最終局面へ
フェニアは、戦場から離れた場所にあった無人の小屋でシーツを見つけ、身体を隠した。
融合を使えるようになったのはいいが、服が無くなってしまうのはきつい。
そのまま上空からサフィーを探すと……見つけた。
マルコシアスに乗り、ゆっくりと歩いていた。
「サフィー!! おーいサフィー!!」
「え、あ……フェニア!!」
グリフォンは高度を下げ、マルコシアスと並ぶ。
二人は顔を見合わせ、にっこり笑って親指をグッと立てた。
「勝ち!!」
「はい!!……あれ、フェニア? 服……」
「破れちゃった。シーツ見つけたからよかったけど……融合使う時は替えの服用意しておこう」
「え、フェニアも融合を?」
「ってことは、サフィーも?」
「はい! おかげで、おっきな黒い狼を倒せました」
「いやー……あたしら、かなり強くなったわね」
「ええ。うれしいです」
ほっこりしたのもつかの間。
アースガルズ王国方面では、黒い煙や爆発音が聞こえてくる。
二人は顔を見合わせ頷いた。
「行こう。アネルやレイヴィニアたちがいるはず」
「はい。私たちにできることはまだあります」
グリフォンとマルコシアスは、アースガルズ王国へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
「でりゃぁぁぁぁっ!!」
アネルは、もう何体目だかわからない魔獣を蹴り飛ばした。
魔獣は血を吐いて転がり、そのまま粒子になって消滅。死ではなく、肉体が消滅して魂だけ『召喚獣の世界』に還ったのだ。時間をかければ肉体を復活させ、また誰かの召喚獣としてこちらに来れる。
だが、人間はそうはいかない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アネルは、疲労していた。
ずっと動きっぱなしで汗だくだ。制服を脱ぎ、シャツ一枚で戦っている。
ドロドロの土まみれで、身体中に擦り傷ができていた。
だが、赤いポニーテールはルビーのように輝きながら揺れている。
「減らないし……ああ、もう、疲れ、たぁ……」
魔獣は全く減らない。
アネルだけで五百体は倒している。完全侵食状態で戦っていたのだが、あまりにも数が多く体力が底を尽きかけ、人間体に戻ってしまった。
今は、こうしてひたすら蹴りまくっている。味方の姿はない。かなり外れの位置にいた。
一旦、撤退を……そう考える。
「……でも、引けない」
引いたら、魔獣は攻めてくる。
引くわけにはいかない。その想いを燃料にし、『カドゥーケウス』は蒸気を吹く。
「あ、いた!! あの赤い髪、アネルだ!! サフィー!!」
「はい!! マルコシアス、『アイスダート』!!」
「グリフォン、『ゲイルダーツ』!!」
氷の槍と、風の杭が降り注ぐ。
やってきたのはフェニア、そしてサフィーだ。
援軍の登場に、アネルの顔はほころぶ。
だが、それが一瞬の命取りになった。
『シャガァッ!!』
「えっ───」
それは、小さな蛇だった。
アネルに気付かれぬよう接近し、隙を狙っていた。
狙いは首。噛まれたら───どうなる。
アネルは目を閉じた。
『ガルルルッ!! ニスロク!!』
『あいあ~い』
すると、横から何かが飛んできた。
その何かは蛇に噛みつく。すると蛇は大人しくなり、粒子になって消えた。
『ふぃぃ、やっと見つけたぞ。ニオイがいっぱいで探すの大変だった』
『はぁぁ~~~疲れたぁぁぁ……眠いぃぃ』
「え、あ、アンタら……」
「うっそ……」
「まぁ……」
アネル、フェニア、サフィーは驚愕した。
そこにいたのは、召喚獣の姿となったレイヴィニアとニスロクだ。
レイヴィニアは虎、ニスロクはナマケモノだったが……サイズがおかしい。
全長十メートルはあったはずなのに、今のレイヴィニアは子犬サイズ。ニスロクも抱っこできるくらいに縮んでいた。
『力を使いすぎた……でも、うちら頑張ったぞ!』
『いっぱい倒したもんね~』
『お前たちが強いのと戦ってるから手伝いにきたけど、終わった───のわぁ!?』
『おぉぉ!?』
アネルはレイヴィニアを、フェニアはニスロクを抱っこした。
「よかったぁぁぁ!! アンタら無事で!! ってか可愛いぃぃぃっ!! もっふもふじゃん!! なにこれ子犬? 可愛いぃぃぃ!!」
『イヌじゃない虎だ!! 力使いすぎて縮んだだけだ。放せーーーッ!!』
「ん~~~もふもふ。ニスロク可愛い!!」
『んん~~~……じつはぼく、ヒト型よりこっちのが過ごしやすくて好きなんだよねん』
「フェニア、私も!! 私も抱っこしたいですぅ!!」
「まってもうちょい……んん可愛いぃ!!」
ひとしきりモフり、ようやく解放されたレイヴィニアたち。
魔獣も片付いたので聞いてみた。
「ねぇレイヴィニア、アンタら、ヒトの姿になれるの?」
『無理。あの姿は魔帝様にやってもらった。こっちが本来の姿だ』
『でも、こっちのがらくぅ~』
「そっか。よし、この辺りは片付いた。みんな揃ったし……フェニア、サフィー。アルフェンとウィルのところへ行こう」
「うん。そうだね……レイヴィニア、場所わかる?」
『ニオイするからわかるぞ! くんくん、くんくん』
「か、可愛いです……」
レイヴィニアは、地面をくんくんする。
サフィーが触りたいのか、レイヴィニアに近づく。だがフェニアに止められた。
フェニアは、遠くを見ながら言う。
「……アルフェン、ウィル。大丈夫かな」
「大丈夫! 考えてみてよ? あの二人が負けると思う? ね、サフィー」
「もちろんです。あの二人は負けません!」
『……見つけた。あっちだ!』
レイヴィニアとニスロクを抱えた三人は、アルフェンたちのいる場所へ向かって走り出した。




