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翆獣と怪鳥、緑と羽

 フェニアは、グリフォンの背中でブチ切れていた。


「あんにゃろぉぉぉっ!! めっちゃムカつくぅぅぅっ!!」


 場所は上空。

 現在、巨大怪鳥ことフレースヴェルグに追われていた。

 ただ追われていたならいくらでも対処のしようがある。だが……厄介なことに、フレースヴェルグの『能力』がフェニアとグリフォンを捉えていたのだ。


『クゥゥォォォォーーーーンッ!!』

「やばい!! グリフォン、『風玉』!!」

『キュィィっ!!』


 怪鳥フレースヴェルグが羽ばたくと、その翼から灰色の羽がばら撒かれる。

 その羽は、意志を持ったかのように空を駆け、狙ったかのようのフェニアとグリフォンの元へ。

 グリフォンは、エメラルドグリーンの風を球状にして自身を覆う。これにより、羽は全て撃ち落とされたのだが……この攻撃が予想以上に激しく、フェニアとグリフォンは攻撃できないでいた。


「あぁもう!! あの羽厄介すぎぃ!! いつの間にかアースガルズ王国があんなに遠く……カッコつけたはいいけど、この魔獣かなり手ごわい……!!」


 フェニアの攻撃手段はグリフォンの風のみ。サフィーのように氷で武器を作り自身が使うということはできない。なので、防戦一方な今の状況ではかなり不利だった。

 さらに、場所は上空。

 空中戦ならS級最強と自負しているフェニア。だが、フレースヴェルグは巨体に合わず相当なスピードで、グリフォンよりやや遅い程度。背後にぴったり付かれ、羽を何度も飛ばしてくる。

 フェニアは悟っていた。


「こいつ……遊んでる」


 そう、フレースヴェルグは遊んでいた。

 ジワジワ、ジワジワと……フェニアとグリフォンを疲弊させている。

 それがフェニアの癇に障った。そう、フェニアはサフィーと違う。

 

「ふっざけんじゃないわよ!! グリフォン、方向転換!!」

『キュイ!?』

「必殺、『グリフィンブレイカー』を使う。覚悟決めなさい」

『……きゅい?』


 マジで?

 グリフォンはそう呟いた。

 グリフィンブレイカーとは、サフィーやアネルとの訓練で身につけた必殺技の一つ。

 必殺技といっても、最大出力で風を纏い突っ込むだけのニュクスプルな技だ。

 フェニアは、勝負に出ることに決めた。これ以上、無駄な時間はかけられない。


「そこのデカい鳥!! 決着つけるわよ!!」

『…………』


 フレースヴェルグは、ニヤリと笑った。

 すると、巨大な翼を何度も羽ばたかせ、大量の羽をばら撒く。

 羽は意志を持ったように集まり、巨大な渦を巻く球体へと成る。

 グリフォンもまた、全身に風を纏い、エメラルドグリーンの球体へ。

 翼を広げ、透き通った鳴き声をとどろかせた。


『キュォォーーーン!!』

「いくわよ!! 必殺、『グリフィンブレイカー』!!」


 風を纏い───フェニアとグリフォンは飛んだ。

 そして、フレースヴェルグの『羽球』も放たれる。

 だが───フェニアは間違えていた。


「えっ」


 グリフォンと『羽球』が衝突した瞬間、グリフォンの風が霧散したのだ。

 意味がわからなかった。

 単純に、力が上というわけではない。


「まさか───」


 フェニアの悪い癖。

 短気で喧嘩っ早い。

 学園に入学してなりを潜めていたが、本来フェニアは短気だった。アルフェンと何度も喧嘩したし、リグヴェータ領地に住む子供たちと喧嘩したことも多い。

 フェニアは、短気であるが故。単独での戦いでは短期決戦を望む傾向が強い。

 だからこそ、読みが浅い。

 フレースヴェルグの能力は羽の操作ではない。


「能力───!?」

『キュォォーーーーーーン!!』


 無数の羽がグリフォンを刻む。だがグリフォンは全力で離脱……フェニアも、何発か羽をもらい血が出ていた。

 フレースヴェルグの能力は『相殺』だ。

 能力による現象に羽をぶつけることで、その威力を相殺することができる。

 フェニアの風に触れた瞬間、その威力を相殺……打ち消された。

 

「う、ぁ……」


 フェニアは、右足と腕に刺さった羽を力任せに抜いた。

 血が出る……制服を破り止血。

 全て、自分の浅さが招いた結果だった。

 

「グリフォン……大丈夫?」

『キュゥゥ』


 グリフォンも無傷ではない。

 身体に小さな羽が刺さり、血も出ている。

 そして、フレースヴェルグは再び羽ばたく。すると、羽が舞う。

 そろそろ、決着の時間である。


「……やっばい」


 フェニアとグリフォンを助ける仲間は、ここにいない。


 ◇◇◇◇◇◇


 怪我の具合を確かめる。

 腕と足から血が出ている。擦過傷も多く、くらくらした。

 グリフォンも同じくらい怪我をしていた。

 だが、血の気の多いフェニアは、痛みを怒りに変えて叫ぶ。


「グリフォン!! ごめん!! でも、こんなところで負けないよね!!」

『クォォォ!!』

「あのデカい鳥め……あたしたちを舐めんなっ!!」


 フェニアは逃げるのをやめた。

 逃げながらではなく、戦いながら攻撃を回避する。

 フレースヴェルグは再び翼を広げ、フェニアたちに向かって羽を飛ばす。

 

「グリフォン、『エアスラスト』!!」


 グリフォンの翼から風の刃が飛び出す……が、フレースヴェルグの『羽』に触れた瞬間、『相殺』される。

 フェニアは舌打ち。だが、これで確信した。

 フレースヴェルグの羽は、攻撃を相殺する。

 つまり……羽が舞うこの状況で、グリフォンの風を当てるのは非常に困難だった。

 

