表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/178

戦闘開始

 案の定、だった。


「グレイ教授。王城の守護はお任せします」

「うむ……」

「リッパー医師。怪我人の治療を。貴族を優先してください。もちろん、爵位の高い順に」

「わ、わかったよ」

「ナクシャトラ。あなたも避難を」

「ヒッヒッヒ……まぁいい」

「トリックスター、あなたは部下を率いて周囲の警護を」

「イエス!! お任せを」

「エンプーサ。あなたも避難なさい」

「は~い。ああ、王城でお仕事していいかしら?」

「メテオール。あなたは」

「学園へ戻らせてもらおう。校長のワシが必要じゃ……文句があるなら相手になるぞ」

「……まぁ、いいでしょう」


 サンバルトを護衛しながら王城へ到着したリリーシャたちが見たのは、召喚士の憧れである特A級召喚士。伝説の二十一人こと『二十一人の英雄アルカナ・サモンマスター』だった。

 『(タワー)』グレイ教授。

 『死神(デス)』リッパー医師。

 『運命(フォーチュン)』ナクシャトラ預言者。

 『魔術師(マジシャン)』トリックスター博士。

 『恋人(ラヴァーズ)』メイクアップアーティスト・エンプーサ。

 そして、召喚学園校長『剛力(ストレングス)』メテオール。

 それらに命令をしているのは、大神官にして聖女、二十一人の召喚師のラストナンバーにして、かつて魔帝との闘いで二十一人を率いた指揮官『審判(ジャッジメント)』ガブリエルだ。

 ガブリエルは、サンバルトを見た。


「これは王子殿下。よくぞご無事で……さぁ、地下特別室へ」

「ああ。私の護衛だが、彼女に頼みたい」


 ガブリエルはリリーシャを見る。


「A級召喚師リリーシャですね。申し訳ございませんが、彼女の力は王城守護に役立てたいと思います。地下までの護衛は、B級召喚士ダオーム、同じくキリアスに任せましょう」

「「ハッ!!」」

「……まぁ、いい。では二人とも頼むよ」


 やや不満そうなサンバルトは、ダオームとキリアスを連れ王城地下へ。

 残されたリリーシャは、ガブリエルに命令される。


「A級召喚士リリーシャ。そのドレスも可愛いけど……制服に着替え、王城守護に回りなさい。ふふ、あなたには期待していますよ」

「はっ!! ……ところで、敵はやはり」

「ええ、魔人ね。それも二体……一体は『色欲』で、もう一体は未確認。まさか、私たち二十一人がいるアースガルズ王国に乗り込んでくるなんてね」


 ガブリエルは、優しく微笑んでいた。

 同性ですら見惚れるような笑みだ。まだ十代にしか見えないが、どう考えてもリリーシャより年上である。


「でも、大丈夫。ふふ……救国の英雄、『愚者(フール)』のアルフェン・リグヴェータが戦っているのでしょう? あなたの弟は立派ね……魔人を退けたら、リグヴェータ家に(・・・・・・・・・)報酬をやらないと」

「お心遣いありがとうございます。では……」

「ええ、よろしくね」


 リリーシャは、着替えるために王城内へ。

 すると……いきなり、何者かに背後から抱きつかれた。


「なっ!?」

「ふふっ! ふむふむ……いいわいいわ、最高ねぇ!!」

「な、あの……なにを!?」


 身体をまさぐられ、髪や頬を撫でられる。

 胸を触られたところで、リリーシャは思い切り肘撃ちを繰り出した。

 肘撃ちは襲撃者の腹に突き刺さる。だが、岩を撃ったような衝撃がリリーシャに伝わり、襲撃者はようやく離れた。


「ごめんごめん。すっごくいい素材を見つけたから興奮しちゃってねぇ……あなた!! あたしの事務所でモデルやらない!? あなたならトップモデルになれるわよ!!」

「…………」


 襲撃者は、『恋人』エンプーサだった。

 王国最高のメイクアップアーティストにして、モデル事務所を経営している。

 モデルになぞ興味はない。というか、それどころじゃない。


「……仕事があるので失礼します」

「あん。つれないわねぇ……でも、諦めないからね♪」

「…………」


 エンプーサは去っていった。

 思わぬ時間を取られた。

 リリーシャは着替え、腰に刀を差し髪をポニーテールに結わえる。

 軽く準備運動をして、王城周辺の確認をしようとした時だった。


「魔獣出現!! 魔獣出現!! 召喚師、迎撃準備ー!!」


 と、聞こえてきた。

 外壁から城下町を見ると、巨大な『肉塊』のような歪な鳥が、何匹も飛んできた。

 リリーシャは刀を抜き、不敵に笑う。


「ガブリエル様に顔を覚えてもらえた……ふふ、ここで武勲を挙げれば」


 腹黒い想いを胸に、魔獣迎撃戦が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 S級召喚士VS『色欲』と『暴喰』の魔人。

