断言した。

 キリアスは何も言えず紅茶を啜る。


「跡継ぎなら、お前たちの子がいる。私は私なりに、貴族として生きていくさ」

「姉上……」

「キリアス。姉上がそれでいいってんなら、いいだろうさ」

「兄上まで……」

「ま、オレだって自分の領地で好きにやるつもりだしな。姉上だって好きに生きればいいさ」

「ふ、お前らしいな……だが、ありがとう」


 リリーシャは紅茶を飲む。

 そして、ダオームが言った。


「それにしても、アルフェンめ……いつの間にか侯爵とはな。だがまぁ、もう会うこともないだろう」

「……ダオーム。結婚式くらいは呼んでやれ。除名したとはいえ、血を分けた身内であることに変わりはない」

「むぅ……まぁ、確かに」

「それに兄上、姉上はアルフェンの領地に視察に行くそうですよ。優秀な護衛が必要だと思いませんか?」

「ふ、ならここに。姉上、あいつのところに行くなら、オレも行きますよ!!」

「あ、自分も同行します。姉上、いいですよね?」

「……やれやれ」


 リリーシャ、ダオーム、キリアス。

 アルフェンの元へ『視察』に向かい、嫌味を言ったり喧嘩をしたりもするが、最終的には仲良く飲み会を開いてお土産をたくさんもらって帰ることになるのだが……それはまた別のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