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召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~  作者: さとう
第七章

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強さを求めて

 ウィルは、自室で筋トレをしていた。

 上半身裸で、逆立ちしながら指だけで腕立てをする。汗が流れ、床にシミを作っていた。

 ウィルは、鍛え抜かれた上半身をしていた。

 腹筋は見事に割れ、筋肉はやや薄いがみっちり詰まっている。食べてもあまり太らない体質で、こればかりはどうしようもない。


「っし……終わり」


 指の力だけで飛び上がり、そのまま立つ。

 机に置いてあったタオルで汗を拭い、次は腹筋を鍛えるため自室にある鉄棒(ウィルが魔人討伐の報酬で自室を改築。トレーニング機器が置いてある)に足をひっかけ、上体起こしを始める。

 ウィルは、日々のトレーニングを欠かさない。

 寄生型の身体能力は、鍛えれば鍛えるほど強くなる。アルフェンやアネル以上の身体能力をウィルは持っていた。

 だが、『完全侵食』だけは持っていない。

 どうすれば完全侵食の力を得られるのか。


「五十、いち……っ、五十……にっ」


 腹筋をしながら考える。

 アルフェンとアネルの話では、同化した召喚獣が語りかけてきたらしい。だが……ウィルは、ヘンリーの声を聞いていない。気付いたら左腕が変わっていた。

 だから、完全侵食を当てにはしない。

 今できるのは、地道に鍛えることだけだ。

 たとえそれが正解ではないとしても。ウィルにできるのはそれしかなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンは、S級寮にあるメルの部屋で、やりたくもない書き物をしていた。

 その手伝いに、フェニアとサフィー、アネルもいる。レイヴィニアとニスロクは早々に飽きたのか、今は姉弟仲良くソファで昼寝をしていた。


「メル、これでいいのか?」

「見せて……ん、誤字がある。これとこれ、書き直し」

「うぇぇ~~~?……はぁぁ」

「そんな嫌そうな顔しないの。いい? 爵位を得るってのはそれだけ面倒なんだから。諸々に出す書類やお手紙がいっぱいあるのよ」

「……うへぇ」

「フェニアとサフィーが手伝わななきゃ十日はかかるわよ。二人に感謝しなさい」


 と、アルフェンはフェニアとサフィーの方を向く。


「二人とも、ありがとな」

「んーん。あたし、おじいちゃんからこういうお仕事習ったし、けっこう得意なの」

「私も、公爵家のお仕事で執務経験がありますので」

「……うぅ、アタシは」


 アネルはお茶係だった。字を書くのが苦手なので仕方ない。

 少し空気が重くなったので、アルフェンは話題を変える。

 メルの方を向き、すこし慌てて言う。


「え、えーっと……そういや、このイザヴェルって領地、ここから近いのか?」

「そうね……馬車で十日くらいかしら」

「そこそこ遠いな」

「山道を超えて進むからね。でも、景色もいいし自然もいっぱいあるいいところよ。イザヴェル領地の名産は山ブドウのワインとウィスキーで、広大なブドウ農園と麦畑があるの。秋になると麦畑がすっごく綺麗なんだから」

「お前、詳しいな」

「まぁね。自国の領土だし当たり前だけど。それより、あなたがそこの領主になるんだから、イザヴェル領土についてもちゃんと勉強しなさいよ。こればかりは『寄生型』とか関係なく、頭の問題だからね」


 アルフェンはそっぽ向いた。

 フェニアやサフィーはクスクス笑い、アネルも笑う。

 ふと、アルフェンはアネルに言う。


「なぁアネル。もしよかったらさ、学園卒業していく当てなかったら、イザヴェル領地に住むか? メルの話だとけっこういいところみたいだし……もちろん、王都に残るならいいけど」

「んー……そうだなぁ。考えとくね」

「ああ。そんときはウィルも連れていくからさ」

「は、はぁ? ちょっと、なんでウィルが関係あるのよ」

「いや、なんとなく……あはは」

「むぅ……」


 アネルは赤面してそっぽ向く。アルフェンとしては気遣ったつもりだが、余計なことだった。

 すると、フェニアが挙手。


「はいはい! あたしは行くからね」

「わ、私も行きます!」

「お、おう。でも、サフィーは公爵家の長女だろ? これから婚約者の話とか、跡取りの話とかあるんじゃねーの?」

「「「「…………」」」」


 なぜか全員黙ってしまった。

 そして、アルフェンを咎めるような視線が突き刺さる。


「アルフェン、あんたほんっと駄目なやつ」

「……うぅ、アルフェンってば酷いです」

「いやーアタシもちょっとこれはないと思うな……」

「罪な男ねぇ……ふふ」

「え、いや、あの……なんで?」


 なぜか居心地が悪くなるアルフェン。

 立ち上がり、トイレに行くフリをして部屋を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 キッチンで水を飲み、再びメルの部屋に戻ろうとすると、ウィルがいた。

 風呂にでも入っていたのか、汗を掻いている。


「おう、ウィル」

「ああ……」

「あのさ、ヒマなら手伝ってほしいことあるんだよ。いろいろ書き物しなくちゃいけなくてさ……はぁ、貴族って面倒くさいわ」

「……おい」

「ん?」


 ウィルは左手をアルフェンに突き付ける。


「オレと勝負しろ……模擬戦だ」

「え……」


 ウィルの左腕が、『ヘッズマン』に変わった。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルフェンは、ウィルに連れられてS級校舎前グラウンドにいた。

