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レイヴィニアとニスロク、『嫉妬』と『怠惰』

 戦いが始まった。

 魔獣たちの時間が一斉に動きだし、止まっていた魔獣たちは本能のまま走り出す。

 魔獣たちに共通するのは、目が真っ赤に染まっているということ。全てベルゼブブの影響を受け、凶暴性が増し理性が吹っ飛んでいるのだ。

 理性が殆どないので、能力などの使用は不可能だった。

 だが、魔獣の肉体スペックを超える身体能力を限界まで引き出しているので、ただ突っ込んで暴れるだけで『能力』以上の戦いができる。

 突進する魔獣たちの動きが、いくつか止まった。


「守れー!! 防御系召喚獣を持つ者、気張れよ!!」


 部隊長の叫びで、防御系召喚士の召喚獣たちが能力を行使する。

 だが、そもそもの数が違う。

 防御をすり抜けた魔獣たちが押し寄せる。


「装備型、前進!! アースガルズ王国内に入れるなよ!!」

「「「「「オォォォォーーーッ!!」」」」」


 装備型召喚獣を持つ召喚師たちが、魔獣との闘いを始めた。

 近接戦闘で圧倒、遠距離狙撃で撃ちぬき、中距離はその両方を援護。魔獣がやられると煙のように消え、召喚士たちも少しずつ被害が出始めた。

 それでも、戦いは始まったばかり。

 アルフェンたちは、混戦を監視塔から見ていた。


「どうしよう……この混戦を突っ切って、ニュクス・アースガルズの元へ行かなきゃいけないのに!」


 フェニアが言う。メルは考えこみ、上空を見た。

 上空には、飛行型の召喚獣が、魔獣と戦っている。


「……グリフォンだけじゃキツイわね」


 メルは言う。

 すでに、メルは二体の召喚獣を使い、必死に道を探している。

 同時行使は三体が限界。まだ余力は必要だった。

 ウィル、アネルは互いに頷く。


「オレとアネルで道を開く。おめーら、先に行け」

「本気で蹴っ飛ばすからね。サフィー、フェニア、アルフェンをニュクス・アースガルズの元へ運んで」

「お、お前ら……」


 アルフェンはウィルを、アネルを見る。

 二人は決意したかのように頷き、監視塔から飛び降り───。


「待った!」

「まったぁ!」


 レイヴィニアとニスロクに止められた。

 すると、二人に掛けられた『変装』が解けていく。

 『恋人』エンプーサのかけた能力が消え、褐色の肌と白い髪、そして頭部にツノが生えた。二人の魔人としての姿は久しぶりだった。


「にひひ。何度も言うけど、うちらホントはめっちゃ強いんだからな!」

「やる気なかっただけぇ~」

「だから、道はうちらが切り開いてやる!」


 レイヴィニアは、犬歯を見せつけるようにニシシと笑いピース。ニスロクはまったりした笑みを浮かべ手をプラプラさせた。

 そして───二人は、今までにない笑みを見せた。


「ありがと、みんな───……大好きだぞ」

「ばいば~い……」

「まっ」


 アルフェンが手を伸ばした。だが……その手は届くことなかった。

 二人は、監視塔から飛び降りる。

 最後まで、笑っていた。

 そして───……その姿が、変わっていく。


『さぁ───……行くぞ、ニスロク』

『うん、ちび姉』


 レイヴィニアは、小さなヒトの姿から真紅の体毛を持つ巨大虎へ変わった。ニスロクは、灰色の体毛を持つ巨大ナマケモノへと変化する。

 全長二十メートル近い、ヒトが召喚できる召喚獣のサイズを超えた存在。

 レイヴィニアは音もなく着地、ニスロクは着地というより落下し、地面に亀裂を作った。

 召喚士たちがビビる中、レイヴィニアは虎の四つ足を使い走り出した。


『スンスン───……』


 レイヴィニアの能力は『過去臭』だ。

 その地にある『匂い』を嗅ぎ、過去に何があったかをある程度知れる。今は魔獣の匂いそのものを嗅ぎ、その魔獣が何をしたのか、何ができるかを分析した。

 そして、ブタ魔獣のオークの懐へ潜り込む。


『ガァァァァァァ!!』

『ふん。単純馬鹿め』


 レイヴィニアは、オークの棍棒を躱し、そのまま喉に喰らい付き噛み千切った。

 オークは消滅。次の魔獣を相手にする。

 

