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『強欲』の魔人ベルゼブブ

 『強欲』の魔人ベルゼブブは、ニュクスによって召喚された召喚獣である。

 ジャガーノートが召喚され、その後ドレッドノートが召喚された。

 ベルゼブブは、ニュクスの研究により生み出された『魔人化計画』の最初の試験体。『召喚獣がヒトの姿を持ち、ヒトの世界で生きる』をコンセプトにした、最初の魔人である。

 実験は成功。巨大な『蠅』だったベルゼブブは、ヒトの姿を手に入れた。


 ベルゼブブ。

 能力は『蠅』で、小型のハエを無限に生み出し、脳に寄生させ自在に操ったり、離れた場所から蠅の目を通して視たり、連絡として使うこともできる万能な能力だ。

 ベルゼブブは、これらの能力を駆使し、ニュクスのためになんでもやった。

 自分と同じ魔人が生み出されれば教育係に、部屋の掃除から料理まで、執事のようになんでもこなした。

 

 そんなベルゼブブだが、ニュクスが封印されたときは我を忘れかけた。

 怒り狂い、魔獣を率いてアースガルズ王国を滅ぼそうとも考えた。だが……ニュクスは必ず復活する。そう信じ、復活後の準備をしてきた。

 他の魔人たちは、ニュクスの復活を信じていたが好き勝手やっていた。何度全員ブチ殺してやろうかと考えたことか。


 そして、ニュクスは復活。

 若い身体を手に入れ、以前よりも強い姿でよみがえった。

 そんなニュクスが望むのだ。

 ベルゼブブの本気が見たい、と。

 なら、それに応えるのがベルゼブブの役目。


 ◇◇◇◇◇◇


 かつて、ベルゼブブは巨大な一匹の『蠅』だった。

 だが、今は違う。改造に改造を重ね、巨大だった姿はヒト型のサイズに。昆虫のハエがヒトの姿になったような、二足歩行の姿はおぞましかった。

 完全に変異したベルゼブブは、蠅の翅を羽ばたかせアネルに言う。


『キーッキッキッキ!! クソガキめがぁ……このオレが喰らい尽くしてやるァ!!』

「きっも!? アンタ、マジでキモイ!!」


 ベルゼブブの身体から数千、数万匹の『蠅』が生み出され……いや、分離する。

 一匹一匹がベルゼブブ。

 アネルに向かい飛んでくる。アネルはあまりに気持ち悪さに顔を歪める。


「え、え……『完全侵食(エヴォリューション)』!!」


 全身機械の乙女となったアネル。

 その判断は正解だった。もし生身の状態だったら、鉄の足を残して蠅に食われていただろう。

 ハエは悪食。死骸や腐った物も平気で食らう。

 全身金属となったアネルに、無数のハエがたかる。


「きもい!? くぅぅっ……『火炎放射器(ファイアバーナー)』!!」


 アネルの両腕がガチャガチャと変形。火炎放射器となる。

 両腕から炎が噴き出ると、蠅が何匹も燃え尽きた。だが、数千数百のハエが燃え尽きたところで痛くも痒くもない。

 ベルゼブブは、上空で笑っていた。


『キッキッキ。無駄だ、蠅はいくらでも生み出される。いくら金属の身体だろうと、オレのハエなら食い千切れる!!』

「っぐ……い、いたたたっ!? 痛い痛い!!」


 なんと、蠅が鎧の隙間に侵入してきた。

 さらに、アネルのボディを少しずつ噛み始めたのだ。いくら金属の身体でも痛覚はある。くすぐったさ、痒さ、痛みがブレンドされ、アネルは滅茶苦茶に身体を動かす。


「くぅぅ!? あぁもう離れ、いったぁぁぁ!?」


 暴れても蠅は集まってくる。

 火炎放射器で焼くが、すぐに大量のハエがアネルを襲った。


「あぁもう……こうなったらぁ!!」

『ぬぅ!?』


 アネルは全身の装甲を展開。蒸気を噴出し蠅を一気に追い払う。

 そして───その隙を突き、背中のブースターユニットを一気に噴射。上空へ舞い上がった。

 狙いは……本体であるベルゼブブ。


「あんたを潰せば!!」

『ほぉ……』

「喰らえ、『熱脚(ヒートスタンプ)』!!」


 熱を込めたハイキックがベルゼブブを襲う。

 だが、そのハイキックは容易く躱された。


「このっ……!!」

『ククク、無駄だ』


 アネルの蹴りラッシュ。ブースターユニットを噴射させての蹴りがカスリもしない。

 ベルゼブブは、アネルの動きを完全に読んでいた。完全な召喚獣としてのベルゼブブは、動体視力が人間を、アネルを遥かに上回っている。

 

『いいだろう。少し相手をしてやろう』

「え───」


 ガギン!! と、アネルのボディに亀裂が入る。

 ベルゼブブの蹴りが、アネルの腹に突き刺さったのだ。


「っが!?」

『ガキが。多少は硬いがそれだけだ。この程度でオレを倒すだと?』

「こ、このっ」

『無駄なんだよぉ!!』

「あ、がぁ!?」


 ベルゼブブの姿がブレた。

 恐ろしい速度で動き回り、アネルの身体に連蹴りを食らわせているのだ。

 ボディに亀裂が入り、なんとかガードでしのぐ。だがそれだけだ。

 攻撃できない。


『ハハハハハハハッ!! どうだ? どうだァァァァァァァァァァ!?』

「う、っぐ……」


 このままではまずい。

 アネルの敗北。それが目の前に来ていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 完全侵食は確かに強い。だが、無敵ではない。

