表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/178

左きゝの拳銃 /アウトロー・スター

 ウィルとアポカリプスは、アルフェンたちから遠く離れた場所で向かい合っていた。

 剣を構えるアポカリプス、対するウィルは右手で帽子を押さえ、ギラギラした目をアポカリプスに向けている。それが気に喰わないのか、アポカリプスはウィルに言った。


「貴様、その眼をやめろ。胸糞悪い」

「はっ……雑魚決定。おいビビリ野郎、ブルッちまってるところ悪いが、もうお前に勝ちはねぇよ。降参して犬みてぇに鳴くなら許してやらんこともねぇが、どうする?」


 ウィルは絶好調だった。

 これでもかと相手を馬鹿にする。だが、舐めているわけではない。話術もまたウィルの戦術だ。

 アポカリプスは静かに剣を構え、ウィルに突き付けた。


「『宝剣』」

「───何ぃ!?」


 すると突然、黄金の宝剣(・・・・・)が何本も現れた。

 空中に浮かび、切っ先は全てウィルを捉えている。

 馬鹿な───そう思い、ウィルは左手の『ヘッズマン』を向けた。


「行け」

「【機関銃(マシンガン)】───『大暴れ(ファンダンゴ)』」


 ウィルの左手が機関銃となり、飛んでくる宝剣を粉々に砕く。

 戦いは始まった。

 ウィルは左手を狙撃銃に変え、高速で移動しながらアポカリプスを狙う。


「【狙撃銃(スナイパー)】───『一点集中(ワイアット)』」


 跳躍し、空中で狙いを付け───翡翠の弾丸を発射。

 狙いは頭部。頑強な兜に守られているが、ウィルの『貫通』に貫けないものはない。

 勝った───そう確信したウィル。

 だが、ウィルは聞いた。


「───スンスン」


 アポカリプスは、匂いを嗅いだ。

 そして、ほんの少し首を動かし、弾丸を躱した。

 さらに、右手をウィルに向けると……手から『蠅』が飛び出した。


「な、にぃ!?」

「喰らい尽くせ」


 蠅は数千匹はいる。

 ウィルはがむしゃらに『機関銃』をばら撒き、蠅を打ち落とす。

 だが、全てを撃ち落とせなかった。蠅がウィルを襲う。


「ッチ……うざってぇ!!」


 蠅相手に格闘していると、アポカリプスは大きく息を吸った。

 そして、思いきり吐きだす。

 吐きだされたのは息ではない。炎のブレスだった。


「なんだ、とぉぉぉ!? ぐぁぁぁぁっ!!」

「貴様は弱い」

「!?」


 一瞬で接近───された。

 ウィルは動けなかった。正確には、動きがノロく(・・・)なっていた。

 まるで水の中にいるような動き。だが、アポカリプスは通常の速度。

 アポカリプスの剣が振るわれる。


「ぐ───あぁ───っ!?」


 身体を斬られ、ウィルは吹っ飛んだ。

 肩から脇にかけて斬られた。不幸中の幸いか、ギリギリで後ろに飛んだおかげで傷は浅い。

 ウィルは傷口を押さえ、確信した。


「テメェの能力……魔人のだな」


 アポカリプスは、剣を下ろし頷く。


「そう。我が能力は『七大罪』だ。『暴食の魔人アベル』、『傲慢の魔人ヒュブリス』、『色欲の魔人フロレンティア』、『嫉妬の魔人バハムート、同じくレイヴィニア』、『怠惰の魔人ミドガルズオルム、同じくニスロク』、『強欲の魔人ベルゼブブ』、『憤怒の魔人オウガ』の能力を使用できる」