『邪魔をすんな!! うちは、道を作るんだ!!』


 魔獣は、レイヴィニアの咆哮にビヘンリー、動きを止めた。

 動きを止めた。だが……身体がピクリとも動かない。


『動くな』


 それは、ニスロクの『魔人通信』だ。

 魔獣を操れる能力。だが、召喚獣化したニスロクの能力は強大になっていた。

 操る、なんてものじゃない。これは……『命令』だった。

 ピクリとも動かなくなった魔獣を、ニスロクは思い切り両手で薙ぎ払う。


『ぼくの腕、長いでしょ~?』


 ナマケモノの腕は長く、強烈だった。

 ニスロクは、召喚士たちに向かって言う。


『ぼくが止めるから、みんなでやっちゃって~!』


 仲間だ───召喚士は確信した。

 巨大な虎とナマケモノは、人間の仲間。

 召喚士たちは、攻撃を再開した。

 これを、S級たちも見ていた。


「あいつら……」

「行きなさい。あの二人の意志を胸に!!」


 メルが叫ぶ。

 マルコシアスとグリフォンが召喚され、サフィーとフェニアが頷いた。

 ウィル、アネルも頷く。

 そして、アルフェン。


「行くぞ。あいつらの作った道を!!」


 S級召喚師が、走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 レイヴィニアとニスロクが、召喚獣としての姿で戦っていた。

