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ライト・スモーカー

 戦いが終わり、後始末が始まった。

 テュポーンの肉塊は全て消滅し、残されたのは破壊された城下町だった。

 騎士団や国民たち、召喚獣の力で町の復興が始まった。復興は順調に進み、そう遠くない未来、町は完全に復興するだろう。

 死者の埋葬も行った。

 テュポーンの被害にあった国民の数は数百名。国は合同葬儀を執り行い、死者に祈りを捧げる。

 合同葬儀とは別に、個人で埋葬をする者たちも多かった。

 貴族街の外れにある墓地に、S級の少年少女たちは集まっていた。


「うっ……ううぅ、おばあ様……ひっく」

「サフィー……」


 埋葬を終えたガーネットの墓。

 S級召喚士たちは、埋葬の翌日に訪れた。戦いの疲労、近しい者の死……それらを経験したアルフェンたちは、全員が寝込んでいたのだ。埋葬式が終わり、ようやく全員で挨拶に来た。

 アイオライト公爵家の墓地の前に集まり、サフィーが花を供える。

 

「おばあ様……私、おばあ様のおかげで救われました。おばあ様がS級に、アルフェンのところに連れてこなかったら、今もきっと一人……私、おばあ様のおかげで、強くなれました」


 涙を拭い、サフィーは墓前で一礼する。

 アルフェン、フェニアも墓の前で頭を下げた。


「ガーネット先生……俺、あなたのこと忘れません。俺の恩師……いろんなことを教えてくれた。本当に、ありがとうございました!!」

「先生……ひっく、ありがとうございました」


 そして、戦後処理で忙しいはずのメルも来た。

 花を供え、胸に手を当てて祈る。


「王族を代表してお礼申し上げます。ガーネット・シャイン・アイオライト……あなたはこの国を守った英雄……ふふ、きっとあなたは嫌がるでしょうね」


 そして、アネルが前に出る。


「先生。本当にありがとうございました……アタシは、アタシは……もう感謝しかありません。先生のこと、絶対に忘れませんから!!」


 ガバッと頭を下げて上げる。

 泣きそうだった顔は、力強く笑っていた。

 そして、レイヴィニアとニスロク。


「ヒトって脆いな。うちらは肉体が滅んでも魂はあっちの世界に帰る。時間かかるけどちゃんと受肉するし、またこっちの世界に来れる。でも、人間は……人間は、違うんだな」

「寂しいねぇ~……ぼく、ガーネットに会いたいよぉ」

「ニスロク。改めて思うぞ……うちら、とんでもないことをやってたんだな」

「うん……魔帝様の言いつけで、人間たちに酷いこといっぱいしちゃったぁ……」

「もうやらない。いいな、ニスロク」

「うん。ちび姉」


 レイヴィニアとニスロクは、過去を思い出し後悔する。

 これも成長。ガーネットはきっと喜んでいる。全員がそう思った。

 そして───ウィル。


「…………」

「ウィル、お前の番……」

「…………」

「おい、ウィル」

「アルフェン。帰ろう……」

「え、アネル?」

「いいから。ほらみんな、帰ろう」

「……そうですわね」「うん」「そうね……」

「え、おい?」


 フェニア、サフィーに両腕を取られ、メルに背中を押されたアルフェン。

 アネルは振り返り、墓地の入口で止まった。

 ウィルが何を話すのか……たぶん、誰も聞いてはいけない。


 ◇◇◇◇◇◇


 ウィルは、ガーネットの墓に持参したウイスキーをぶっかけた。

 そして、残ったウイスキーを瓶のまま飲み干す。


「っぷは……また飲む約束だったからな。これでいいだろ」


 ウィルは少しだけ沈黙し、口をひらく。


「アルノーの奴、後で来るってよ。『運命』のババァとダモクレスのオヤジも挨拶するとさ。あんた、けっこう人望あるじゃねぇか……」


 墓石に話かけ、やはり自分らしくないと感じたのか、フンと鼻を鳴らす。


「……チッ、オレらしくねぇ。おめぇとはもう語り尽くした。あばよ」


 そう言って、歩きだす。

 何歩か進み、思い出したように止まる。