「でも、やるしかない……あのデカい鳥をやっつける!!」

 

 そのためには、『相殺』の羽を躱しつつフレースヴェルグの身体に攻撃を加えるしかない。

 問題は、雨のように降り注ぐこの羽だ。こんなにばら撒いているのに、羽の量が減ることはない。

 フェニアは、グリフォンの背を撫でる。


「グリフォン、任せる。攻撃のタイミングだけあたしに」

『キュゥゥ』


 グリフォンは気合を入れ、翼を広げた。

 フレースヴェルグの羽がばら撒かれる。グリフォンの眼がカッと見開かれ、羽と羽の間を縫うような軌道でフレースヴェルグ本体へ向かっていく。

 そして、フェニアは叫ぶ。


「グリフォン、『ゲイルダーツ』!!」


 ショートソードほどの長さの、杭みたいな『風』がフェニアの手元へ。

 フェニアは振りかぶる。

 フレースヴェルグ本体まで約十メートル。『羽』はグリフォンがほとんど躱した。

 だが、小さな羽が数枚、グリフォンの翼を掠る───が、グリフォンは全く動じず、フレースヴェルグの腹の下へ潜り込む。

 

「くらえっ!!」


 フェニアは振りかぶり、『ゲイルダーツ』を投げた。

 風の杭はまっすぐ飛び、フレースヴェルグの腹に突き刺さる。

 

『ガッ!?』

「チャンス!! グリフォン、好きにやっちゃえ!!」


 フレースヴェルグの身体がブレた瞬間。グリフォンは足の爪に風を纏わせ、ゲイルダーツが刺さり血が出た部分を思いきり引き裂いた。

 大量の血が噴き出すフレースヴェルグの腹。


「よっし!! グリフォン、離れ───」

『ギュィィィィィィィーーーーーーッ!!』

「やばっ……」


 そして───フレースヴェルグは暴れた。

 滅茶苦茶に身体を揺らしたせいで羽がバラバラ落ちてきた。

 その羽は、舞うというより落下。羽にあるまじき速度で落ち、フェニアとグリフォンを傷付ける。


「い、っだ、やっば、グリフォン!!」

『グォォォ……ンッ!!』


 グリフォンは、ボロボロになりつつフレースヴェルグから離れた。

 再び、羽を食らってしまった。

 グリフォンの身体に羽が刺さる。

 フェニアは制服を脱ぎ、グリフォンを止血。上半身下着姿だが気にしていない。

 

「グリフォン、あいつも弱ってる。ケリつけるわよ!!」

『ええ!!』

「あんな奴くらい一人で倒せないと───アルフェンに相応しないもんね!!」

『そうね……サフィーのお嬢さんも、きっとそう思ってる』

「やるわよ。本気の本気……フェニアとグリフォンを舐めんじゃないわよ!!」

『ええ、あたしの相棒。そうこなくっちゃ!!』


 なぜかグリフォンの声が聞こえたが、フェニアは無視。

 召喚獣と真に心を通わせ───叫んだ。


「『融合(アドベント)』!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 それは、エメラルドグリーンの竜巻だった。

 大暴れしていたフレースヴェルグは竜巻に飲まれ、めちゃくちゃに回転する。

 目が回り、ようやく態勢が整うと……竜巻の中心、無風地帯へ出た。

 そして、見た。

 グリフォン。だが、その姿形は変わっていた。

 大きさは先程の三倍強。翼は十二枚に増え、顔つきも非常に凛々しくなっていた。

 そして、その胸の部分に、エメラルドグリーンの宝石が埋め込まれていた。


『【グリフォン・ハイルピュアソウル】……まさか、あたしがグリフォンと『融合』できるなんてね。もうサイッコウじゃない!!』


 声は、宝石から聞こえた。

 グリフォンと融合したフェニアの声だった。

 巨大化し、十二枚の翼を広げた新たなグリフォンは、フェニアの意志によって自在に動かせた。

 ダモクレスと同じ、召喚獣に依存した形態だった。

 

『真っ向勝負。仕切り直しよ……』

『……!』


 フェニアは翼を広げ、前傾姿勢に。

 最初に敗れた特攻を、もう一度繰り返そうとしていた。

 不思議と、二度目は負けない気がしたのだ。


『グリュォォォォォォォォーーーーーーッ!!』

『必殺!! 『トルネード・ギガ・インパクト』ぉぉぉぉぉぉッ!!』


 爆発的な風を纏ったグリフォンの特攻、フレースヴェルグの『羽球』がぶつかった。

 だが、二度目は違った。

 フェニアの特攻が、『羽球』をブチ破りフレースヴェルグの身体に激突。そのままフレースヴェルグを真っ二つに引き裂いたのだ。

 竜巻が収まり、消滅したフレースヴェルグの残滓だけが残る。

 グリフォンは地面に降り立ち、融合を解除。

 フェニアとグリフォンはほぼ無傷だった。


「やった……やったぁぁ!! あたし、『融合』……ああもう、うれしい!!」

『クォォン!! クォォン!!』

「あはは、グリフォンも嬉しい? ありがとー!!」

『……』

「え?」


 グリフォンは首を振る。

 そして、フェニアは気付いた。


「…………」


 フェニアは、すっぽんぽん。下着すら失い、全裸だった。

 どうやらダモクレスと違い、融合後は服が消滅するようだ。

 降りた平原に誰もいないことに感謝しつつ、フェニアは胸と下半身を隠しながらグリフォンの影に隠れた。


「……サフィーのとこ、行こっか」


 グリフォンは、なぜか嬉しそうに首を振った。

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