 アネルの場合。全身が機械化し、『ロストテクノロジー』と呼ばれる武器を再現、使用できる『兵装』の能力を使用できる。完全侵食状態では物理攻撃に強く、滅多なことではダメージを受けない。

 それに、現在のアネルは七十七の兵器を再現し使用できる。

 中でも時に危険な『反逆物質砲』の使用は控えていた。単純に被害が広がりすぎる。使えば、半径数キロメートルに存在する生物の鼓膜が破れるほどの衝撃波が周囲を覆い、ヘタをすればそのまま死んでしまう。

 今は、周囲に召喚士や魔獣が多すぎる。

 手元や足で再現できる『兵装』だけを使い、ベルゼブブと戦っていた。

 

「『強欲』の魔人ベルゼブブ……」


 アネルは、蠅を追い払いながらベルゼブブの特徴を分析する。

 能力は『蠅』で、自分の身体から数千、数万の蠅を生み出し操れる。厄介なのは蠅を生み出せる数に上限がないことだ。そして、蠅を寄生させて魔獣を操ったり、蠅同士で連絡をしたりもできる。

 ベルゼブブ自身の戦闘力も侮れない。

 蹴りはアネルと同等の威力があり、完全侵食状態なのに身体能力はベルゼブブがやや優っている。

 さすが、ニュクスの片腕。バハムートやヒュブリスなどとは比べ物にならない強さだった。

 アネルは、蠅を追い払いながらベルゼブブに言う。


「アンタ、すっごく強い。でも───アタシは負けるわけにはいかないの!!」

『は、そりゃオレもだ。魔帝様、主、ああ、オレはあなたのためにぃぃぃぃぃっ!!』

「……ッ」


 ベルゼブブは、両手をバタバタさせ歓喜する。

 全ての行動が『ニュクス・アースガルズ』のため。それがベルゼブブという召喚獣だ。

 アネルは、背中と両足にブースターユニットを形成。上空を飛び回りながら蠅から逃れていく。


『そろそろシメにしてやる!! まだまだ始末しなきゃならねぇゴミがいっぱいだからなぁぁぁぁぁぁぁ!! 【巨悪銀蠅(ベルゼ・ビュート)】!!』

「うげっ……!?」


 ベルゼブブの生み出した蠅が、一つの巨大な蠅となる。

 全長三十メートルを超える巨大蠅は、その巨体に合わない不規則かつ高速の動きでアネルに迫る。ブースターユニットを八個も噴射しているのに、速度は巨大銀蠅が上だ。

 アネルは、全力で逃げる。

 だが───同時に思った。


「───チャンス」


 コバエが全て消えた。 

 正直、巨大蠅一匹ならなんとかなる。

 アネルの『奥の手』───アルフェンもウィルも誰も知らない、アネルだけの最終兵装(リーサルウェポン)。反逆物質砲ではない、切り札だった。

 アネルは、全身のブースターユニットを極限まで噴射。急上昇した。


『無駄だァァァ!! この【巨悪銀蠅(ベルゼ・ビュート)】は狙った獲物を死ぬまで追って喰らいつくす。どこへ逃げようがなァァァ~~~っ!!』


 上空へ飛んでいく。

 雲の上を超えると、気温がぐんと下がる。

 アースガルズ王国が指先より小さく見えた。

 そして、空が蒼から黒へ───さらに、全身が何故か凍り付き始めた。

 それでも、【巨悪銀蠅(ベルゼ・ビュート)】は追ってくる。

 アネルは急停止。方向を変え───【巨悪銀蠅(ベルゼ・ビュート)】めがけて突っ込んだ。


「カドゥーケウス『最終兵装(リーサルウェポン)』!!」


 アネルの全身がバラバラになる。

 四肢が外れ、新たな形となり、ヒト型を超えた最後の変形。

 それは、【戦闘機】だった。

 真紅のジェット機。翼が横に広がり、先端がブレードのように細くなっている。

 ブースターユニットは十二基。翼下部にはミサイルが、尾翼には薔薇のような紋章が刻まれていた。

 

「『カドゥーケウス・オブ・ライトフライヤー』!! ブチ抜けぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 全十二基のブースターが爆炎を放つと、アネルの身体は音速を超えた速度で【巨悪銀蠅(ベルゼ・ビュート)】を一刀両断した。

 そして、一秒も経たないわずかな時間で、戦闘機はベルゼブブの元へ。

 

『え?』

「じゃあね」


 ズパン!! と派手な音と同時に、ベルゼブブの身体は真っ二つになって地上に落下。アネルも急ブレーキをかけて停止したが、ギリギリ間に合わず地上に激突。

 完全侵食状態が解除され、ボロボロになった状態で地面を転がる。

 そして───転がった先にいたのは、身体半分と両腕を失ったベルゼブブだった。

 ベルゼブブは、かろうじて生きていた。


『ば、馬鹿、な……』

「はぁ、はぁ、はぁ……い、ったぁ……」


 アネルは、右足だけ『カドゥーケウス』を装備。引きずるようにベルゼブブの元へ。

 ベルゼブブの身体は、すでに崩れ始めていた。


『……恐ろしい奥の手ですね。まさか、あのような……あなたは、ジャガーノート以上に危険かもしれない』

「あはは……あの戦闘機形態、アタシの切り札だったの。アルフェンたちも知らないのよ。だって、変な形だし、恥ずかしいから……」

『…………最後に、頼みが。どうか、主を……彼女を、殺さ、ない、で……』


 そう呟き、ベルゼブブは粒子となって消えた。

 アネルは、ベルゼブブの残滓を見つめながら呟いた。


「大丈夫。アルフェンは、きっと間違えないから……」

 

 そう呟き、痛む身体を押さえ歩きだした。

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