 フロレンティアは、その場で跳躍して屋敷近くの樹に飛び移った。


「ふぅ……このまま大騒ぎすれば厄介な連中も出てくるし……わたしは、しばらく見物して逃げちゃいま~す♪ テュポーン、おなかいっぱい食べたら戻っておいで~」

「うん。わかった」


 テュポーンは、全身から触手を生み出し先端部分を大きな『口』にする。そして、アルフェンたちに向けてガチガチ鳴らした。

 そして、首を軽く傾げ……思いついたようににっこり笑う。


「あ、いいこと思いついた! ……ん、しょっと」


 すると、テュポーンの背中が爆発的に盛り上がった。

 まるで巨大な『瘤』だ。膨らみ、瘤はグネグネと脈動を繰り返す。

 そして───驚愕するアルフェンたちの目の前で、巨大な瘤が破裂した。


「いーっぱい食べるには、いーっぱいになればいいんだ! わたしの口、いーっぱい!」

「なっ……」


 アルフェンは、破裂し飛散した肉片が巨大な魔獣に変わっていくのを見た。

 フェニアとサフィーが怯えたように言う。


「う、うそ……ぐ、グリフォン?」

「ま、マルコシアス……どうして」


 そちらを見ると、肉片がマルコシアスとグリフォンの姿になっていた。だが、毛は生えておらず、肉塊が無理やり形を成したような姿で、あまりの醜悪さにフェニアとサフィーは目を背けそうになる。

 いつの間にか、肉片魔獣に囲まれていた。


「いってこーい」


 テュポーンが命令すると、肉片魔獣はリグヴェータ邸の壁をブチ破り駆け出していく。飛べる個体は翼を大きくはためかせ飛んでいった。

 そして、残った魔獣は……アルフェンたちを見てハァハァ唸る。

 テュポーンも、触手と両手の口をアルフェンたちに向けた。


「ごはん、ごはん」


 そして、この状況を見たメルはしばし考え───叫んだ。


「王女命令よ!! フェニアとサフィーは外へ逃げた魔獣を追って。アルフェン、ウィル、アネルは目の前にいる魔人に対処!! フェニアとサフィー、私が指示するからそのように動きなさい!!」


 メルは、マルコシアスに乗った。

 アルフェンたちに叫ぶように言う。


「いい? 増援が必ず来る。絶対に無理をしないように押さえなさい!!」

「「了解!!」」

「…………」

「ウィル、返事をなさい!!」

「ああ……わかったよ」


 ウィルが見ていたのは、この状況を楽しんでいるフロレンティアだ。

 深呼吸し、左腕を『拳銃』に変えてテュポーンに突き付ける。

 アルフェンとアネルは、ウィルを見た。


「心配すんな。もう暴走しねぇよ……多分な」

「……ウィル、援護頼むぞ」

「アタシたち、アンタがいないと厳しいからね」

「フン……」


 アルフェンとアネルは構え、触手を向けるテュポーンに突っ込んでいった。


 ◇◇◇◇◇◇


 マルコシアスは、貴族街の屋敷の屋根を伝い、空を飛ぶ肉片魔獣を追っていた。

 地上と上空。数は相当数……正直、マルコシアスとグリフォンだけでは荷が重い。

 それに、突如現れた魔獣に、貴族街はパニックになっていた。


「マルコシアス、『アイスニードル』!!」


 マルコシアスの周囲に氷柱が何本も形成される。

 屋敷の屋根から飛び降り、地面を這うミミズのような肉片魔獣に向けて放った。


『ぎゅぴぃぃぃ……』


 ミミズは、ジュワジュワと溶けてなくなった。

 だが、休んでいる暇はない。


「な、なんだこいつは!? ご、護衛は何をしている!!」

「ま、魔獣!? や、やれ。やれぇ!! さっさと殺せ!!」


 トカゲやカエルの姿をした肉片魔獣が、貴族の馬車を襲った。

 護衛の兵士が召喚獣を呼んで戦っている。だが、数が多く対処できていない。


「マルコシアス、『クリスタルスピア』!!」


 サフィーが叫ぶ。すると、マルコシアスの周囲に、立派な氷彫刻のような槍が十三本形成された。サフィーはそのうちの一本を掴み、マルコシアスに騎乗したままクルクル回す。

 メルは、思わず「すっご……」と呟いた。


「新技です!! 行きますよー!!」


 マルコシアスが駆ける。

 氷の槍を飛ばすのではなく、操作する。

 マルコシアスの意志で操られる氷の槍は、魔獣を蹴散らしていく。


「やあっ!! だっ!! せいっ!!」


 サフィーも負けてはいない。

 氷の槍を振り、接近する肉片魔獣を薙ぎ払う。

 メルは言った。


「サフィー、強くなったわね!! さすがS級召喚士!!」

「毎日がんばってますから!!」


 と、上空からも声がした。


「あたしだってS級召喚士よ!! グリフォン、『サイクロンノヴァ』!!」


 小規模の竜巻が十三本生み出され、グリフォンの周りをグルグルと舞う。

 フェニアの手の動きと合わせて竜巻が自在に動き、肉片魔獣が貴族や住人に接近すると竜巻で防御し、そのまま竜巻内に巻き込んでズタズタに引き裂く。

 

「フェニアもやるじゃない!!」

「当然!! だってS級召喚士だしー!!」


 フェニアとサフィーは、A級召喚士並みの戦闘力を持っている。

 メルは二人が心配だから同行したが、指示を出す必要も、自分が戦う必要もないと感じていた。貴族街の肉片魔獣は、この二人がいれば問題ない。

 それに……戦うのは、S級召喚士だけではない。


「ぬぅぅぅぅぅんっっ!!」


 どこからか聞こえた叫び。

 そちらを見ると、ダモクレスが肉片魔獣を素手でぶん殴り、肉片魔獣がただの肉片になる瞬間だった。


「「ダモクレス先生!!」」

「少々遅れた。さぁ、一掃するのである!!」


 たった一言。だが、とても力ある一言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