 アルフェンは私服のままで、ウィルもシャツとズボンというラフな服装だ。だが、戦意はギラついており、アルフェンはこの戦いが冗談ではないと知る。

 アルフェンは、ウィルに聞いた。


「ど、どうしたんだよ。急に模擬戦とか……」

「お前、最近暴れてねぇだろ? 訓練じゃねぇガチな戦いだ……なまらねぇように、気合を入れてやろうと思ってな」

「……マジでどうしたんだよ」

「……いいから構えろ、行くぜ」

「えっ」


 ウィルは左手をアルフェンに向け、人差し指を突きつけ親指を立て、残りの指を折りたたむ。その姿は、銃を構えるガンマンに見えた。


「穿て、『ヘッズマン』……『拳銃(シングルショット)』」

「な、ちょっ……」


 ズドン!! と、翡翠の弾丸が発射された。

 アルフェンは慌てて右腕を構えた。


「奪え、『ジャガーノート』!!───硬化!!」


 翡翠の弾丸を右手のひらで受け止める。

 弾丸は砕け、翡翠の欠片がバラバラ落ちる。


「い、いきなりアブねぇだろ!!」

「……気付いてんのか?」

「え?」

「……まぁいい。じゃあ行くぜ!!」


 ウィルはアルフェンに左手を向けたまま走り出す。

 寄生型の身体能力。召喚獣を発現させていない状態では、アネルの次に速い。

 アルフェンもウィルを追い、右手を巨大化させたまま走り出す。


「シッ!!」


 ダンダン!! と、銃弾が発射される。

 アルフェンは右手を振り、銃弾を叩き落す。

 ウィルは舌打ちをすると、速度を上げた。


「速い───……ッ!!」


 追いつけないと判断したアルフェンは動きを止め、全神経を集中させる。

 右腕を巨大化させ、『第三の瞳(マクスウェル)』に意識を集中させ、『召喚獣の世界』を視た。

 セピア色の世界に切り替わり───……ウィルの『経絡糸』から発せられる淡い光が、高速で動いているのを捕らえる。


「『機関銃(ガトリング)』───……ファイア」

「───そこか!!」


 ウィルの腕が巨大化し、何本もの砲身を束ねたような形状に変化。移動しながら翡翠の弾丸を発射した瞬間、アルフェンの右手が伸び、ウィルの右足を掴む。


「っ!?」

「捕まえた!!───しゃぁ!!」

「ぐがっ!?」


 ウィルを地面に叩きつけ、右足を掴んだままアルフェンは伸ばした腕を戻す。

 ウィルは右手を拳銃に戻し、アルフェンが腕を戻し切った瞬間に銃口を頭に突きつけ、アルフェンも腕を戻した瞬間にウィルの足を離し、右手をウィルの胸に突きつけていた。

 互いに動かぬまま……ウィルはそっと腕を元に戻す。


「……これで終わりだ」

「……っぷは、あっぶねぇ。引き分けだな」

「ああ……ありがとよ」

「おう。で、なんで急に……って、おい!?」


 ウィルは、模擬戦が終わると同時に歩きだす。

 アルフェンが追いかけようとしたが、なぜか追いかけられなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ウィルは寮に戻り、ベッドに身を投げた。


「…………クソが」


 アルフェンは、強くなっていた。

 初めて戦った時。アルフェンの『硬化』はウィルの弾丸を辛うじて防いでいた。だが、先ほどの模擬戦……アルフェンは、ウィルの弾丸の軌道を完全に読み、硬化した右腕で完全に防いでいた。

 アルフェンは気付いていない。ウィルは全ての弾丸に『貫通』を載せていたことに。

 アルフェンの硬化は、ウィルの貫通を完全に防いでいた。


「……ッ」


 胸にこみ上げるのは、焦り。そして妙なモヤモヤだった。

 まるで、ほんの少し後ろを走っていた奴が、一気に自分を抜いて遥か遠くに行ってしまったかのような……目を閉じると、その先にいるのは一人ではない。

 そして、ほんの少し後ろには、自分より下だと思っている連中が追い上げてきている。

 全員が、戦いを通じて何かを『得た』連中だ。

 暴走し、敗北し、おめおめ逃げてきたウィルとは違う。


「……ちくしょう」


 ウィルは右手で顔を覆い、左手をそっと持ち上げる。


「ヘンリー……何がダメなんだ? オレは、強くなりたい」


 左手は、何も答えない。

 いつも通りの。ウィルが最も信頼する左腕のままだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「おなか、へった……ここ?」

「ええ。ここにたっぷりご飯があるわ」

「くんくん……ほんとだぁ」

「……ふふ、みんな『食べ』なさい。あなたの変質した、得体の知れない『能力』で」

「うん。みんなで食べるね(・・・・・・・・)

「ええ……私は、ここで待ってるから」

「…………」

「ん、なぁに?」

「……あなた、やっぱり臭いね」

「…………そうかしら?」


 何かが、始まろうとしていた。

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