「……チッ」


 つまり、九つの能力を宿した魔神だ。

 確かに最強。ウィルは血をペッと吐きながら帽子を押さえた。


「我は最強。魔人の頂点。我が名は『大罪』の魔人アポカリプス。人間、一度だけ見逃してやる。今逃げれば、ほんの少しだけ寿命が延びるぞ」

「…………」


 ウィルはくだらなそうに肩をすくめた。

 そして、ポケットからスキットルを取り出し口に含み、傷口に向けて霧のように吹きだした。

 さらに、スキットルの中身……スコッチを飲み干す。


「っつぅぅ……あーいてぇ。まぁ、舐めた報いとしておこう」

「……何を飲んでいるのだ?」

「酒。ま、オレの燃料みたいなもんだ」

「不謹慎な……戦いの最中に酒だと?」

「ああ。これがまたいいんだ」


 ウィルはスキットルをポケットにしまい、煙管を取り出す。

 煙草に火を点け、煙管を咥え、煙を吐きだした。


「ふぅ~~~───っ……はぁ、美味い」

「……貴様、戦いを舐めているのか?」

「バーカ。戦いなんざ勝ち負けがはっきりしてりゃそれでいい。それまでの過程なんてクソだね。つまり、オレかお前のどっちかが死ねば終わりってこった」

「……私は、生まれて主に仕えて知った。戦いとは神聖なモノである。それを汚す貴様は……人間は、やはり滅ぼさねば」

「やってみろ。まぁ、死ぬのはテメェだけどな」


 ウィルは煙管を咥えたまま、左手を向ける。


「さぁて、テメェの手札はわかった。つまり……雑魚の寄せ集めってこった。蓋を開けりゃ大したことのねぇ中身だぜ」

「もういい。貴様は消えろ」


 宝剣が再び浮かぶ。

 ウィルは煙管を加えたまま、ニヤリと笑った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ウィルは帽子を押さえ、静かに告げる。


「『完全侵食(エヴォリューション)』───」


 ウィルの姿が変わる。

 鷹のような、隼のような、鷲のような、烏のような───鳥人間とでも言うべき姿へ。背中に大きな翼が生え、全身が異形の姿へと変わる。

 帽子が消え、変異したウィルは両手をアポカリプスへ向けた。

 両手が『拳銃』形態へ変わり、翼が大きく広がる。


「クソ雑魚の能力寄せ集めクソ野郎。どんな能力を持とうが───……オレの弾丸は全てを『貫通』する。諦めてケツ振るなら楽にしてやるぜ?」

「下品なガキめ。姿が変わろうと貴様程度」


 アポカリプスは剣を構える。

 ウィルはふわりと浮かび上がり、弾丸を発射した。

 弾丸は、アポカリプスの身体を貫通するが、すぐに回復───いや、『回帰』した。

 魔人オウガの能力。つまり、最強の自分へ戻している。

 ウィルは舌打ちするが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「くっだらねぇ……!! 喰らえ、『能力貫通弾(ティルフィング)』!!」

「ぬ!?」


 ウィルの放った銃弾がアポカリプスの肩を貫通。

 すぐに『回帰』を発動させるが、肩は治らなかった。

 

「これは……」

「テメェの『能力』そのものを破壊する弾丸だ。オレの『貫通』はあらゆるものを貫通する。人、モノ、時間、空間……そして『能力』も。イメージするのがクソ面倒くせぇから多用できねぇがな」


 一日三発だけの大技だ。

 ウィルは、完全侵食を得たことで、新しい弾丸をいくつか精製できるようになっていた。

 かつて、オウガに歯が立たなかった自分。その無力さに報いるために生まれたのが『能力貫通弾(ティルフィング)』だ。

 ウィルは、左手をアポカリプスに向ける。


「さぁ……テメェの能力、ブチ抜いてやるよ」

「……フン。《回帰》を失ったところで問題ない」

「なら、試してやるよ!!」


 ウィルは急上昇。

 急降下しながら弾丸を連射。アポカリプスは高速で動きながら、黄金の宝剣を数百本生み出し、ウィルに向けて射出。

 ウィルは急降下しながら宝剣を躱す。

 弾丸の雨が飛んでくるが、すべてアポカリプスの半径数メートルに接近すると動きがノロくなる。

 さらにアポカリプスは、口を大きく開けて炎を吐きだした。


「───ッちぃ!!」


 舌打ちし、ウィルは翼を思い切り羽ばたかせる。すると、炎の勢いが少しだけ弱まり、その隙にウィルは再び急上昇。両腕を《機関銃》に変え、雨のようにアポカリプスの頭上へ放つ。