 二人は、約束通り道を切り開いた。

 アルフェン、ウィル、アネル、フェニア、サフィーは走り出す。レイヴィニアとニスロクが開いた道を、全力で走り抜ける。

 アルフェンは、右腕を巨大化させ思い切り拳を突き出した。


「『獣の一撃(ジャガーブレイク)』!!」


 アルフェンの拳は真正面に飛び、前方にいた魔獣を蹴散らした。

 召喚士たちや、その召喚獣が後に続き、押し寄せる魔獣を相手に戦闘を開始する。

 ウィルは、走りながら言った。


「総力戦だな!!」

「ああ。数じゃ圧倒的に不利だけど、負けてねぇ!!」


 理性を失い凶暴性のみ増した魔獣は、単調な動きしかできていない。

 そこに付け入るスキがある。

 だが、数の多さはやはり脅威。レイヴィニアとニスロクが開けたといっても、すぐに魔獣たちが道を塞ごうと押し寄せる……が。


「ぬぇぇぇいぃぃぃっ!!」

『グォォォォッ!!』


 ダモクレスとタイタンが、アルフェンたちの道を切り開く。


「しゃらくさいね!!」


 ヴィーナスが、大剣を振う。


「さぁ、行けぃ!!」


 アルジャンの『黄龍』が、雷のブレスを吐く。

 頼もしい教師が、制約から外れ大暴れしていた。

 アルフェンたちは頷き、教師たちが切り開く道を進む。


「なんか、すっごい!!……あたし、すっごいパワーあふれてくる!!」

「私も……私もです!! おばあ様、見ててください!!」


 フェニアとサフィーは、笑っていた。

 いろいろな召喚士が、自分たちの道を切り開いてくれる。

 それが嬉しく、力になった。

 そして───それは現れた。


「ギャァァーーーッハッハァ!! さぁさぁ見てください我が主!! 私がぁ!! 私の活躍ォォォォォォンンンンンンっ!!」

「ぎゃぁっ!?」「うげびっ!?」「ぐぇぇっ!?」


 無数のハエが、召喚士たちを包み込んでいた。

 ハエに食われた召喚士は骨だけとなり、召喚獣も消える。

 現れたのは、『強欲』の魔人ベルゼブブだった。

 ベルゼブブは、歪んだ笑みを浮かべアルフェンたちに向かって飛んでくる。背中にはハエのような翼が生え、不規則な動きはまさにハエのようだ。

 アルフェン、ウィルが構えるが───その両肩に手が置かれた。


「───任せて」


 アネルだった。

 赤いポニーテールを揺らし、飛び出した。


「駆けろ───『カドゥーケウス』!!」


 アネルの両足が真紅の装甲に代わり、『噴射口』が形成される。

 そして、人間を超えた動体視力を持つアネルは、ベルゼブブの動きに合わせ『噴射口』の火力を調整。ベルゼブブに追いつき、その身体に蹴りを叩きこむ。

 だが、ベルゼブブもまた蹴りを繰り出し、二人の足は交差するようにぶつかった。


「アネル!!」

「───行くぞ」

「お、おいウィル!? いくらアネルでも、魔人相手じゃ」

「そ、そうよ!! みんなで」

「あいつなら勝つ。それだけだ」

「……信じてるんですね」

「ああ。あいつは強い」


 アルフェンとフェニアは慌てたが、ウィルは信じ、サフィーはそんなウィルを見て笑った。

 ウィルはもう振り返らない。

 アルフェンとフェニアも覚悟を決めた。サフィーはすでに走り出していた。

 アネルを残し走り去ったS級。その背中を見送り、アネルはベルゼブブに向き直る。


「はっ、仲間は行っちまったぞ? テメェ一匹でオレに勝てるのかぁ?」

「アンタ、そんな口調だったっけ?……まぁ、どうでもいいけど」

「は、我が主のために死ねやぁ!!」

「冗談……」


 アネルは構え、不敵にほほ笑んだ。


「行くよカドゥーケウス……ピンク、一緒に駆け抜けるよ!!」


 アネルの両足から、気合の蒸気が噴き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔獣が少なくなってきた。

 アースガルズ王国を襲撃する本隊から抜けた。この先に、ニュクス・アースガルズがいる。

 アルフェンは、魔獣を薙ぎ払いながら走っていた。


「もう少し───っ……何か来るぞ!!」


 アルフェンが叫ぶと、全員走るのを止めた。

 そして、巨大な黒い狼が向かって来た。さらに、上空から気色の悪い怪鳥が飛んできたのだ。

 アルフェンが右手を構え、ウィルが怪鳥を撃とうとすると。


「マルコシアス、『フリーズランサー』!!」

「グリフォン、『エアロダート』!!」


 氷の槍と風の槍が飛んだ。

 黒い狼と怪鳥に当たりこそしなかったが、二体は動きを止める。

 フェニアとサフィーが前に出た。


「ここはあたしとサフィーに任せて。二人は先行って」

「負けません!」

「お、お前らまで……」

「……やれんのか?」

「「当然!!」」


 フェニアとサフィーは、同時に親指を立てた。

 ウィルは「ははっ」と笑い、アルフェンの背中を叩く。


「行くぞ」

「でも、この二体……魔人レベルだぞ。お前たちだけじゃ」

「ったく、心配性が。はっきり言うぜ、オレはこの二人が負けるとは思わねぇ……信じてやれよ」

「ウィル……へへ、そうだな。フェニアとサフィー、任せるぞ!!」

「「任せなさい!!……と」」

「え」


 フェニアとサフィーは、アルフェンの両側へ移動……二人同時に、アルフェンの頬にキスをした。

 ウィルは「ピュウ♪」と口笛を吹く。


「は!?」

「アルフェン、終わったら返事聞かせてね」

「私、待ってますから」

「……ああ!! お前ら、愛してる!!」


 アルフェンは走り出した。

 ウィルは苦笑し、軽く手を振って走り出した。

 フェニアは鼻息を荒くする。


「あたし、あの気色悪い鳥ね。サフィーは狼でいい?」

「ええ。ふふ、マルコシアスが怒ってます……『喧嘩を売られた』って思ってるみたい」

「グリフォン、あんたも落ち着いて。暴れさせてあげるから」


 フェニアはグリフォンに乗り、空へ。

 サフィーはマルコシアスに乗り、大地を駆ける。

 それぞれの戦いが、始まった。

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