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決戦間近②/大人たちの想い

 メテオールは、一人校長室でウイスキーを飲んでいた。

 瓶ではなく樽で、柄杓で掬いグラスに注ぐ。そして、豪快に一気飲みした。

 アルコール度数は七十。火が付く度数であるが、メテオールは全く酔っていない。むしろ、物足りないくらいだった。

 メテオールは、柄杓を捨て、樽にグラスを入れて掬い、一気に飲む。


「……はぁ、やはり酔わん」

「変わらんな、メテオール」


 そして、校長室に音もなく入ってきたのは、『太陽』のガウェインだった。

 ガウェインの手には、一本の瓶が握られている……中身は、ブドウジュースだ。

 ガウェインは、メテオールの真向かいに椅子を持って座る。


「そんな酒より、こっちのがよかろう」

「そうじゃな。ふん、わかっておる」

「何年の付き合いだと思ってる?」


 ガウェインは、真向かいに移動してきたメテオールにグラスをわたし、ブドウジュースを注ぐ。

 そして、メテオールもガウェインに注ぎ、グラスを軽く掲げた。

 ブドウジュースは酸っぱい。でも、ほんのりした甘さがまた心地よかった。


「期日が近いな」

「……そうじゃな」

「封印は、十日後に一時解除される。そうすれば、我らもアースガルズ王国の外で力を振るえる。メテオール……覚悟はいいのか?」

「……うむ」

「お前の『力』がまた振るわれるとはな……」

「…………」


 メテオールは、よぼよぼの手をそっと見つめる。

 少しだけ震えていた。老化からくる震えだ。


「わしも、おぬしも歳を重ねた。ガウェイン……これが、生涯最後の全力になるじゃろう」

「……貴様と決着を付けたかったがな」

「ほっほっほ。わしの勝ち越しじゃな」

「ぐぬぬ……まぁ、一度も勝てなかったがな。我ら二十一人最強のメテオールよ」

「よせよせ。戦いに不得手なのもおるじゃろ? 最強だなんて言うな」


 二人は、ブドウジュースがなくなるまで語り合う。

 そして、共に最後の一杯となり……再び、グラスを合わせた。


「ガウェイン。わしら年寄りはもう、失う物がない……この命を燃やし尽くそうぞ」

「違う。失うモノはある……若者の命だ。だから、守るために戦おう。失うのは、全て終わったあとでいい」

「……そうじゃな」


 そして、グラスを掲げた。


「未来に」

「未来に……ふふ」


 二人は、静かに微笑み……グラスを一気に飲み干した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ダモクレスは、行きつけの酒場で冷えたエールをがぶ飲みしていた。


「っぷはぁぁぁ!! おかわりじゃ!! しばらく飲めなくなるからのぉ!! 今夜は店の酒がなくなるまで飲もうぞ!!」

「やっかましいねぇ。静かに飲めんのか?」

「ほっほっほ。だが、こうして飲むのも悪くない」

「わしゃぁ、やかましいのは嫌いじゃないさね。なぁグレイ」

「婆さんに同意じゃ。ダモクレス、もっとのめのめぃ」

「の、飲みすぎて倒れても平気さ……ぼ、ボクに任せてよ」


 ダモクレスは、一人ではなかった。

 『女帝』ヴィーナス、『法王』アルジャン、『運命』ナクシャトラ、『塔』グレイ、『死神』リッパ-という、特A級召喚士たちと一緒だ。

 わざわざ店を貸し切り、酒盛りをしていたのである。

 グレイは、スルメを齧りながら言う。


「始まるの」

「「「「…………」」」」

「酒が回る前に言っておく。わしは今回、王国全体を『オリハルコン』で覆う。わしの命が続く限り、国内には召喚獣一体すら通さん……お前たち、しっかり仕事せいよ?」

「ふん!! わしに任せろ!! タイタンの全力でひねりつぶしちゃる!!」

「わしもじゃ。最初から『融合』で行くぞい」


 ダモクレスもアルジャンも気合が入っている。

 だが、ナクシャトラだけは違った。


「おいジジイ共……最初から命をすてるつもりの戦いなんてするんじゃないよ。生き残ろうとする戦士が最も厄介でしぶとい。長く戦いたいなら慎重になりな」

「そうだね。あたしはまだまだ死にたくないしそうする。それに……昔と同じだ。あたしらが一人で頑張らなくても、あんたらみたいな馬鹿がいれば背中に傷はつかない。そうだろ?」

「「「…………」」」


 ダモクレス、アルジャン、グレイは黙ってしまった。

 ヴィーナスは、くっくと笑う。


「懐かしいねぇ……お前ら、ガキのころから変わってないよ。年取ったジジイのくせに、ガキみたいにしょぼくれやがって」

「む、むぅ……」

「ガーネットがいりゃ、そう言ったろうね」


 ヴィーナスは、テーブル席にぽつんと置いてあるグラスを見る。

 ガーネット用に注いだワインが、ゆらりと輝いた。


「あいつの元に行くのはもうちょい先だ。お前ら、ガキのケツしっかり守んなよ!」

「うむ!!」

「そうじゃな。やれやれ、反省じゃのグレイ」

「うむ……」

「まだまだガキだねぇ……おいリッパ-、もっと喋んな!!」

「ひっ……だ、だって。口挟めないよ」


 英雄たちは再びグラスを掲げ、怒鳴るように乾杯した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 教会内・枢機卿の間。

 この部屋は、教会の最高権力者である枢機卿の部屋。教会内で最も広く、最も厳重に管理された部屋であり、『審判』ガブリエルの私室兼執務室であった。

 現在、この部屋には三人の男女がいる。

 

「もう間もなく、ですな」


 一人は、ヒルクライム。

 ピースメーカー部隊の補給部隊総隊長であり、リリーシャの側近。


「計画は順調。魔帝討伐後、計画を開始できるわね」


 一人は、ユウグレナ。

 ピースメーカー部隊の狙撃部隊総隊長であり、リリーシャの側近。

 そして、十五歳ほどの少女。


「油断は禁物です。いいですか、この計画は慎重に事を運ばねばなりません。魔帝と魔人、そして魔獣たちを殲滅しつつ、二十一の英雄とS級を葬らねば」

「大丈夫。そのために軍師のあなたがいる。ガブリエル殿」

「ええ、その頭脳なら問題ないでしょう?」

「そうですね。ふふ……」


 枢機卿の間。

 またの名を『仮面舞踏会・本部』だ。

 ガブリエルはクーデターを計画していた。魔帝と魔人、二十一の英雄、S級召喚士の相打ちを狙い、魔帝討伐後、国が疲弊したところでこの国を乗っ取る計画だ。

 ヒルクライムとユウグレナのどちらかが王位に付くかはまだ決まっていない。だが、現王を殺し、王子と王女を始末する計画も当然あった。

 ガブリエルは、小さく息を吐く。


「まずは、生き残ってからですね。二人とも」

「当然。死ぬ気はありませんよ」

「ええ……もちろん」


 クーデター計画は、順調に進んでいた。

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