「無駄」


 だが───アポカリプスは、『スロウ』の能力で全ての弾丸をノロくする。

 銃弾は遅いので容易く回避可能だ。アポカリプスはバックステップで銃弾の位置から下がった。

 そして、気付いた。


「遅い」

「なっ」


 ウィルが背後にいた。

 バックステップした目と鼻の先。

 『スロウ』は効いている。ウィルの動きは遅い。

 だが、下がった先にウィルはいた。ウィルの銃口がアポカリプスの背中に触れた。

 放たれた銃弾はアポカリプスの背中を貫通。腹から飛び出た。


「ぐ、オォォッ!?」

「へ、ノロい能力は消えたぜ!!」

「き、さまっ!!」


 アポカリプスが剣を振うと、ウィルの胸に切っ先が触れ斬れた。

 ウィルの胸から血が出る。接近戦はアポカリプスに分があった。

 再び飛ぼうとするが、アポカリプスが急接近する───ウィルを空へ向かわせないためだ。

 光速で振られる剣は、ウィルの反射速度を軽く超えていた。


「ッちぃぃぃ!! この野郎……ッ!!」

「貴様はここで斬る!!」


 接近戦はアポカリプスのが強い。

 現に、ウィルは押されていた。剣をギリで躱すが、反撃できない。

 アポカリプスは剣速をさらに上げる。

 もう能力は必要ない。この距離ならウィルを両断できる。

 

「はハハハハハハハッ!! 主のためにぃぃぃぃぃぃっ!!」

「ッチ……クソが」


 そして───一刀両断するべく、剣が縦に振り下ろされる。


「チェストぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ガァァァァァァァァッ!!」


 ウィルは、掴んだ。

 振り下ろされる剣を、両手で。

 両手から鮮血が吹きだす。

 パワーもアポカリプスが上。ギリギリと押されていく。


「っぐ、ぅぅぅ……!!」

「クハハハハハッ!! このまま両断してやる!!」

「こ、の……野郎」


 アポカリプスは腕力に加え体重をかける。ウィルは両腕を封じられ、ぎりぎりと押されていく。

 剣は、ウィルの頭に触れた……そして、額へ触れ、血が出た。


「終わりだ!! このまま両断してやる!!」

「───ああ、終わりだな」


 ドン!!───と、一発の銃声。

 ジワリと、アポカリプスの腹が熱くなる。

 

「げふっ……? な、にぃ?」

「バーカ……気づけよ、クソ野郎」


 アポカリプスは気付いた。

 ウィルの右足。足の親指が銃口と化し、アポカリプスの腹に銃弾を放った。

 しかも、ただの銃弾じゃない。

 ウィルの切り札。『究極消滅弾(ロンギヌス)』だ。

  時間、空間、存在、命、起源、全。その全てを『貫通』し、破壊する弾丸。一日一発の切り札が、アポカリプスの身体を貫通した。


「ば、馬鹿な……」

「オレの両手を封じたから弾丸は放てないって思っただろ? それこそがオレの狙い。お前の無防備なドテッ腹に銃弾を撃ち込むチャンスをな」

「き、さま……ひ、卑劣、な」

「聞こえねぇなぁ~? へへへ、さっきも言ったがよ、過程なんてクソどうでもいい。勝ちゃあいいんだよ。バァーカ」


 『究極消滅弾(ロンギヌス)』を受けたことで、アポカリプスの存在が揺らいだ。

 さらさらと、徐々に粒子化していくアポカリプス。

 ウィルはアポカリプスから離れ、『完全侵食』を解除して『ヘッズマン』をアポカリプスに向ける。


「ひ、卑劣な、人間め……貴様のような、奴が、いるから……魔帝様、は」

「知るかボケ。つーか、どう考えてもあの女のがやってること悪じゃねぇか」

「……貴様は、知らない。あのお方は、お優しい……」


 最後まで言い切ることなく、ウィルの放った銃弾がアポカリプスの心臓を貫通した。

 アポカリプスは砕け散るように消滅───何も残らなかった。

 ウィルは煙管を取り出し、煙草に火を付ける。


「ま、どうなるかはあの馬鹿次第だろ。あとはあいつに任せて、オレは一服させてもらうぜ」


 そう言い、予備のスキットルを取り出しながら、近くの岩に腰かけた。

 煙草と酒を楽しもうとするウィルだが、やってきたアネルたちに邪魔され、一服はお預けとなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