 そして、胸元からシンプルなデザインの煙管を取り出し、ガーネットが選んだ煙草に火を点ける。


「すぅ───……っぷは。ふぅ……あんたの言う通りだ。これ、慣れると癖になる」


 ガーネットが選んだのは、女性がよく吸う軽めの煙草。果実の葉を乾燥させた、甘めでフルーティーな味わいの煙草だった。

 ウィルは、煙管を咥え帽子を傾けた。


「忘れない……あんたのことも、あんたと飲んだ酒の味も、この煙草も。あんたがオレの心の中で生きてるってんなら、サラのこと頼んだぜ」


 そう呟き、ウィルは歩きだす。

 墓石にかけられた琥珀色のウイスキーが、キラキラと輝いていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 残務処理でアースガルズ召喚学園はてんてこ舞いだった。

 そんな中、リリーシャは王城に呼び出しされた。呼び出した相手は不明。受け取った書状には「至急、王城へ来るように」とだけあった。

 この忙しい時に……そう思いつつ王城へ。


「……はぁ」


 学園の制服をしっかり着こなし、髪も整え化粧もした。

 だが、もしサンバルトのくだらない礼や挨拶、国王の感謝の言葉だけだったら、さっさと帰ろう。そう思いつつ王城へ向かい、門兵に書状を見せた。


「A級召喚士リリーシャ・リグヴェータ。呼び出しに応じて参りました」


 門兵に書状を確認してもらい、案内される。

 王城内かと思いきや、中庭を抜け、その先にある大きな建物だった。


「え……ここは」

「中でお待ちです。どうぞ」


 案内されたのは、大聖堂だった。

 ここにいるのは、『神』に祈りを捧げる聖職者だ。王族とはまた別の、この国になくてはならない存在……そんなのは、一人しかいない。

 扉が開かれ、聖堂の祭壇で祈りを捧げていたのは。


「───……ようこそ、リリーシャ」

「が、ガブリエル枢機卿……!? な、なぜ」


 二十一人の召喚士。そのラストナンバーにして指揮官を務めた『審判(ジャッジメント)』ガブリエル。外見は十代半ばにしか見えず、その美しさは雪の妖精のようだった。

 齢七十をとうに超えているはずだが、あまりにも美しい。

 ガブリエルは祈りをやめ、リリーシャに向かって歩き出す。


「あなたに、お願いがあって呼びました」

「は、はい!」


 リリーシャは跪く。

 ガブリエルはリリーシャの間近で止まり、そっと手を伸ばす。

 伸ばした手は、リリーシャの顎に添えられ、くいっと持ち上げられた。


「ガーネットが死にました」

「……悲しいことです」

「ええ。ですが、悲しんでばかりもいられません。来るべき日が近づいています……我々特A級もまた、戦場に戻らねばならない」

「……はい」


 ガブリエルはリリーシャから手を離す。

 そして、ようやく本題を告げた。


「リリーシャ。あなたに『女教皇(ハイプリエステス)』の称号を与えます。これからは特A級として、A級召喚士を率いて戦いなさい」

「え……」


 青天の霹靂だった。

 特A級。

 A級のさらに上。最強の二十一人しか持たない称号。

 リリーシャは、あっけに取られていた。


「先の戦闘で確信しました。あなたは人を率いる能力に秀でている。ガーネットの後継者はあなたしかいません。これは特A級筆頭であるわたしの判断です」

「……は、はい」


 リリーシャは、返事だけで精いっぱいだった。

 ガブリエルは、優しく微笑んで言う。


「そして、A級召喚士を集めた精鋭部隊を結成します。リリーシャ、あなたは隊長に。A級召喚士の選別から組織運営まで全て任せます。アースガルズ王国最強戦力として、期待しています」

「は……はい!!」


 リリーシャは勢いよく返事をした。

 まだ、気付いていなかった。

 最強の部隊。特A級への昇格。

 つまり、S級とはまた違う、王国最強の戦力を作るということ。

 ガブリエルは、満足そうに微笑んでいた。

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